三國/創作:V | ナノ


三國/創作:V 
【悪魔の花嫁V】
 




その空間は、一種異様とも言える雰囲気に包まれていた。



魏には大国と呼ばれるに相応しい程の様々な商業施設があり、国王曹操の君臨する魏城の元にある城下町には数多くの店が軒を連ねていた。

八百屋、肉屋、衣装屋、飲食店。

庶民にとっても馴染み深い店舗が大通りに並ぶ中、一旦そのメインストリートから外れて横に入り、その脇道をどんどん先へと進んでいくと、『暗闇坂』と呼ばれる薄暗い坂道が見えてくる。

その不気味な坂を下りた先には高級料理店や宝石店、骨董品店等が立ち並び、とても一般庶民の手が届くような商品は陳列されていない為、普通の人々には全く縁のない場所であり、金持ち以外が立ち寄る事はほぼ皆無の場所だった。

しかしこの坂が『暗闇坂』と呼ばれるようになったのは、何も他の道に比べて光が差しにくく視界が悪いという単純な理由だけではなく、この坂を下った先にある高級店の全てが、『普通の店』ではないというのが真の理由であった。

どの店も昼間は一見普通の高級店に過ぎないが、夜になると各店舗の地下では怪しげな催しが開催される。

そしてその中に入れるのは、ごく一部の選ばれた人間のみ。

SMクラブ、本番ストリップ、レズバー、ゲイバー、女装クラブ、男装クラブ、ピンクサロン、ソープランド、キャバクラ、ホストクラブ、ロリコンクラブ、性感マッサージ、コスチュームショップ、etc.

こうして名前だけ挙げると庶民でも普通に通えそうな気がするが、実際にこの場所で働いている男女スタッフは魏国全土の風俗店から集められた選りすぐりの逸材ばかり。

例えば一口に「ソープ嬢」と言っても彼女達は通常貴族相手にしか商売をせず、庶民は一切相手にしない。

売れっ子のソープ嬢であれば1回のセックスで最低でも50万〜100万ものプレイ料金を受け取る、所謂『高級娼婦』と呼ばれる女達なのだ。

当然の事ながら、このような店に通う事が出来るのは、それなりの地位も名誉も兼ね備え、豊富な資金を持ち合わせている本当の金持ちだけである。

どの店も一見さんお断り。入店の際にはすでにお得意様になっている人物からの紹介状を持参するか、またはそういった人々と必ず一緒でなければ店内の様子すら見る事が不可能な、完全なる会員制クラブ。

まさに常人達の目には触れる事のない、真夜中にしか姿を見せない『暗闇の世界』がそこには確かに存在している。



その暗闇坂の付近に建つ、高級宝石店の地下にある秘密クラブに曹丕はいた。



先日オープンしたばかりだというSMクラブからの特別招待状を受け取った曹丕は、業務が一段落ついた後に同じく招待状を貰った司馬懿を伴ってこの店を訪れた。

莫大な富と権力を持ち、金に一切糸目を付けず、そして余分な事を外部の者に漏らさない。

常日頃から業務として自分達の周囲に関わる秘密保持を徹底し、その辺の不良達や柄の悪い成金達と違って節度とマナーを守ってスマートに『遊んでくれる』曹丕達王家の者や司馬懿のような高級官僚は、こういった店側にとって上得意客中の上得意。

彼らのような男達に気に入られ、今後懇意にして貰える事があれば、その辺の貴族連中にちまちまとした商売を営んでいるよりも破格の収入が見込めるのは確実だ。

そう思ったクラブのオーナー達は、こぞって我先にと曹丕達のような人間に招待状を送付し、いざ彼らが自分のクラブに足を運んでくれたとすれば、最上級のもてなしで彼らを出迎えるのが通例だった。

「…舞台装置や店の雰囲気はありきたりですが、店の女が美しいですな」

地下室の最奥にある、上得意客用にあつらえられたキングサイズのソファーにゆったりと腰掛ける司馬懿が微かに笑む。

「好みなのか、仲達」

司馬懿と並ぶ形で高級ソファーに上体を預けている曹丕は悠然と微笑み、正面を向いたままで司馬懿に問う。

「好みと言いますか、全体的な点数で言うと70点といった所です」
「そうか。お前は相変わらず厳しいな。私なら85点はつける」
「ほう…。殿はああいう感じがお好きなのですね。お気に召したというのなら、オーナーに話をつけて『お持ち帰り』されますか?」

司馬懿の言葉を聞いた曹丕は僅かに目を細めると、煩わしげな手付きで前髪をそっと掻き上げた。

「見た目だけいい女なら城内にもハーレムにも腐る程いる。私やお前のような男にとって一番重要なのは違う部分であろう。仲達」
「そうでしたね。我々の相手が務まるようなマゾ素質があるかどうかです」


────『それが一番重要です』、と。


耳に心地良く届く低音の声を響かせて、司馬懿が薄く形のいい唇の両端を軽く吊り上げる。

曹丕は司馬懿の台詞に同意を示すように軽く頷き返すと、舞台上に立つ女に視線を注ぐ。

闇のように真っ黒に塗り込められた部屋の壁、天上からぶら下がる鎖とロープ、『奴隷』を縛り付ける為の黒い柱、不気味な形をした調教用具の入った箱、頑丈な鉄格子といったおどろおどろしい舞台装置は確かにありきたりであったが、司馬懿の言う通り、とにかく店の女が美しかった。

どこまでも透き通るように真っ白な肌。スタイルは細身なのに胸だけはグラマー。顔は小顔で卵形、パッチリと整った目鼻立ちの正統派美女。

名のある貴族の妻や愛人と言っても十分に通用するだけの資質なのに、こんな美人が何が哀しくてこんな所でSMショーなんかに出ているのだろうか、何故わざわざこのような職業に就くことを選んだのだろうか、と誰もが不思議に思ってしまう程の美人だった。

それ程すこぶるつきのいい女が縄師の手によってロープで亀甲縛りを施され、形の良い乳房を剥き出しにされ、彼女の体中に太い縄がしっかりと食い込んでいる。

縄師はその後彼女をゴロンと床の上に転がして一旦舞台の奥に引っ込むと、手に大きな蝋燭を持って舞台中央に舞い戻ってきた。


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