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『おはようございます至さん!今日も大好きですよ、至さんの顔!』

「うるさい離れろ面食い女」

『私と付き合ってくれるなら離れます!』

「32番目の彼女でいいならいいよ」

『わあ王子様スマイル!身内なのにファンサいただいていいんですか!?』

「伝われ俺の優しい抵抗……」

『不満げなお顔も素敵ですね!』

「声がでかい……ていうか俺新作やってて徹夜明けなんだけど、それでも素敵なの?」

『ほんとだ!うっすら滲んだ隈が物憂げでさらに美しさを際立たせてる!』

「無敵かよ」

『えへへ!それほどでも!』

「褒めてないかな」

『あっそうだ至さん、何か欲しいものあります?』

「欲しいもの?」

『食べたいものとか。ポテチもコーラも可です』

「なに、どこか行くの?」

『いづみさんにおつかい頼まれて。ちょうど好きな漫画の発売日なので、スーパーじゃなくてショッピングモールの方に行こうかなって』

「ふうん……別に欲しいものはないけど、それならちょっと待ってて」

『?』

「キー渡すから、車あっためててよ」

『えっ!?でも至さん徹夜明け……』

「逆に頭冴えてるから。ああ、でもエンジンつけられないか……じゃあやっぱり一緒に出るからそこにいて」

『いやいやいや!どうしたんですか!?新作のゲームでも買いに行きます!?』

「馬鹿なの?昨日買ってきて夜通しやったって言っただろ」

『えええ……じゃあ尚更どうしちゃったんですか……』

「そういう日もある」

『あっ!もしかして大好きな私とデートがしたかったとか!?』

「…………」

『あーうそうそ!うっそぴょーん!調子乗るのやめまーす!』

「……別に否定はしてないけどね」

『ですよね黙りま………………え?』

「俺、好きでもない子のために休日潰したりするように見える?」

『………………は?』

「じゃ、10分で準備するからそこでじっとしてな」

『え、は……いやまっ、……はあ!?!?』



ちょっと!!どういう意味!?
私が目を見開いて大声で叫ぶと、振り返った至さんがからからと笑った。
その笑い方が存外子供っぽくて大好きなんですと普段ならそう口に出していただろうが、今は全くもってそれどころの騒ぎではない。

そうしてぴったり10分後、お待たせと戻ってきた至さんはまるで何事も無かったかのようにあっけらかんとしていた。
事態が飲み込めない私は困惑する一方だ。

え?もしかしてさっきのは至さんを好きすぎるあまり私が生み出した幻聴だった……?
頭を抱えて混乱していると、至さんは私の視界の端でにやりと笑ってみせる。

そうしてこちらへゆるやかな動作で近付くと、その形のいい唇を私の耳に寄せた。

どくんと脈打った心臓が止まらなかっただけ優秀だ。


お前が大人になったら、今度はちゃんと言うよ。



真っ赤になった私に向かって悪戯に笑う至さんの顔が史上最高に格好よかったというのは、なんだか悔しいので誰にも言わなかった。