愛を歌うにはまだ早い




2ヶ月前に遡る。



その瞬間琢磨は酷く絶望した。この日をどれだけ心待ちにしていと思っている、だからもう少し早くに寮に移るべきだったのだ。引き止めた両親と周囲を酷く恨めしく思う。(自業自得としか言いようが無いのだが)せめてあと3日、いや、2日早ければ、まだ希望はあったというのに。2時間以上早く来たのなんて全く意味がないのだ、

「最悪だ………」
校門からずらりと立つ桜並木を見上げながら琢磨は肩を下げた。左右にそそり立つ染井吉野には、既に新緑が混じり、完全に散り初めている。式まではまだ時間がある為人通りもまばらかと思えば、準備に勤しむ上級生が右往左往していて、春の陽気などお構いなしに周囲はざわめいている。春の麗に包まれ、白で統一された4階建ての校舎の周りを桃色の桜が控えめにはらりと散る様を何度夢に見ただろう。まだ完全に緑一色ではないとはいえ、純白の校舎が光を反射し、艶めく緑色は少し目に痛い。綺麗な物を好む琢磨には納得がいかなかった。
「本当についてないな…」

琢磨は思う。美とは華美で爛漫とした物でなく、ほんのりと控えめに主張するような物に当てはまる。柔らかく、暖かく、思わず優しく触れたくなるような物が好ましい。しかし儚さだけでは及第点で、ふわりとした中にもきちんと核のある、美の中に隠れた強さに惹かれる。特に女性は神が作った最高傑作だ。女性の強かさは神秘、人類の美の集大成だ、と。知りうる限りの難しい言葉を並べてみても、結局は好みの問題で、琢磨の場合は特にその好みがそのまま性欲に直結していて、つまりそのせいで今この場にいるわけなのだが、だからこそ。今日から3年間、この学園で過ごすに当たり、琢磨の心を満たすものは、(多分だが)この桜並木くらいしかないであろう。


「…………」
都内でも有名な進学校、私立白鳥(しらとり)学園高等部。その名の通り水辺に佇む白鳥をイメージした豊かな緑に囲まれる純白の校舎と、独特の授業カリキュラムが売りの所謂お金持ちに人気の学園だが、残念なことに男子校だった。





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