「名前先輩って、マメですよねぇ」
「え?あぁ、ネイルのこと?」

世間話の終わり、瑠衣ちゃんに手を取られて思わずドキッとしながら相槌を打った。瑠衣ちゃんの視線の先には、昨日変えたばかりのネイルが光っている。

「これ、この間出たばっかの奴ですよね」
「そうそう。予約してたの昨日受け取ったから早速塗っちゃった」
「ほーん、なんか名前先輩って爪黄色くしてるの見るの珍しい気がする」
「え、そうかな……色々カラフルにしてるからイメージとして薄いのかも」
「…たしかに?」

瑠衣ちゃんは私のネイル遍歴を思い出すかのように首を傾げると、そう相槌を打った。
パソコンばかり見つめるオペ業務にせめてもの癒しが欲しいと思って、トリオン体にも生身の自分の爪と同じ色を設定してあるため、私の爪の色はコロコロと変わる。昨日までは新しく買った緑色のマグネットネイルで、その前は確か赤、その前はベージュ系だったような。
瑠衣ちゃんも、珍しいとは言ったもののそこまで確信を持った言葉ではなかったのか、ウーンと首を傾げてそれ以上追求することもなかった。

「お、なんだ苗字も来てたのか」
「こんにちは、麻雀はしませんよ」
「名前先輩のネイル可愛いねー、って話してた」

黄色を使う頻度上げようかなぁ、なんて考えていれば隊室の扉が開いて、諏訪くん、堤くん、東さんが続けて入ってくる。三人とも隊服じゃないし、みんな手にはお菓子や飲み物が入ったレジ袋を提げているからすぐに麻雀をしに来たんだなと分かって少しだけ苦笑が溢れた。現在昼過ぎである。まだ子供達が沢山いるボーダー内で麻雀を始めるというのは、ちょっとだけ不健全の手本のような気がした。

「あー……なんだ、ネイルか?」
「確かに苗字さん結構な頻度で変えてますよねぇ。お、今回は黄色なんですね」
「ほぉ、黄色か」

気まずそうに笑った東さんが、堤くんの言葉につられるように私の手元へと視線を向ける。そんなにマジマジと見られる想定でネイルを塗ってないから、ちょっとだけ恥ずかしい。「何か色のルールとかあるんですか?」と瑠衣ちゃんと似たような事を聞いた堤くんに、同じく気分で変えててこれは新作だよと答えれば東さんが「気分か」と少しだけ笑ったような気がした。

「麻雀しにきたんじゃねーのかよ」

一人先に麻雀台をセッティングし始めた諏訪くんの言葉に紛れるように東さんが「今日は早く解散になりそうだな」と誰に言うでもなく呟いた。



「……つーかよぉ」

東さんの予言通り、いつもよりも早く麻雀会が終わった諏訪くんが我が家にやってきたのは、八時前のことだった。少しだけお酒が入った赤らんだ顔で我が家へとやってきた諏訪くんは、我が物顔で冷蔵庫にある麦茶をグラスへ入れてリビングのソファの足元へと座り込むと、今日の戦績やら最近の出来事をお話ししてくれた。
どうやら、今日の諏訪くんは大分調子が悪かったようである、だとかこの間の任務の時の日佐人くんの動きは目に見えて成長を感じられただとか。そう言ったことをぽつぽつと教えてくれた諏訪くんは、頭を掻いていた手を止めるとソファに座っていた私を見上げた。照明に照らされた諏訪くんの目がキラキラと輝いているのがらしくないなと思いながらモゴモゴと何をいうか迷っている口元を眺めていると、数秒間して、その口元が開いた。

「おめーのそれ、もう東さんにバレてるだろ」
「……やっぱり?」

諏訪くんも、東さんの独り言を聞いていたようである。
それ、と諏訪くんが指差した私の指先を見つめる。瑠衣ちゃんに珍しいと言われた、黄色いネイルが塗られている。原色寄りの黄色、というよりも少しだけくすみがかったマスタードっぽい黄色である。瑠衣ちゃんに珍しいと言われてちょっとだけドキっとして、東さんに真意を見透かされた、ちょっとだけ意味のあるネイルである。

「……言えばいーだろ。そんくらい」
「だ、だって……恥ずかしいじゃん。言うの」
「他の奴にバレる方が恥ずかしいだろうが」

諏訪くんにそう正論を言われてしまいうぐ、と思わず押し黙ってしまうが、だけど、東さんだって全知全能の神じゃあるまいし全部を分かっている訳ではないだろう。多分、私が黄色のネイルをしている時は諏訪くんと私でご予定がある位の認識で……。私が諏訪くんに構ってほしい時に黄色いネイルを付けている、なんて理由まではきっと分かっていないはずだ。

「……いや、相手は東さんだぞ」

諏訪くんが再度ジッと据わった目で言うが、それでも、会う頻度で言えばそう高く無い東さんにバレるよりも、やっぱり言う方が何倍も恥ずかしいことのように思えた。……それに、私の指先をチラッと見ては少しだけぶっきらぼうにしょうがないなと笑う諏訪くんのことが、結構好きなのだ。こんな分かりづらいアプローチを確認するために、何かと理由を付けて大学校内や本部でわざわざ私に会いにきてくれる、諏訪くんの分かりやすい愛が。

「やっぱり……やめた方が良い?」

辞める気なんて無かったけど、諏訪くんが本当にやめて欲しかったら何か別の方法を考えなければいけない。そんな気持ちを込めて問えば、諏訪くんはらしくもなく「んー」と間延びした声を出したかと思うと、私の指先に触れて「いや、もうバレちまってるんだし、好きにしろよ」と素っ気なく答えた。

「そう。じゃあ、まだ続けるから、見て欲しいな」
「しょうがねぇな」

諏訪くんの素っ気ない言葉と裏腹に、その手や目は雄弁に愛おしさを語っているように見えて、諏訪くんも諏訪くんなりに楽しんでいるんだろうなと思うことにした。きっと、聞いたところで答えてはくれないだろう。態度でわかりやすく愛を伝えてくれるくせに、言葉では何一つ愛情表現してくれない諏訪くんのことだ。似たもの同士だなぁと思わず笑えば、諏訪くんは「なんだよ」と素っ気ない言葉を重ねた。

20250505
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