三國/創作:V | ナノ


三國/創作:V 
【Another worldW】
 




「た…助けて…秦…どこかに…いっちゃう…。体が…おかしくなっちゃう……」
「大丈夫。俺はここにいますよ、名無し様。名無し様が気を失っても…俺がずっと捕まえていてあげる…」

涙ながらに甘い鳴き声を漏らす名無し様を下からガンガン突き上げていると、グチュグチュッと、淫らな水音が夜の医務室に響き渡る。

このいやらしい音が誰か他の人間に聞かれてしまったらどうしようかと思ったが、今の俺にとってはそんな事などどうでもいい事のように感じられていた。

「あっ…あっ…もう…中がグチャグチャして…もう……」

トロトロに溶けてしまっている名無し様の内部が、ある一点で急激に収縮して俺自身を根元からキュウッと締め付ける。

その感覚にタイミングを合わせるように名無し様の最奧の部分をズンッと深く突き上げると、名無し様が白い顎を反らせて全身をビクンッと痙攣させた。

「秦…あんっ…あぁぁ────っ」
「名無し様……俺も……出るっ……」

名無し様への激しい思いを打ち付けるかのように一層奥まで名無し様の中を貫く腰の動きに、名無し様は耐え切れずに二度目の絶頂を迎えてしまった。

一際淫らで甘ったるく尾を引くような彼女の声が、部屋中にこだまする。

達した際に絶妙な間隔で男の物を締め付ける名無し様の内部に、俺自身も快楽を極めた証を放つ。

己の白濁した体液が彼女の中にドクドクッと音を立てて注ぎ込まれた事を感じた瞬間、俺の心にヘドロのように真っ黒な『何か』が同時に流れ込む。

最愛の名無し様とようやく結ばれた、ついに積年の思いが叶ったという大きな喜びを感じたと共に、頭の天辺からつま先まで一気に駆け抜けていった正体不明のこの感情。

そのどす黒い感情は、凌将軍と陸将軍に対して向けられたものだったのだ。




≪嫉妬と羨望の境界線を、貴方は知っていますか≫


陸将軍の手紙に書かれていた彼の『嫉妬論』が、俺の脳内で閃光の如く眩い輝きを放つ。

あの書面を読んだ直後は彼の説明があまり理解出来なかったのに、今の俺には彼の持論がもの凄く良く分かる。

名無し様が凌将軍や陸将軍の腕に抱かれているのを初めて知った時、俺の心は深い哀しみと絶望の色に彩られていた。

愛する女性を自分以外の男に奪われてしまったショックは計り知れなかったが、その一方でどこかその事実を『仕方ない』と受け止めている自分もいた。

あの二人はれっきとした武将なのだから、名無し様と深い関係になっていたとしても仕方がないと。彼女の部屋に自由に出入りすることの出来る立場の人間なのだから、仕方がないと。

あの二人も名無し様も自分とは全く違う世界の人間なのだから、と。

そして俺みたいな人間が名無し様をこの腕に抱く事なんて、多分一生叶わない夢でしかないだろう……と。

そう思い込むことによって俺は自分を納得させていたし、そうやって自分の心を慰めていた。


だが、今の俺とそれとは事情が違う。


今の俺は、名無し様を抱いた事のある男の一人になった。

絶対に無理だと諦めていた事なのに、その夢がまさに現実のものとなったのだ。

手の届かない存在だと思っていた名無し様と親しくなる事が出来、顔と名前を覚えて貰えるまでの仲になり、そして彼女の体内に所有の証を刻みつける事に成功した。

そう。名無し様とこうして結ばれた事により、俺は今や彼らと同じ土俵の上に立つことが出来た。

武将と兵士。身分の違いは大きくあれど、一人の男としては彼らと同等の存在になれたという事なのだ。


そしてそれにより、彼らに対して抱くことの無かった『負の心』が、俺の中で竜巻のように激しく渦巻いている。


───嫉妬、妬み、憎しみ、怒り、独占欲、エゴイズム。


昇進試験前夜の、今日この日。今まで自分の中に存在していなかった闇の感情が、強烈な存在感を伴って生まれ落ちた瞬間だった。


《善には常に悪が混じっています。極端な善は悪となります。…もっとも、極端な悪はなんの善にも成り得ませんけどね》


《…お前…、少しだが…『混じって』んな》


陸将軍と甘将軍の言っていた『混じる』という言葉の真意は、一体何だったのだろう。

いや…そもそも陸将軍の台詞なんか、俺に向けられた言葉かどうかすらはっきり分からない事なんだから、どう考えてみても俺には関係ないよな。


ああっ、俺の愛しい愛しい名無し様。


今よりももっと貴女のお側に近づけるというのなら、俺はあの高みまで登っていきます。

彼らと同じあの場所まで、泥水をすすっても他人の生き血を飲み干してでも、這い上がってみせます。


「名無し様…明日の試合、楽しみにしていて下さいね。俺の貴女に対する愛情がどれだけ深くて激しいものかという事を…名無し様にお見せします」


────俺の愛の全てを、しかとその目でご覧下さいね。


俺は完全に気絶している名無し様を優しく抱き留めると、そう囁いて何度も彼女の頬にキスをする。

名無し様の耳元で降らせた俺の『誓いの言葉』は、結局この日は最後まで彼女の耳に届く事はなかった。




その翌日、前日まで雲行きが怪しかった空は嘘のように晴れ上がり、本番に臨む幾多の兵士達にとって絶好の試験日和となった。


───そして、試合終了後。


練習時と同じく勝ち抜き戦に挑んだ俺の足下には、血まみれの姿になった数十人もの対戦相手が、まるで命のないガラクタのようにゴロゴロと転がっていた。

大勢の人間の返り血を浴びて、誇らしげにニッコリと微笑みながら表彰台に上がる俺はまるで修羅か夜叉のように強靱で妖艶な姿であったと、応援に来てくれていた同僚兵士達は皆口々に俺の事を絶賛し、褒め称える。

仲間達の驚愕の叫び声と興奮しきった歓声を一身に受け止めて、俺はその日歴代最高成績で卒伯への昇進試験を突破した。





ああ、恋愛というのは本当になんてドロドロして、自己陶酔の塊で、浅ましい欲望なのだろう。


そして、場合によっては愛する相手を傷つけてしまう羽目になったとしても、力ずくでその全てを略奪してしまいたくなる程に恐ろしい情熱なのだろう。


それなのに、世間の人間達はそれをまるで至極清らかで一切の汚れがない、あたかも純粋な、幸福の源泉のようだ、と周囲の人々に嘘八百ばかり言い触らすのだ。


もし何でも願いが叶うのだとすれば、俺が望む事はただ一つだけ。


名無し様の周囲にいる男達の中で、俺は唯一、たった一人の存在でありたい。


愛する女性の気持ちを自分だけに向ける事が出来ると言うのなら、どんな苦難がこの先待ち受けていたって構わない。


彼女に関わるこの世の全ての男の中で、彼女にとっての一等賞になりたいんだ。俺は。



光を求めて真っすぐに歩いてきたつもりだったのに、何だか最近目の前がぼんやりと灰色の景色になってきて、自分の立っている場所がどの辺りなのか、よく分からなくなってくる。


俺はどこから来て、この先どこへ行こうとしているのか。



────ここは、どこだ?




―END―
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