三國/創作:V | ナノ


三國/創作:V 
【Under WorldW】
 




「…っていうか、ホントにおかしいよ。この薬〜っ。もうかれこれ飲み始めてから20分以上は経過しているんじゃないの?なのに全然下半身が収まらないんだよね〜っ。勃ちっぱなしで辛いし、布にこすれて痛いし、キツイよ。この状態〜っ」
「ええっ。旦那様のような耐性レベルの方が、これだけ時間が経ってもですか!?」
「くっそ〜っ。キングの野郎、とんでもねえドラッグを作りやがって。これの何が『合法』なんだよ。あのペテン師。オカマ野郎っ。この夜の帝王・珠稀様が自分の意思以外で簡単に勃起してたまるかっつーの!ちくしょ〜っ」

普段通りの軽い口調で文句を言う珠稀だが、いつものふざけた物言いに近いものの、どことなく辛そうな節がある。

両手で股間を押さえ、キングサイズのソファーの上でジタバタと両足をばたつかせて堪えようとしている主人の容態を重く見て、黒服がやんわりと珠稀に向かって提案する。

「旦那様。あまりにお辛いご様子でしたら、いつものように店の女を呼んで『口』をご用意させましょうか?」
「あ?いらねー。いつもみたいに単なる性欲処理だったらバッチ来いだけどさ、薬が効いてんだぜ、今の俺は。ドラッグに負けてセックスに走る人間は、その瞬間から永遠にドラッグの奴隷だと思うよ。組織のボスとして、そういう意思の弱い人間にだけはなりたくねえの。俺は!!」
「旦那様…」
「いらねえったら、いらねえっ。すっこんでろ」

なおも何かを言おうとした部下の言葉を遮る為に、珠稀が半ば怒鳴るようにして拒絶の言葉を言い放つ。

SM界の若大将として名高い珠稀は他の男達とは異なって、通常のセックスでは満足できないタチの男であるが、だからと言って全く性欲がない訳ではない。

男として生まれた以上生理的な欲求を覚える事はあるのだが、その度に長い時間をかけて性行為を行う事に面倒臭さを感じていた珠稀と言えば、自分の部屋に適当な娼婦を呼び付けて、最低限の処理をさせる事が多かった。


『────口貸して』


そう一言告げて珠稀がベルトの金具に手をかけていくだけで、女達は誰しもうっとりと熱を帯びた恍惚の表情を浮かべて彼を見上げる。

他の誰でもない、自分こそが今夜ご主人様の相手を務める事が出来るのだ。

私はご主人様に選ばれた女なのだ…と思うだけで、感極まって喜びの涙を流す者まで存在していた。


『言っておくけど、君達が俺に触れて良いのは舌と唇だけだから。いいね』


支配的な声音でそう告げて、珠稀は妖艶に微笑む。

彼が赤い唇の端をニヤリと吊り上げる様を目にするだけで、女達の胸はドキドキと鼓動を刻み、この先待ち受ける行為に対する期待感と高揚感で驚く程に己の情欲が高まっていく。

その言葉通り、本当に彼女達は珠稀に舌と唇しか触れる事を許されないのだが、それだけでも店の女達にとってこれ以上ない喜びの時間には間違いないのだ。

しかし、今の珠稀は自分自身の体内から自然に発生した性欲ではなく、薬によってもたらされた高揚感だという事を知っている為に、頑として女達の奉仕を受けようとはしなかった。

こういう部分に関しては、本当に珠稀という男は鋼のように堅い意思を貫き通す事の出来る人間なのである。

「っつうか、その辺の女なんかじゃ絶対にヤダ。世間一般の女じゃなくて、孫堅サマの大事な秘蔵っ子…呉軍幹部代表・名無しちゃん本人が可愛く誘惑してくれるって言うんなら、俺は誘いに乗ってやってもいいよ!」

傲慢なようでいて、それでいてどことなくカワイコブリッコしているような小狡い声音を滲ませつつも、珠稀は額にうっすらと生理的な汗をかき、悔し紛れのような台詞を言い募る。

「んもっ、名無しちゃんがスケスケのシースルーバンバン・フリルバンバン・エロ可愛いベビードールを素肌に一枚だけ纏って、ベッドの上で両足開いて俺の帰りを待っててくれたらいいよ。そんで『あ─ん、珠稀さんの意地悪ぅっ。珠稀さんの帰りをずっと一人で待ってたら、こんなに体が熱くなっちゃったの。お願いします、早く珠稀さんのビッグマグナム入れてぇっ』とか涙目で言ってくれちゃったら、俺…速攻でパンツ下ろしてもいいけどね!!」
「旦那様。いくらなんでもお嬢様に限ってその発言はないかと思われます。大体なんですかそのビッグマグナムって。シラフでそんな事を言う女性が居たとしましたら…悪いですが、我々は引きます」
「うるせっ。誰もお前らの好みなんて聞いてねーよ。自分達の主人が少しでも気を紛らわせようとしてギャグ飛ばしてんのが分かんねーのかよ。気付けよ、オマエら!!」

いつもと違ってちっとも迫力の無い目付きでキッと珠稀に睨まれて、黒服達は必死で笑いを堪えようとする。

(ああ、くそっ…余計にデカくなってきたじゃん。どう責任とってくれんの、名無しちゃん……)

気を紛らわせようとして考えた事がむしろ逆効果だった事を己の体で思い知り、珠稀はそんな自分の体の変化に気付いて悔しげに下唇を噛む。




珠稀にとって、名無しは始め、ちょっとした好奇心から手を出しただけの存在に過ぎなかった。

一回ヤレれば別にいいや。てか、一度味見が出来ればそれでいい。

そんな軽い気持ちでちょっかいをかけたはずなのに、記念すべき初エッチの際、なんと名無しは本気で嫌がったのだ。


『い…いやっ。お願い、珠稀さん。やめて────っ!』


珠稀の絶妙な愛撫で限界まで欲望を高められていたにも関わらず、あろう事か今からいざ挿入、といった本番直前の状態で、名無しは珠稀を全身で拒絶したのだ。

驚いたのは、珠稀である。

今まで生きてきた人生の中で、一度も女に拒絶された事などなかったのに。

しかもただ単純に口説いただけではない、自分の好みとは全く違う、散々甘やかした愛撫を展開した上に、これからだ…という段階になって、名無しは涙ながらに珠稀の逞しい胸板を押しのけて、行為の中止を訴えたのだ。


(なっ…、なにぃ〜っ。こ、この俺様が、よりによって女の方から寸止めされるだとぉ〜っ!?)


珠稀の衝撃は凄まじかった。


それほどに、世の男性にとって『寸止め』という行為は許し難く、認め難く、悪質で、『これ以上はだめっ』という名無しの懇願は、夜の帝王・珠稀を大いに震撼させたのである。


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