※食器夢主企画様参加作品。 現パロで食器(女)→孫兵 孫兵がちょっと不良気味。 悲恋。 私はお茶碗、ご飯をよそって使ってもらうお茶碗。 私のご主人様は伊賀崎孫兵。小さい頃から私を使ってもらっている。幼稚園から今、高校生になるまでずっと。もちろん現在進行形。 小さい頃から使っているお茶碗だからサイズはちいさめ。でもご主人様はちゃんとおかわりをしてご飯を食べてくれるの。 そんな優しいご主人様。でも、今日はなんだか様子が変。 「…なんで…どうして学校での毒虫の飼育を許可してくれないんだ。頭の固い理事長め……」 ああ、ご主人様がイライラしている。私が食器じゃなかったら、抱きしめてあげて話を聞いてあげるのに。 でもあなたを抱きしめる腕がないの。慰めの言葉をかける声も出ないの。どうして私は食器なのかしら。他の食器はどうかわからないけれど、もしかしたらご主人様にこんな感情を抱く食器は私くらいなのかもしれない。 孫兵さんは苛々するとよく椅子を蹴飛ばしたりする。今日もまたあの椅子を蹴るんだわ。でも椅子は怒りもしないで受け入れている。だからこの間、蹴られて倒れたままになっている椅子に言ったの。このままじゃあなたは壊れてしまう、それでいいの?と。 椅子は、蹴られる事で孫兵さんの役に立てるならそれでいいさと言った。なるほど、なら私もそう考えてみましょう。 「竹谷先輩は修学旅行でいないし…後輩たちは勝手だし」 がつん!倒れた椅子をまた蹴った。今日は相当苛々しているみたい。 倒れた椅子は近くのテーブルにぶつかり、上に乗っていた物たちを揺らした。お茶請けの入った器が傾き、私にぶつかる。机に伏せられていた私は横にスライドして机の上から落ちた。 落ちていく瞬間、孫兵さんが慌てて私を受け止めようと手を伸ばしたのを見た。 毎日使ってもらえて、でも私はありがとうの言葉すら言えない。小さい頃から使ってくれてありがとう。たくさんご飯をおかわりしてくれてありがとう。 椅子が言っていたように、あなたの役に立ててよかった。 だからそんな悲しげな顔をしないで。いつも虫たちを愛でるような楽しげな顔をして。 私は あなたのそんな顔が大好きだったから。 「あぁ!!」 机から落ちた茶碗は見るも無惨に砕け散った。ほんの一瞬の不注意でいとも簡単に壊れてしまった。 孫兵は破片を静かに集めて、接着剤で直そうと奮闘した。しかし茶碗の破片は修復を拒むかのようにうまく接着できない。次第に涙が両目から溢れ視界をぼかすものだから作業どころではない。 ああ、この茶碗は小さい頃、唯一の肉親にもらった大切な物だったのに。 破片に涙がぽたりぽたりと落ちる。次の瞬間孫兵はハッとしたように顔をあげた。涙でぐちゃぐちゃの顔を無理に笑みに変えた。 声が聞こえた気がした。それは懐かしみを感じさせる、大好きで大切な人の声に似ていた。 大切にしてくれてありがとう。 そう願うことが、私にはとても困難で (出来るならば永久に貴方と。) −−−−− 食器主企画あなたの口に愛をはこぶ様に提出させていただきました!遅れてしまって申し訳ない…(汗) ここで少し物語の補足をば。 孫兵は一人暮らしで両親は数年前に他界しています。あのお茶碗はそんな両親が小さい頃にくれた大切なものでした。 イライラして物に当たるのはよくあることですけど、大切な物を壊してしまう事もありますよね。 何が言いたいかって物を大事にしましょうってことです!(笑) ここまで読んでいただきありがとうございました! |