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「あ、咲也!これテーブルに持って行ってくれるか?」

「はーい!綴くんお疲れ様!」

「臣クン、これももういいッスか?」

「そっちは待ってくれ、最後にパセリ乗せるから」

「臣さん、生クリームの用意も出来たぞ」

「じゃあ天馬は焼き上がってるパンケーキの上に……あ!コラ十座、今つまみ食いしたろ!」

「………してねぇっす」

「嘘つくな!あとでゆっくり食べれるんだから。お前だって喜んでもらいたいだろ」

「っす……サーセン」

「オカンが怒るの珍しいからテンプレビビってんじゃん」

「こういう時に兵頭のつまみ食いを目ざとく見つけるのはだいたい摂津だからな」

「あ、ちょっとちょっとー!フルーチェさんもサボってないで飾り付け手伝ってってばー!」

「あ?サボってねえよ、俺は監視役だ監視役」

「えー!そんなんいらなくない!?ゆっきーとオレだけじゃ終わんないよ!」

「チッ……仕方ねえな、さっさと指示出せ」

「なんで上からなわけ?腹立つ」

「あぁ?」

「わー!ふたりとも喧嘩はやめてください!」

「あれ、チョコペンは?」

「悪い、固まってたからこっちで湯煎してた」

「あ、すんません!あざす!」

「ただいまー……頼まれてたシュガーパウダーってこれで足りる?」

「至さんおかえりなさい!」

「全然足りるっす、助かりました」

「オケオケ。時間ってまだある?」

「んー、もうちょいあると思うけど……」

「ま、着替えは後でいいか。一成、手伝うよ」

「マ!?助かるんば〜!」

「意外。ゲームでもやり始めるかと思った」

「心外だなって言いたいところだけど、あのふたりのためって名目じゃなかったらそうするだろうね」

「ふーん。ちなみに大量のお返しはしたの?」

「ははは、するわけないよね。破産するし」

「腹立つー」

「あ!真澄くんからLIME来ました!」

「なんだって?」

「監督の買い物がもうすぐ終わりそうだそうです!」

「うーん、こっちの準備間に合うかな」

「商店街じゃなくてショッピングモールの方に行ってるんだろ?まだ店出てないならギリギリ間に合うんじゃないか」

「じゃあ了解って送っておきますね!」

「一応なるべくゆっくりデートしておいでって言っとくといいよ」

「名案。あのストーカー、監督のことになると単純だから」

「あ、万チャンからも連絡来たッスよ!今実家出たって!」

「タイミング一緒でしたね」

「間に合う?」

「摂津家ってどの辺だっけ」

「花学の近くです!」

「それなら少し距離あるし大丈夫じゃない?」

「でもあの双子、無駄に足長いから歩くの早いぞ」

「うーん……じゃあ一応万里に誘導してもらって、少し遠回りして帰ってきてもらうか」

「伝えとくッス!」



普段はこざっぱりとした男性だらけの劇団寮が、今日だけは煌びやかな装飾に彩られ、甘い匂いを充満させている。
大の男が揃ってキッチンに並んでいるなんてなんだか笑える構図だろうが、不器用なりに一生懸命やっているのだから何とか大目に見て欲しい。

お菓子作りは予想以上に手間がかかった。
料理が得意な劇団員がいなければレシピに書いてある呪文みたいな専門用語なんてひとつも理解できなかったし、ケーキひとつ焼くにしてもこんなにたくさんの作業工程があるだなんて知りもしなかった。

女の子はすごい。
俺たちは毎年冬になるとなんとなく浮き足立っているだけだが、彼女たちはこんなに手のかかる準備を経て、場合によっては勇気を出し好きな人に告白までしてしまうのだ。

きっと誰かに喜んでもらいたい、その一心で。
その気持ちが今なら少しだけわかる。

扉を開けたふたりがクラッカーの音に驚いて、真ん丸な目を見合わせてくれるといい。
俺たちが手を引いて中に招き入れると、たちまち笑顔になってくれるといい。

いつも俺たちを救ってくれた。助けてくれた。
いつだって味方になってくれた。大きすぎる悲しみも苦しみも、なんだそんなことかって、笑って一緒に背負ってくれた。

俺たちに返せるものは少ないかもしれないけれど、それでも彼女たちが笑顔になってくれるなら、これから何年かけたって恩返しがしたいって思ってるんだ。

きっと私は何にもしてないよ、なんて、2人して困ったように笑うんだろうけれどね。

おっと、そうしているうちにお姫様たちのご帰宅だ。
玄関の音に反応して我先にと談話室の入口を陣取った劇団員たちの後ろ姿を眺めながら、なんとなく嬉しくなって口角を上げる。


「行かなくていいのか?」


隣に立つひときわ大きな影が、小首をかしげてそう問うた。
俺はうーん、と少しだけ悩む素振りをみせて、それからこくりと頷いて答える。


「俺っち、大好きな人には大好きって言える誠実な男ッスからね!」


今日くらいは不器用なみんなに譲ってやるんだ。

歯を見せてニカッと笑うと、臣クンは「なんだか太一、お兄ちゃんみたいだな」と微笑んで、大きな手で俺の頭を撫でてくれた。

直後、談話室いっぱいに弾けたクラッカーの音は耳を塞ぎたくなるくらいの爆音で、大好きとありがとうで溢れているように思えた。



Happy Whiteday