三國/創作:V 【すんどめ:VS凌統】 今まで散々遊んできたツケがここにきて回ってきたようだ。もっと早くにこうすれば良かった。早い段階で手を出していれば、今頃は名無しの全てを自分のものにできていたかもしれないのに。 まあいいか。これが本物の名無しじゃないのは少々残念ではあるが、この際贅沢は言っていられない。今目の前にいるのは、紛れもなく彼女と同じ姿形をした女体。 どうせ夢ならば最後まで楽しませてもらおうと、男は彼女の腰を抱き寄せて口説く。 「あ……」 「なあ、名無し。あんたさえ良ければ、このまま俺と……」 「……。」 「名無し……?」 「ご、ごめんなさい。ちょっとぼーっとしちゃって……」 「大丈夫?」 「うん…。平気」 名無しは小さく首を横に振る。その頬はほんのり朱に染まっていた。 「その、凌統みたいに素敵な人が私の彼氏だなんて、未だに実感が湧かなくて……。まるで夢みたいだなって思えて、つい考え込んじゃったの」 な、ん……だと……!? 予想外の答えと嬉しい誤算に、凌統は己の耳を疑った。 あの名無しがこんなエロ可愛い恰好で自分の部屋を訪ねてくるという設定だけでも激しく燃えるのに、しかも彼氏彼女設定とくればこれ以上ないほどに好都合な展開ではないか。自分はどこまで幸運な男なのだ。 これぞ、文字通り夢にまで見たシチュエーション。名無しと恋人同士になる夢を見られるなんて、こいつは凄いぜ。 恋人設定だというのなら、何も気にすることはない。彼女の体を思う存分揉んだり吸ったり舐めまくったりするのは彼氏の特権。 まさしくヤリたい放題!!なすがまま!! となれば、やるしかない。やらずにはいられまい。 「夢なんかじゃないよ。俺はこうしてここにいるんだから。ほら、触ってみてよ」 凌統は名無しの手を取り、自身の胸に誘導する。 「あっ…」 掌に感じる温もりに、名無しは少し驚いたような声を上げた。 「分かるかい?俺がちゃんと生きている人間だってことが」 「…うん」 「俺のこと、信じてくれる?」 無言のままコクリと名無しが縦に頭を振る。その仕草があまりにも可愛くて、愛おしさが溢れてきて止まらない。 女性との色事には慣れているはずなのに、こんなにも気持ちが高まってしまうのは初めてだった。 いつもは自分の口説き文句を決して真に受けず、ふふっと笑いながら話を変えようと試みたり、ほんのり頬を染めつつ『冗談はやめて』と抗議したり、用事があるからと言ってそそくさと逃げ出す彼女が今、自分の腕に抱かれて甘えるように身を寄せている。 現実では一度も経験したことのない状況に対する新鮮さと高揚感、特別感といったものが凌統の中で混ざり合って何とも言えない気持ちが湧き上がる。 獲物を追い詰める獣のような心境に近いだろうか。そんな気分を味わいながらも、凌統は表面上あくまで余裕のある態度を装う。 「名無し」 「はい。なあに…?」 「好きだよ、名無し。ずっと前から、あんたの事が気になっていた」 突然の告白に、名無しが大きく目を開く。 凌統にこんな風にして甘い眼差しで真正面から射抜かれ、低い声で囁くように告げられて堕ちない女などこの世に一人もいない。 唯一抵抗らしきものを見せてくれるのがこの名無しではあるのだが、平時から付き合いのある職場の同僚ということもあり、凌統側もその後のことを色々と考えて正直手加減していた部分がある。 けれども、今は本気だ。現実世界の名無しを堕とす予行演習も兼ねて、今回ばかりは全力で行く。 恋人同士という前提条件があるのなら、断られる可能性を全く考えずにあれこれと台詞を試すことも出来る。どんな風に口説けば一番名無しが赤面するのか、どこをどんな風に触れれば名無しは一番感じるのか。この機会に思う存分探らせてもらうことにしよう。 そうは言っても、これって所詮夢の中の話じゃん。現実の名無しが同じ反応をするのかなんて、何の保証もないんじゃないの? などともう一人の冷めた自分が冷静な突っ込みを入れる。 そんなことは分かっているっつの。 たとえ現実に戻った時に同じ方法が通用しなくて失敗したとしても、俺は全然気にしないね。むしろ『やっぱり本物の名無しは手強いね』と思って余計に名無しに惚れちまう。それだけの話だよ。 今までは遊び半分で適当に口説いてはいたが、今回のは違う。相手が誰であろうと、俺に惚れさせてみせる。 「りょ、凌統…。どうしたの?急に…」 正式に付き合っている相手だとしても、真面目な顔で改めて口説かれると妙に気恥ずかしくなってしまうし、結構照れるものだ。 案の定名無しは戸惑いを隠せない様子で、言葉を詰まらせた。 「俺じゃ駄目かな」 「え……?」 「名実ともに、俺の物になってくれないか」 「!」 「こんなことを言い出すなんておかしいと思うだろうけど、俺は名無しの事が好きなんだ」 「……っ」 「だから、あんたが嫌じゃないなら……このまま続きをしたいと思っている。……いいよね?名無しも、本当はそのつもりだったんだろ……?俺に会いたくて来たんだろう?俺も名無しに会えてすごく嬉しいよ。やっと俺の想いが届いたんだから」 男の言葉を聞く毎に、一層名無しの顔が赤くなる。 「嫌かい?俺みたいな男にこんなことを言われるのは」 「え…!?」 「名無しは、俺のことは嫌いかな」 嫌いだなんて言わせない。俺のことを嫌がる女なんて存在しない。 並々ならぬ自信をおくびにも出さず、凌統は微かに眉根を寄せ、切ない表情を覗かせる。 その表情があまりにも艶っぽくて、名無しはドキリとしてしまった。 呉国一、否、三国一と謳われる色男が見せる憂いを帯びた表情は、女心を鷲掴みにするのには十分すぎるほどの威力を持っていた。 こんな風に言われて、断ることなんて出来やしない。 「名無し。俺は、名無しの事を……一人の女として好きなんだ。あんたも同じ気持ちだったら、嬉しいんだけどな」 なんという罪な台詞を、なんという甘ったるい声で、なんというイケメン顔で。こんな風に口説かれた日には、どんな堅物な女性でもイチコロ間違いなし。 凌統は手探りで名無しの反応を確かめつつ、だが確実に本気レベルを上昇させ、彼女の心の隙間に入り込むべく言葉を続ける。 「名無しは、どうしてそんな顔をしているのさ。まさか、本当に俺のことが嫌いなのかい?」 どこか悩ましい雰囲気を宿し、それでいて妖しい色香を漂わせながら、男は悲しげな眼差しを向けた。 [TOP] ×
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