※FGO/カルデア設定
蛍光灯の下、白いテーブルのステージをちょこちょこと動き回る小さな巨人達。装甲はチョコペンで細やかに表現され、肩の多結晶体まで再現されている。簡易なAIが組み込まれており、各々思考したうえで行動しているようだ。 食堂の前を通り掛かったところ、マスターが何やら戯れていたので声を掛けてみれば、これらはキャスターからの返礼だという。
「チョコ式ミニゴーレム。何て愛らしいのでしょう」
キャスターの作り出すあの美しいゴーレムが、可愛らしくデフォルメされ、しかも動いている。カルデアに召喚されて以来、彼の魔術は現代の技術や文化を取り込み、どんどん変容していた。
「きみもアヴィケブロンにチョコレートを渡せば、お返しでもらえたんじゃないかな」 「チョコなんて渡したら、アヴィケブロンさんのことが特別みたいじゃないですか」
確かに、私が食い付きそうなイベントではある。というか間違いなく憧れていた。多分、渡す相手もいないくせにレシピやラッピングの本とか買っていたと思う。記録に残っていないのが気になり調べてみたら、意図的に削除された形跡を発見してしまった。言うまでもなく最終更新者には自分のフルネームが記載されている。うん、これは良い思い出がなかったパターンだ。深堀りしない方が無難。 過去の話はさておき、マスターの言うとおり、羨むくらいなら渡せば良かったのだ。サーヴァント同士でやり取りしている風景も何度か見掛けた。それでも、イベントの存在に気づきつつ何もしないことを選択した。
「特別じゃないの?」
自明であることを、彼はあえて問いとして投げ掛ける。困惑が含まれているのは、境遇への同情からだろうか。
「ええ、そうですが……これはマスターがあの人の信頼を得ているからもらえたもの。私が同じことをしても困惑されるだけです」 「そんなことないと思うけど」
気遣いからの反論に今一度「でも」と返しそうになり踏み留まる。新しく関わることも、あの日の関係を取り戻すことも、絶対にあり得ない。だとしても、もう一度彼の幻影に出逢えただけで、何物にも替えがたい奇跡だった。確かにこの場所へ辿り着いた当初はそう思った。 自動人形・コッペリア。正確には、コッペリウス。更に厳密にはその生みの親《ホフマン》。近代の人形師、悪夢の製造機であり、霊基を貸与してくれた張本人。私《ヴィオルツカ》の幻想性と私《苗字名前》の経歴《人形師》を気に入り、自らを父と呼ぶことを条件に、主導権を譲られた。あの男の真意がどこにあるの未だに分からない。 ただ、今みたいに思考が乱れると、男の声がノイズのように混ざり込んで来る。背中にびっしり張り付く影の気配、意識の侵食。これが結構気持ち悪い。
「ごめんなさい。貴方を困らせていますね」 「困らないよ、気にしないで」
分かっているのかいないのか、気分を害した様子もなく頷く。屈託ない笑顔にこちらの毒気も抜けてしまう。 関係性は不明だが、マスターと話しているとノイズは薄れ思考も明瞭になった。父《ホフマン》が表に出て来てしまっては、せっかくカルデアで築いた美少女キャスターのイメージが失われてしまう。美少女キャスター……同属性のサーヴァントが飽和していて、今更イメージを守ることにどれほど意味があるのか疑問は持ちつつも。
「何とかしたいけど……あ、カルデア中のスタッフとサーヴァント全員に配って回れば「特別」じゃなくなるんじゃない?」 「まぁ、マスター!さすが発想が脳筋!周回の鬼!まずは陽キャになるよう霊基を改造するところから……って無理です!何言わせるんですか!?」
立ち上がり、大袈裟にジェスチャーすれば、「ノリがいい」と世界一呑気な笑い声が漏れた。全く、おかしな人。魔術師らしくはないけれど、こういうのを適性と言うのだろう。呆れて着席し、卓上のミニゴーレムを眺めながら、肘をつく。
「はあ、やっぱりこうして鑑賞させていただくしか。かわいいなぁ。プラスティネーションで永久保存したい……」
見た目が生き物だから樹脂漬けを真っ先に思い付いたけれど、チョコレートの成分は油脂だったか。プラスティネーションは相性が悪いかな。ホルマリン漬けも違う気がするし。冷凍保存では毎日眺めることが出来ない。食堂の冷蔵庫を使ったら誰かに食べられてしまうかも。 そもそもこれは私のモノではないのだから、勝手をする訳にはいかないわ。残念。ああ、そうこうしているうちに、ゴーレム同士が協力し合ってチョコレートの包み紙で鶴を作ってる……きっと1日中観察していても見飽きない。熱い視線に気がついたのか、小さなゴーレム達は避けるように散っていく。その仕草も愛らしくて、つい黄色い声を上げてしまった。
「ねえ、見ました!?マスター!かわいい!」 「うん……怯えているね……」
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