三國/創作:V 【すんどめ:VS凌統】 「そ、そういうわけじゃ……。わ、わたし……」 「名無しは俺のことが好き?」 「……。」 「……黙っていたら分からないよ。俺の勘違いなのかな」 「……っ」 「ねえ、教えてよ。名無し」 「……好き……」 「ん?」 「私も、あなたのことが、大好きです……」 「……!!」 「ずっと前から、凌統に憧れていたの……。仕事も出来るし、優しいし、それに……かっこよくて素敵だし……。こんな素敵な人が私の彼氏だったらなあって……いつも思っていました」 ポッと耳まで真っ赤になりながら、名無しは震える声で答える。 勝った────ッッ!!!! ガッツポーズしそうになった凌統だが、そこは鉄の自制心で堪えた。 見たか陸遜、甘寧!?あんたらに『絶対に無理』『他の女とは違う』とか『彼女は今、仕事に一途で恋愛なんて興味がありません』だとか散々言われた難攻不落な名無しを、俺はついに陥落させた。 これでもう、あいつらに馬鹿にされることはないっての。ざまあみやがれ……!!と、普段クールな彼にしては珍しく熱い感情を表に出しそうになりながら、名無しの前では涼しい美貌を崩さないのが凌統クオリティである。 「嬉しいよ、名無し。あんたも俺と同じ気持ちだったんだな」 「はい…」 「今の返事で、一層名無しの全部が欲しくなった。あんたの事が好きすぎて、もう我慢できないんだ。……なあ、いいだろう?」 そのまま彼女をベッドに押し倒し、服を脱がしにかかると、名無しが慌てふためいた様子で抵抗し始めた。 「やっ……。待って、まだダメ……!」 まさかここまできて拒否されるだなんて想定外すぎて、凌統の動きが瞬時に止まる。 おいちょっと待ってくれ。いくら何でもここで止めるのはないだろう。 せっかくお互い両思いだって分かったのに、こんな中途半端なところで終わらされてたまるか。 こっちはとっくにフル勃起して股間が痛いくらいなんだよ。とっととヤらせてくれ。 と、さすがにそこまでは言えないので、彼は極めて紳士的な態度で説得を試みることにした。 「どうして?今更そんなことを言うのはなしだよ。こんなにエッチな恰好で夜遅くに彼氏の部屋を訪ねておいて、そりゃないぜ……。俺はてっきり、大好きな彼女が俺のことを可愛く誘惑してくれているんだと思って嬉しかったのに」 「そ、それは……。でも、私……っ」 「だめかい?名無し……俺の言うこと、聞いてくれるよな?」 名無しの耳元に唇を寄せて囁きかけるように告げると、『ひぁっ』とくすぐったがるような声を上げて身を捩らせる。そんな姿もまた愛らしい。 「……名無し」 わざと低い声を出して名前を呼んでやれば、彼女は切なげな表情で首を横に振った。 「違うの……。凌統のこと、嫌なわけじゃないんだけど……私たち、まだ付き合ってたったの一週間しか経っていないでしょう?だから、もう少しだけ時間が欲しいの……」 「……。」 「お願い。分かって……」 はーん。なるほどねえ。つまり、俺の事が好きだからこそ、すぐには俺と結ばれたくないと。 付き合って『まだ』一週間の関係だから、そういうことに進むには早すぎるんじゃないかと、名無しはそう言いたいわけね。 ふんふん、なるほど。なるほど……。 ……。 ……。 ……。 ちょっ……えっ……?全然意味が分からない。付き合って一週間『も』経っているなんて、もうズッコンバッコンにやりまくっている時期だよね!? 何この夢。めちゃくちゃ生々しいんですけど。名無しと俺の貞操観念の違いがあり過ぎて怖いんだけど。 そりゃ夢だからといっても多少は本物っぽい雰囲気の方が嬉しいけど、よりによってこんな『セックスできるかどうか』という問題に重大な影響を及ぼしかねない大事な部分にあえて現実味を持たせる必要はないんじゃない? まさか、この期に及んで『私たち、まだ早いよね』とかいうオチは勘弁してほしい。いくらなんでもそこまで俺の心を踏み躙るのは酷すぎる。 「あの…、だから凌統。私たち、こういう事はもっとゆっくり……」 却下。却っっっ下だ。そんなもの、断じて許さん。 ここで名無しに主導権を許し、尻尾を巻いて諦めたら稀代の女殺しと言われる色男の名折れ。俺の辞書に不可能の文字はない。 こんなところで押し負けてなるものか。 「ごめんね、名無し……。悪いけど、俺はそんな悠長なこと言っている余裕はないっての」 「え……?」 「俺、あんたの事が本当に好きなんだ。あんたの事が欲しくて、堪らないんだ。だから、俺の気持ちを少しだけでも理解してくれるなら……このまま俺を受け入れてほしい」 「……!」 「名無しと付き合うようになってから、俺の頭の中は名無しのことでいっぱいなんだ」 「そ、んな……。でも、私と凌統は……」 「付き合った長さなんて関係ない。俺は、名無しの事が好きだから抱きたい。それだけだよ」 我ながらいいことを言っている、と思った。酷く思い詰めた顔でこんな風に言われてしまったら、名無しは断りにくいだろう。 思った通り、彼女は目に見えて困った面持ちで狼惑している。 「凌統…お願い……。私…まだ恥ずかしくて……」 あのさあ、名無し。だったら言わせて貰うけどさ、セックスするのが恥ずかしいって思う女がする服装か?それ。 どう見ても男を誘う気満々で、雄に種付けを求める雌そのものだろうが。そんな格好をしておいて、今更何を言っているんだか。ああん? いやまあ確かに、名無しはちっとも悪くない。そんな痴女みたいな恰好でこの場に登場させたのは俺なのだ。だけど、それを言ったらそもそもこんな展開を作り出したのも俺であってだな……。 俺の夢なのに、俺の思い通りにならないなんておかしいじゃないか。よって却下。誰が脚本練ってんの?ああ俺か。やり直し。 「恥ずかしがらなくてもいい。今夜は二人きりなんだから」 「で、でも……っ」 「いいから。黙って」 有無を言わさず唇を重ねると、名無しは観念したように静かになった。 そのまま舌を絡め、口付けを深くしていくにつれて彼女の身体からは力が抜けていき、こちらに身を預けてくるようになる。 「名無し……」 キスの合間に名前を呼ぶと、彼女は潤んだ瞳で見上げてきた。その表情があまりにも扇情的で、理性が飛びそうになる。 「……可愛いよ、名無し」 「や、だ……」 「名無し……」 「ん……、だめ……。待っ……」 「待てないよ。もう充分待っただろ?」 自分でも時間をかけすぎだと舌打ちしたくなるくらいに、凌統は名無しに対して譲歩していた。これが普通の女相手であれば、何と言われようがとっくに押し倒して強引に抱いている。 だけどもし、本物の名無しもこれと同レベルで早急な性行為に抵抗感があるとすれば、彼女の警戒心を効果的に解きほぐすやり方を考えなければならない。 [TOP] ×
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