『今日って大晦日らしいよ』
「お前知らなかったの?毎年12月31日は大晦日って決まってるんだよ」
『そういうことじゃねーよ。なんで私は大晦日の夜に至さんと万里に挟まれてゲームしてんの?』
「お前が寮に来たから」
『万里が呼んだんでしょ!』
「もう朝からずっとやってんだぞ。俺一人じゃ無理だって気付くだろ」
『私の手にも負えないって気付けよ』
「それは無理」
「御託はいいから回復はよ」
『は?至さんやられすぎでしょ調子乗んないでください』
「今日はヒーラーがいるじゃん?」
『私マジで支援職向いてないんだって』
「脳筋だかんなー」
『万里は特攻して死ね』
「なんでだよ」
「あーマジでこのボス硬くない?」
「至さんダメ出てる?」
「いや3桁しか」
「ゴミじゃん」
「お前もだろブーメランすぎ」
「魔攻バフ乗ってねーもん……あ?やべ死んだ」
「は?嘘だろおい回復」
『MPないでーす』
「本当に向いてねぇな支援」
『だから言ったじゃないですか……あ』
「マジで?死んだんだけど」
「馬鹿馬鹿待て待て待てお前ヒーラーが残ってどうすんだ」
『いや私結構無言で頑張ってたんだけど!?』
「これ前回のセーブポイントどこだっけ?」
「このダンジョンのはじめの方だろ」
「あーオワタ……俺らの努力が……」
『うわマジでボスこっち来るじゃん無理だし顔キモ』
「杖で殴れよ」
「ウケる1ダメだろ」
「至さんどうする?もう1回する?」
「うーん……萎えたし別ゲーかな……」
『ぎゃあ!きたあ!』
「マジで杖振ってんのウケる」
「ほら1ダメ……は?」
『え?』
「あ?」
「マジで言ってんの?」
『……た、倒したああああ!?』
「いやどんなミラクルだよ!」
「残りHP1だったってことか……」
「俺らの地道な攻撃すげえ」
『いやこの場面で杖振った私がMVPでしょどう考えても!』
「いやトドメさしたくらいで偉そうにすんなよ」
「ヒーラーとしての仕事は全くしてなかったくせに」
『は!?マジでしばきあげるぞお前ら!』
「で、次どうします?」
「メインスト進めるか」
『マジで嫌いこの人たち……あっ!』
「んだよ」
「なに」
『0時だよ!』
至さんの部屋の壁掛け時計を指さして笑う私に、ふたりも釣られたように口元を緩める。
立ち上がって扉の方へ駆けると、よっこらしょと重そうな腰を上げた万里がうしろへ続いた。
ヴン、と低めの機械音が聞こえて振り返ると、ちょうど至さんがゲームの電源を落としたところだった。
セーブしました?と訊ねるともち、と軽快な答えが返ってきたのでほっと胸を撫で下ろす。私の偉業が消えてしまうようなことがあればハードごと2階からぶん投げるところだった。
先程のボス戦についてあーだこーだと言い合いながら長い廊下を3人並んで歩く。
談話室には珍しくこの時間まで明かりが灯っているようだ。みんな考えることは同じらしい。
至さんと万里と顔を見合わせてから我先にと勢いよく駆け出す。
そうしてノブに手をかけて、1秒も待たずに思いっきり扉を開けた。
『みんな!あけましておめでとー!!』
親愛なる色とりどりの花束へ。
今年もどうぞ、よろしくね。
A Happy New Year 2019!!