三國/創作:V | ナノ


三國/創作:V 
【Under WorldW】
 




俺にとって、君達女っていう生き物は、動物園にいるカバとかキリンとかと同じなんだよね。


見てる分には楽しいし、面白いから別にいいんだけど、自分の家に置きたいとも思わないし、一緒に暮らしたいとも思わない。


この世に存在する全ての中で、『恋愛』と『結婚』が一番ふざけていると思うね。俺は。


俺の人生に『恋愛』と『結婚』が入ってくる。素晴らしい事だよね。


でもね、正直な話、俺の中から『そいつら』が全部出ていってくれたら、もっと俺の人生は快適で、最高だと思うけどね。


さて、名無しちゃん。散々好き勝手言ってきたけれど、俺の言う事をよく聞いて。


男っていうのは大概嘘つきなんだから、『愛してる』なんて言われても、簡単に信じない方がいいと思うよ。信じる女は馬鹿だね。


でもそれと同じ事で、『お前の事なんか愛してない』と言われた時も、信じすぎない方がいいと思うよ。信じる女は馬鹿だね。


じゃあ何を信じればいいのかって?今のはすげえヒントなんだけどな。これでも名無しちゃん、俺が何を言いたいのか分からないの?


俺はこういう男なんだから、分かんないなら放っといて。


俺にそれ以上の言動と見返りを求めてくるのなら、もう俺の事はそっとしといて。


ああ…本当、面倒臭えな。本音を言えば角が立ち、妥協をすれば損をして、我を通せば邪魔をされ、嘘を吐けば責められる。


いつから世の中ってやつは、こんなにも生きにくくなっちまったんだろうね。


あいにくと俺は、好きでこんな仕事なんかやってる訳じゃねえんだよ。名無しちゃん。




────君に狡い男だって言われても、構うもんか。もう。




―珠稀夢・【Under WorldW】





ギシッ。ギシッ。


薄暗い部屋の中で、何かが軋むような音がする。

広大な室内には効率良く体を鍛える為の機材があちらこちらに設置され、通常の生活を送る部屋とは異なった主旨で造られた空間だという事が一目で分かる。

『蠢く者』の地下に設けられたその一室は、ある人物の為だけに用意された、専用のトレーニングルームだった。

ギシッ。ギシッ。

「…290。…291…、292…」

ギシッ。ギシッ…。

重く鈍い物音に、タイミングを合わせるようにして聞こえてくる謎の声。


規則正しく数字を数えるその声の主は、この店の主人────珠稀である。


彼のいる部屋の天井からは二本の吊り輪がぶら下がっていて、珠稀はその輪っかの部分に片方ずつ足首をひっかけるようにして、いわゆる宙吊りの状態になっていた。

「…294…295…」

大きく反動を付けながら、何度も己の体を折り曲げる。

両腕を頭の後ろで固く組み、逆さまになった体勢のままで、珠稀は一人黙々と腹筋運動を続けていた。

呉国最大の勢力を誇る指定暴力団組織『黒蜥蜴』の5代目総裁である珠稀には、己の肉体を鍛える事は必須項目の一つとも言える。

彼の所有する莫大な富や権力に惹かれ、自分こそがその立場に成り代わろうとして、彼の王座を奪おうとする者の存在は、身内組織の人間ですら後を絶たない。

敵対するグループのみに関わらず、組織の内外から常に命を狙われる立場の彼にとって、少しでも空いた時間があれば、その時間を自己鍛錬にあてるのは当然の事であった。

「298、299……300っ!」

キリのいい数字まで数えると、珠稀は慣れた動作で吊り輪から足首を引き抜いて、それと同時に勢いよく体をひねる。

珠稀は体を宙で2,3度クルクルと回転させると、全くブレの無いフォームを描いて床の上にダンッと着地した。

「────失礼します」

彼の足が床に着いたと同時に、部屋の奥から黒服の一人が声をかける。

もはや日課とも言える主人の行動を少し離れた位置から見守っていた黒服は、珠稀の鍛錬が無事終わる瞬間を見計らったかの如く彼の前へと進み出た。

「旦那様。お疲れの所を大変申し訳ございませんが、取り急ぎご報告させて頂きたい事が御座います」
「えぇ〜っ、何ソレ。今からすぐ?適わねえなぁ」

部下の発言を聞いた珠稀は大げさな程に驚いた声を発すると、いかにも不満げな様子で唇を尖らせる。

きちんとした普段の服装とは違い、汚れること前提でトレーニングに臨んだ珠稀の服装は、大分ラフなものだった。

上は黒のタンクトップ一枚と、下はゆるめの腰履きパンツ。

上下共に黒で統一しているのはいつも通りだが、体にピッタリとフィットしたボディライン強調系の服を好む彼にしては珍しく、かなりダボついたパンツを履いていた。

トレードマークのセミロングは鍛練の際に少々邪魔になると思ったのか、今日の珠稀は頭頂部で髪の毛を一つに束ね、ポニーテールみたいな髪型になっている。

「大体一汗かいた所なんだからさぁ、せめてシャワーくらい浴びる余裕は与えてくれねえの〜っ?」

相変わらずのどこか尾を引くような、語尾がやたらと間延びした彼の声。

そんな事を言っている間にも彼の額からはポタポタと汗の雫が流れ落ち、珠稀は仕方なくといった素振りで上着の裾をグイッと捲りあげ、布の部分で汗を拭いていた。

その行為によって、自然と外部に曝け出された彼の腰。

闇の中に浮かび上がる彼の腹部にはトライバル模様の入れ墨が施され、見事なまでに鍛え上げられた腹筋は筋肉のラインに沿うようにしてクッキリと割れている。

一目見ただけで『只者ではない』と分かる珠稀の外見は、夜の帝王という称号に相応しく、他者を圧倒するような強烈な存在感に満ちていた。

「ご主人様。タオルをお持ち致しました。よろしければお使い下さい」

そんな主人と黒服の会話を遠くから伺っていた店の女の一人が新品のタオルを手にし、おずおずといった所作で珠稀の前に献上する。

珠稀は女に差し出された品物に気が付くと、にっこりと満面の笑顔を浮かべて彼女からタオルを受け取った。


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