青空と月の出会い



雪夜と叉空がいつもと同様に白夜に任務報告をすませ(今回もまた城下の巡回であったが)隊長室を出ようとしたとき、肩に黒い羽織りをかけ窓際で胡座をかいて居た白夜が、珍しいことに、叉空がこちらにきてから3ヶ月、ほとんど初めてと言ってよいだろう位に珍しく、不意に二人を引き止めた。
「少し待て。そういえば凪が、挨拶に来ると言っていた」
ちょっとそこまで付き合え、まるでそんな雰囲気で伝えられた言葉は、しかしその軽さで確かにざわりと空気を揺らめかせた。
白夜は顔色一つ変えずにこちらを見据える。それがさも当然であるかのように、自分が正義だと、間違っているのはこちらだと、無言で問い詰めるかのように。これが格の差ということなのかと思う。しかし、今回ばかりはこちらが正義だ。なにせ相手は凪だという。普段同じ一族に居ようが居まいが、まるで別世界に住んでいようが居まいが、全うな人生を歩んでいるとなると一生口に出すこともないであろう、あの、凪なのだから。
耐えきれなかったのは、雪夜だった。
「凪…ですか?」
心なしか、上擦る声は藤原一族特有の反応であると言っても良いだろう。藤原を筆頭に上から柳、雨宮、神谷、そして一本線を引いた先にある、凪。世間でただでさえ特別視されている藤原の中で、更に特別視せざるを得ない一族。それがさらに藤原という小さい枠の中で、特別視、…もはや隔離を強いられるのも無理はない。
「あぁ。叉空も聞いた事はあるだろう。…現凪…結葉の兄だ。」
「はい…」
藤原ではそれぞれの当主を敬意を込めそれぞれの名字で呼ぶ。しかし、凪のそれは別物だった。敬意よりも畏怖、畏怖よりも嫌悪が強いからだ。またの名を心無き者、鬼、無血、天才、奇才、蛇、様々に呼ばれている様にそれはまるで、
「来たな」
「…………っ!」
揺れていた空気がぴぃん、と細く、薄く、氷づく。それは人間の醸し出す雰囲気とは程遠く、それはまさに、その名に込められた通りまるで、人在らざる者(バケモノ)のような。
「失礼致します、結葉でございます。」
「要件は」
「凪をお連れしました」
「入れ」
凪の実弟、凪家本筋の次男であり唯一、藤原と個人的な繋がりを持つ人物、結葉と初めて対面したときの感覚、純粋な恐怖心は未だに忘れられず残っている。慣れたとはいえ、しかし恐ろしいものはとことん恐ろしい、怖いものはとことん怖い、それが人間だ。だけども、それとはまた違う。



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