ホールケーキって幸せの形をしている

「その心は?」
「…別に、謎かけをしようとしてる訳じゃないんだよ」
「なるほど。じゃあほんまに幸せの形をしてるって思ってるって事です?」
「そう。少なくとも悪い時に食べるイメージじゃないでしょ。だから、食べたら幸せになりそうだね、って話」
「ふぅん」

水上くんは、自分から聞いたくせにそう興味なさそうな相槌を打った。どうしてホールケーキなんですか。少し前に、水上くんからされた質問が頭の中で繰り返される。

「俺からすれば、不幸の象徴って感じですけどね」
「……なんで?」
「え、それ聞きます?この場で」

水上くんは少しだけ意地が悪そうに笑いながらホールケーキへとフォークを刺した。
既に半分以上食べてしまったホールケーキはぐにゃあと芯を失ってしまったかのように徐々に傾いてしまっているけども、水上くんはその棒倒しの様な状態を躱すのが上手だった。フォーク遣いにも器用さとかあるんだろうか。そんな事を思いながらも私もホールケーキへとフォークを刺す。水上くんは、生クリームのことも器用に避けるから、気持ち多めに生クリームを狙った。
ケーキを口に入れながら、水上くんは減らず口も器用だなぁ、なんて恨み言が浮かんだ。
水上くんがホールケーキを不幸の象徴だと思うのは、私が不幸を感じるたびにホールケーキを食べることを知ってるからだと言うことは、流石の私でもわかる。

「……じゃあ食べなくてもいいよ」
「ウソウソ、冗談ですって。俺はタダでケーキを食べれて幸せ。先輩は食べきれんホールケーキが処分する相手が居て幸せですもんね」

意地悪に意地悪で返せば、そう返されるのが分かっていたかのようにテンポの良い相槌で水上くんは降参をした。
不幸を感じる度に“幸せの形”をしているホールケーキを食べる事で何とか帳尻を合わせようとしている私と、偶然それを見かけて以降食べる事に付き合ってくれる様になった水上くん。確かに、水上くんの理論で言えば、私は水上くんが居なければ腹八分目以上になって胸焼けで苦しむ羽目になっているし、水上くんはタダでケーキを食べれるから不幸せでは無いのだろう。
でも、それこそ私がホールケーキを食べるのは嫌な事があったときだ。マイナスからスタートしていて、ケーキを食べることでプラマイゼロ。胸焼けで苦しまなくなったのはプラスなのかマイナスを回避しただけなのか。幸福とは一体……なんて難しい話になりそうになる。それを遮るようにケーキへと視線を向けた。

「てか、先輩探すの面倒やし。そろそろ連絡先教えてくれてもええんとちゃいます」

水上くんがフォークをケーキの載っていた厚紙の上へと置いた。

「……探してたの?」
「やなきゃこんなに偶然会うことも無いでしょ」

そう、水上くんは何でも無いことのように頷く。
確かに、偶然私がホールケーキを丸々食べようとしている所に水上くんが出会した初回に「またこうやってその場に出会したら、一緒にケーキ食べてもええですよ」なんて水上くんが言って以来、水上くんは大体八割くらいの確率で出会してくれていた。
基本、私がホールケーキを食べる場所は放課後自分の教室か、或いはボーダーのどこか人気の無い休憩室なので探すと言っても幾つかアタリは付けられているのだろうけど、水上くんはその何箇所かを周回しているという事だろうか。いつだってスンとした顔をした水上くんがケーキを食べる為だけにブラブラとふらついているところを想像すると、少しだけおかしい。

「そんなにケーキが好きなんだね」
「まぁ、そう捉えてもええですけども」

水上くんはそう言ってトントンと置いたフォークを指で叩いた。
そう捉えてもいい、つまり、それ以外の捉え方もあるということだ。

「謎かけ?」
「どっちかというと、クイズちゃいますか」
「クイズかー」

そんなわざとらしい物言いをされたら、流石の私でも「まさかな」なんて考えが思い浮かぶ。
つまり、水上くんがケーキ目当てじゃなくて、私目当てに探している…ということだ。傷心してホールケーキ爆食いだなんて常軌を逸した行動をしている先輩を哀れに思ったのか……或いは、百パーセント好意の気持ちで私のことを心配しているか、どちらかだ。

「どっちにしようかなぁ」
「俺、振られます?これ」
「そうじゃないけど…」

自分自身の恋バナだと言うのに、水上くんはまるで恋愛バラエティを見てる様な呑気さで相槌を打った。水上くんと恋愛バラエティて一番相性の悪い組み合わせかも。そんな失礼な事を考えながら、水上くんの事をまじまじと見つめる。

「惚れました?」
「残念ながら……」
「ちなみに、そう捉えて貰えない理由は聞いてもいいやつです?俺が生理的にアカンとか、そういう理由です?」
「もし生理的に嫌とかだったらそもそも一緒にケーキ食べるのも断ってるよ」
「言い出せないのかな、と思いました」

意地悪だ。思ってしまったことが表情に出てしまったのか、水上くんは少しだけ笑顔になる。

「……嫌な気分を盛り上げるためにケーキ食べてるのに、水上くんが嫌だったら意味ないじゃん」
「そうやろうな、って思ってました。けど、そう捉える対象にはなってへんってことでしょ」

せやから、その間に居る理由って何かなと思って。――そう、水上くんはまるでテスト前に腑に落ちない問題に当たった時のように首を傾げた。
生理的に嫌いな人と好意と捉えても良いと思える人の間って結構幅が広いと思うんだけどな。そう思いつつも、水上くんはその答えじゃ納得してくれそうには無かった。

「うーん、なんだろ。まず、私自身が一つの恋愛を終えてすぐでしょ」
「まぁ、そうですね。今日は先輩が三股男に愛想尽かして別れを切り出した故の会ですし」

水上くんの目つきが「どうしてそんな男ばかりに引っかかるのか」とでも言いたげに細められた。先輩として恥ずかしい話だが、ケーキを食べる間の世間話として、私の恋愛遍歴を水上くんは大体知ってしまっていた。

「そう……そう、だから急に切り替えられるタイプじゃないというか」
「それは…まぁ、そういう事もあるんか」
「納得いってない?」
「いや、まぁ。俺は先輩と違ってそんなに恋愛経験無いんで、切り替えのタイミングとか分からんから」
「急に刺すじゃん」

そんなに私のことが好き?なんてツッコミ待ちの様な言葉を口にすれば、水上くんはジッと感情のこもってないさらりとした視線でこちらを見つめてきた。この目線は、苦手かも。ケーキを食べる事になった理由を口にする時、時々水上くんは今みたいにジッと見てくることがあった。それが、私は観察対象を見るような目線で苦手だったけど、もしかして違う意味合いがあったのかも。聞けば教えてくれるのだろうか。いや、水上くんの事だ。また「どっちに捉えてもいいですよ」なんてこっちに委ねてくるかもしれない。
前までの嫌な感じのドキドキに何か違う音色のドキドキが追加される様な気がして、それを振り払うように最後の一口へと手を伸ばした。

「次は、ホンマに幸せな時にケーキを食べれるかもしんないすね」
「……勝手に決めないでほしい」

フンと笑った水上くんに、私はヘニョヘニョとした情けない返ししか出来ず顔を背けた。
もし、いつかそうなった時は、相手と一緒にケーキを選びに行くのが夢だったのだ。そんな事を言えば、水上くんは大笑いしてくれるだろうか。少しだけ悩んだけど、まだ早い気がして、暫くは水上くんに観察対象みたいに見られることを我慢しようかな、なんて考えるのであった。

250630
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