吸血鬼と魔女が出会う結構前のお話し



血は赤とは限らない


あぁ、泣きそうだ。
腹の下の下から何かがせり上がってくる、感覚。目の前にある髪の様に、黒々とした何かがぐるぐる、ぐる、と渦巻きながら、まるで浸食するかの様にずん、と存在している。(目の前の髪には一房紫色が、更に前髪はまさに血の色だったが、この場では考えないようにしておく。)
「…空が」
笑っている。窓枠に座り、薄く開けた窓から風を受けていた“ブラッド”がぽつり、呟いた。(その風に靡く長髪の様に、さらりと。)相変わらず思考回路が紙一枚分ずれている彼は(変人、といってしまえば簡単だが、変人の兄になりたくはない。)理解し難い事をたまに言う。実際、空は今にも雫を落としそうな程厚い雲で覆われていたし、空が笑うという表現を使うのは目の前の、“ブラッド”、ただ一人であろう。
それでも、
「うん」
頷いてしまう自分は、確かにこの変人の兄であるのだろう。
仕方がない、これが双子という物であろうし、双子で在ること、それは変わりようのない事実でなのだから。(それは、覚悟している)絆だ、と、この前髪の赤に誓った時から。
「…髪、結ぼうか。」
それは自分の役目だった。お互い器用な性分だったが、しかし弟は自分自身については酷くずぼらなのだ。吸血鬼というのは全てにその傾向があるのだが、しかし彼のは酷かった。(それでもそんな姿を見せるのは俺の前でだけなのだが。)喜んで良いのやら、叱るべきなのやら。あくまで、彼は自分の弟で在る前に“ブラッド”なのだ。
返事は、無かった。その前に、彼は一度も此方を振り向いていない。(その顔をちゃんと見たのは、どれほど前だろうか。)
彼は、確かに“ブラッド”なのだ。
「…魔女が、来る。千速の妹そうだ。」
「へぇ、」
知ってる、とは言わなかった。言えなかった。
彼は、“ブラッド”なのだから。
空が、笑っているかの様だ。
(遠い、思い浮かんだ言葉を彼の髪に触れる事で必死に振り払う。今の自分には信じるしか、思い込むしかないのだ。この真紅に込めた、小さな小さな抵抗という名の、重い、絆を。)






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