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『……せ、摂津くん』

「…………ん……」

『……あの!摂津くん……!摂津くん!』

「……んー……るっせ…………あ?」

『……!起きた……?』

「あー……?……お前、隣の席の……?」

『名前覚えられてない……のはさておき……あの、もう完全下校です……けど……』

「は!?マジ?うわ……外真っ暗じゃねーかよ……」

『あ……生徒会行って、帰ってきてもまだ寝てたから……あの、朝、今日も稽古あるって話してたの聞こえて……だから……』

「あ!?気付いてたならホームルーム終わった時に一旦起こせよ!!」

『ヒッ!?』

「今頃起こされてもとっくに稽古始まってっから!!あークソめんどくせえな」

『……ご、ごめんなさい……気持ちよさそうに寝てたから、その……』

「……………………は?……いや。いやいやいやいや。お前のせいじゃないわ。最低か俺は」

『……へ』

「わり、一瞬寝ぼけてた。寝起きわりーんだわ。完全に八つ当たり。自分のせい。今のはマジでない」

『え、…………あの』

「あー……ビビっただろ。大して喋ったこともねーのに、いきなりでかい声出してごめん」

『……いえ……』

「最近寝不足でさ。起こしてもらえなかったらもっとやばかったわ。あー……その、サンキュ」

『ぜ、全然っ!……あの、劇団の稽古があったん……だよね』

「あー……おう。帰ったら終わってっかもしんねーけど」

『ご、ごめんなさい。私、知ってたのに。声を掛ける勇気が出なくて』

「……や、クラスメイトにビビられてることなんて自分が1番分かってっから。そもそも俺の自業自得だし、お前が謝ることでも何でもねーよ」

『……でも……』

「つーか声ちっさ!もっとシャキシャキ喋れっつーの!」

『ごっ、ごめんなさい!』

「だー違う!別に怒ってねえからビビんじゃねーよ!!」

『ひいっ』

「あーいやでかい声出してわり……ループか!!いつまでこのやり取りやってんだ!!」

『ごめんなさ』

「お前も謝んのやめろ!俺がいじめてるみてーだろうが!」

『ご』

「あ!?」

『……………なんでもないです』

「よし。おら、完全下校だろ。さっさと出んぞ」

『あ、教室の鍵……』

「あ?これっていつも最後の奴が閉めてんの?」

『たいてい私が……』

「ふーん。職員室嫌いだから頼むわ」

『う、うん!まかせて!』

「んじゃ、俺下駄箱んとこいるから」

『……?うん?』

「鍵返したらさっさと来いよ」

『…………えっ?』



ごく自然な会話の中で放たれた言葉に一瞬意味が分からず固まってしまったけれど、え?何かおかしかったよね?

俺下駄箱んとこいるから、鍵返したらさっさと来いよ。

つまりどういうこと?
一緒に帰るということ?
誰が?
私と摂津くんが?

学級委員と生徒会の2足のわらじを生真面目にこなす学校で1番地味な私と、目を惹く容姿と自由奔放な振る舞いから学校で1番目立っているあの摂津万里くんが?

頭上に浮かぶ疑問符に気が付いたのか、摂津くんは呆れたようにため息をついた。


「バーカ。こんな真っ暗な中女ひとりで帰らせるかよ」


ふっと笑って、摂津くんが教室を出る。
残された私はといえば、教室のど真ん中でぼうっと突っ立っていることしか出来ない。

私の身にいったい何が起こっているんだろう。
こんな少女漫画みたいな展開ってある?

心臓を落ち着けるためにひとまず深呼吸をして、教室の戸締りをして、それから職員室までの道のりを歩きながら考えよう。


何より忘れてはならないのは、私の名前を名乗るところから始めなければならないことだ。