三國/創作:V | ナノ


三國/創作:V 
【すんどめ:VS凌統】
 




「えっと…。ところで名無し。あんたの服装なんだけど……」

聞いていいものなのかどうか迷ったが、どうしても気になる。彼女がこのような姿でここにいる以上、避けて通れない質問だ。

「あ……」

凌統の問いに名無しは一瞬ハッとした表情を見せ、今更ではあるが頬を赤らめた。

「だって…、せっかく凌統にもらったんだもの。一度くらい着てみてもいいかなと思って。似合わない…?」

愕然とする凌統に気付いていないのか、名無しは少し照れたようにはにかむ。その仕草に、不覚にもドキッとしてしまった。

待て待て。今彼女は何と言ったのだ。俺に貰ったとか言ったよな!?

ここはおそらく自分の見ている夢の中である。ということは、この姿もこのシチュエーションも、全て己の願望だということになる。

いや、確かに俺は名無しのことがちょっぴり気になっていて、いつか彼女とそういう関係になれたら嬉しいと思っていたけれども。

しかし、いくらなんでもここまで露骨な夢を見るというのはどうなんだ。そりゃあさ、俺だって健康的な成人男子なんだから、こういう妄想をしたりすることもあるけれどさ。

ただでさえエロいデザインの衣装なのに、その下までノーパン・ノーブラを名無しに強要するとか、これじゃまるで俺が変態みたいじゃないか。失礼な!

「……ごめんなさい」

黙り込んだまま何も言おうとしない彼を前にして、いたたまれなくなったのか、名無しは悲しそうな顔をしながら謝ってきた。

「疲れている凌統に、変なもの見せちゃったよね」
「え?いやそんな、別に」

むしろバッチリ見させてもらったわけですが。なんならもっと色んな所を見せつけてくれてもいいわけですが?などというヨコシマな本音を隠しつつ、凌統はとりあえず否定しておく。

自分で言うのもあれではあるが、これでも女性の裸体やセックス関連の事には同年代の男と比べてみれば断然経験値を積んでいる方だ。

親から貰った顔は幸いにして物凄く整っているし、背もかなり高い。加えて元々器用な性格なので勉強も運動もその気になれば人並み以上にはできるし、武将としての地位もあるのでそれなりに金もある。

おかげで異性から好意を寄せられることはよくあるし、

一生の思い出にしますから、一度でいいから私とエッチしてください!

だの

凌統様の本命じゃなくてもいいんです。ただの遊び扱いでも十分ですし、何番目の女でも構いません!私と付き合ってください。お願いします…!

などと告白されることもしょっちゅうだった。

『へえ…、嬉しいな。それじゃ遠慮なく』

そう告げて凌統の方から誘いを掛ければ、大抵の女は涙を流して感激するし、すぐにその気になってベッドの上で乱舞する。

中には処女だという子もいたが、どうか私の処女を貰ってください、私の初めての人になってください!と向こうから懇願してくるので倫理的にも問題ない。ないといったらないはずだ、多分。

そんなわけで、基本的にこういった場面において動揺したり尻込みすることはないのだが、今は状況が違う。

傍にいるのは他でもない、自分の同僚である。冗談っぽく何度かちょっかいをかけたことはあるのだが、普段のプレイボーイぶりが彼女の元にも伝わっているのか

もう、凌統ったら。またそんなことばかり言って

と毎回苦笑交じりにスルーされ、軽くあしらわれる程度だった。

それがまさか、こんな形でチャンスが回ってくるとは。夢とはいえ、これはこれでラッキーである。

据え膳食わぬは何とやら。ここで手を出さない方が失礼というものだろう。

「凌統が喜んでくれるかなって思って頑張ってみたんだけど、やっぱり似合わないよね」

ぽつりと呟き、名無しは寂しげに目を伏せた。

「それに、もう夜も遅いもんね。お風呂の用意はしておいたから、ゆっくり入って。少しでも疲れを癒してね。私……着替えてくるから」

そう言い残してその場を離れようとする名無しの腕を凌統は咄嗟に掴み、グイッと引き寄せる。

「やっ…!?」

いきなりの出来事に驚いた彼女はバランスを崩し、そのまま凌統の逞しい腕の中にすっぽりと収まってしまう。

「名無し」

意を決して名前を呼べば、彼女は驚いたように瞳を瞬かせ、遠慮がちな眼差しで男を仰ぐ。

「あ、あの……?」

戸惑う名無しをぎゅうっと抱き締めると、彼女は身を固くした。しかし抵抗することなく、そのまま大人しく腕の中に収まっている。

「……名無し」

耳元で囁くようにもう一度名前を呼ぶと、彼女の唇から微かに吐息が漏れた。そのまま首筋に唇を押し当てて吸い付く。

この辺の流れるような一連の動作は、さすがに場数を踏んでいるだけあって淀みがない。

「…ん…っ」

ビクッ、と名無しの身体が小さく跳ねた。

(ヤバいな……。すげー可愛い)

夢の中の彼女はとても従順だった。まるで処女のように初々しく、それでいて妖艶な一面もあり、彼の言葉一つ一つにいちいち反応を示す。

普段の清楚さとは裏腹に、大胆な格好をしているギャップもたまらなく良い。

「あ……っ。凌統……、だめ……っ」

こんないやらしい服装で深夜に20代の独身男の部屋を訪ねておいて、駄目もクソもないだろう。

それともなにか?この状況でまさか『私、そんなつもりじゃなかったのに』『凌統とはいいお友達で…』とかふざけたことを言い出すんじゃねえだろうな。

あんたさあ、若い男の性欲を舐めてんの?こんな美味しそうな餌を前にして我慢しろっていうのかよ?俺は絶対認めないからな?

「なんでそんな寂しいこと言うんだよ。俺、そんなこと一言も言ってないだろ?」
「…え…?」
「すごく似合ってる。可愛いよ、名無し」
「本当…?」
「ああ。嘘じゃない」
「良かった…、嬉しい…」

そう呟いた名無しの瞳にじわりと涙が滲む。男の賛辞を聞いてようやく安心したのか、名無しはホッとした表情で胸を撫で下ろす。

「ありがとう、凌統…。その、褒めてもらえて…嬉しかった」
「……っ」

不意打ちのような台詞に、思わずグッときてしまった。いつも自分の言葉をはぐらかしてばかりの名無しにこんな風に素直な返事をされて、溶けそうな眼差しで見つめられてドキリとしないわけがない。

うわ…。名無しって、男といる時はこんなに可愛い反応するんだ……。

そんな彼女の真実を知らないままで過ごしてきたので、今日に至るまで何事もなく仲間として接してきた時間を計算すると損した気分を抱く。


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