魔女の留学を翌日に控えた吸血鬼達



空は、闇に包まれていた。

プロローグ(つまりは開幕と言う現実の始まり)

「おはよう、我が弟」
ぎぃ、と重苦しい音をして開くドアと同時、自らに注がれる、テノール。
とすとすと一定の速度で近づいてくる足音は例えるならメトロノームと言ったところか。
「まだ寝てるのか?しょうがない奴だな」
それは毎日、毎回、美しい旋律を奏でてくれる。この国では耳にする事は不可能に等しいが、いつか魔界へ行った時に聞いた小鳥達の囀りのように軽やかな言葉達を乗せて。
「ほら、朝だ、」
しかしそれはその実、この部屋に設けられた、音だけでなく実際に重苦しい扉と同等に、いや、それ以上の重圧を放っているのだ。それが鎖であるから、
「起きろよ、…リュー」
かさり、前髪を掻き分けられる感触、その指先はとても優しくて暖かくて柔らかいのに、太く、長く、絡みつく鎖が邪魔をする。
狸寝入りをしたまま軽く身じろぐ。離れてゆく指先、じゃらり、音が聞こえてきそうだ。
こんな鎖、なくなれば良い。
こんなもの、二人を阻むだけだというのに。
それでも、手放せないのは、
「ブラッド!」
がだん、勢い良く開けられた扉から良く知る声が聞こえる、同様に、隣で鎖を更に重くした、感触も、
「お仕事よ!急いで!」

これが僕ら以外を繋ぐ唯一の鎖であるからなのだろう。多分。





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