空契 | ナノ
2.夢だと言って (4/5)


「君はトレーナー?」
「まあ、駆け出しの」

大丈夫。嘘じゃない、はず。
だって今なったから。流れだ。ノリだ。

「君が持ってた白い鞄、空だったけど」
「ドロボーに持ってかれましたね。
(鞄、あったんだ……)」

「ああ、ボールは入ってたよ」
「あ、よかった(と言うべきか)」

なんとも言えねーな某水泳選手。違います。そんなに爽快じゃない。
鞄にボールが入っていた……って、モンスターボールの事か。
中は、空だろうか。それともポケモンが?
それってトリップの王道? だが、現実的に考えるとかなりおかしいな。それ。
俺は当然ポケモンを捕まえた記憶なんて、ないし。
……ゲームのポケモンがそのもも引き継がれたりして。いや、有り得ないな。そうなると、俺無双すぎる。

レベル100の上に、厳選や努力値振りに明け暮れていたあの日々を思い返していると、
ゲンは更に質問を続けた。

「何の為に君は此処に?」

「目的もなくさ迷ってみました!」
「『……………』」

それに、無邪気な笑みを浮かべて答えたら、ええ…、と微妙な視線をルカリオから送られた。
ゲンさんは少し困ったように笑っていた。あ、呆れてんのかな……。
そんな彼は、きっと俺を試してるんだと思う。
嘘は俺の十八番。
だが、此処にルカリオがいるので嘘は通じないと思い、一応事実……または“そうあるべき答え”を俺は淡々と答えていく。
だって、相手はルカリオ。波動ポケモンだ。
人や物の波動が見えるんだから、嘘をつけば波動の動き?的なものが変わるだろうし。
彼にはバレるだろうな。
それと、多分ゲンにも。彼のあの目に、嘘はつけない気がした。気がした、だけだけど。

だから、嘘ではない言葉を選んだまでだ。
咄嗟に言える俺ってば最高。
結果的に、ゲンはごまかされてる事は悟った様子だけど、何も突っ込んではこなかった。
ただ、じぃと見詰められたが。

いやぁん、レオ照れちゃう☆
って、ふざけてたらルカリオの飛び蹴りを顔面に喰らいました。
いやいやいやいやいや!!
冗談だからね!? 冗談って分かります!?
ジョークって分かります!? 通じます!!?
つーか飛び蹴りよく利いた!!

いきなり何さ!?

『いや……貴女があまりにもキモ………ゴホンッ、うざかったので、思わず』
「言い直したけど結局効果抜群な言葉には変わりなかったなぅおい!!」

硝子のハートがパリィン。
一撃必殺だ!!
レオは 倒れた。

「大丈夫かい?」
「…いぇす、あいまむ」

「何か違う気がするけど、まあ 大丈夫って事として受け取っておくよ」
「受け取ってくれて構わねぇんスけど、
ルカリオの教育どっかで間違えてませんかねコレ」

「ははっ」

ゲンさんに訴えたら、笑ってかわされました。
カッコイイんだけどね、その笑み。
むかついたから一人、隅っこでぶつぶつ言いながら壁を殴ってました。
美形って良いよねー、なにやっても似合うよねー、むかー。え、ひがみですがなにか。
開き直りながら八つ当たりしてたら、ゲンさんがニコニコ笑いながら迫って来た。
え………何?思わずビクッとしちゃったじゃねーかコノヤロー。

「レオ君」
「はははははははいぃ?」

噛んじった。はっず。てか、その笑顔怖いんですけど。
黒だね。タイプで言うならゴースト、悪。
弱点無しの美形スマイル。
そんな表情の彼が、口を開く。

「君、
何でルカリオの言葉が分かるんだい?

………は?
俺は言葉の通り、絶句して口をぽかーんと開いた。ただし笑顔で。ここ重要。
間抜け顔。
でも、そんなことに一々気にしている暇もなく、俺は頭の中でその言葉を繰り返した。
 

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