三國/創作:V | ナノ


三國/創作:V 
【Under WorldX《後編》】
 




「見せもんじゃねえんだから金払え。ていうかお前、ちんぽ呼び派なの?」
「あたしは旦那と違ってチンコよりちんぽ呼びよ。まろやかだし、ぬいぐるみみたいで可愛い響きだもの」
「どこがだよ。そっちの方が下品だわぁ……。ちんぽとか頭悪そうじゃない?」
「そう?最近は女の子でもそう呼んでるのを聞くけど」
「男ならまだしも、女でそれ呼びしている奴がいたらマジで引く。チンコでも嫌。俺なら断然可愛く『珠稀さんのおちんちんが欲しいの…』って恥ずかしそうに言われたいし、言わせたい」
「旦那って、オラついてる割に案外ロマン派なところあるわよね」
「風情を大事にすると言って欲しいね」
「本当はそんな風に呼ぶのは嫌だけど、エッチの時に彼氏にそう呼べって言われます、言わされますって子もいるわよ」
「はあぁ…?理解不能。男向けのエロ漫画かよ」
「この際どっちがいいかなんてぶっちゃけどうでもいいのよ。小学生のガキじゃあるまいし、こんなところでちんこだのちんぽだのちんちんだの連呼してたらお互い下品さは一緒でしょ」

それもそうだ。キングには珍しくまともな意見と言える。

「……もういいわ。俺、見ての通り一仕事終えた後で疲れてんだけど?用が済んだならさっさと帰れよ」

これ以上言い合っていても時間の無駄だと判断し、退店を促すことにする。こんなくだらない会話をしている暇があるなら、一刻も早くこの男を追い返したい。

しかし、どうやら今日のキングはいつになくしつこいようで、彼はなおも食らいつくように会話を続行した。

「ところでさっきの話に戻るけど、あの子が例の名無しちゃんって子なのよね?」
「違います」

即座に否定すると、キングは『あ?』と短く吐き捨て眉根を寄せる。そしてそのままずいっと顔を寄せてきたので、珠稀は嫌そうな顔付きで仰け反った。

「嘘をおっしゃい。あの子が名無しちゃんで、旦那の推しでしょ」
「違います」
「本当、息をするようにさらっと嘘を吐く男よねえ〜」
「だから、違います。俺は今から寝たいんで、10秒以内に出て行ってください。以上」
「じゃあ、あたしに頂戴?」
「はぁ?」

唐突な提案に思わず聞き返すと、キングはニヤリと笑った。

「別に、旦那のお気に入りの名無しちゃんじゃないんでしょう?だったらあたしに頂戴って言ってるの。ちらっと見ただけだけど、健気だし、いい鳴き声で鳴くし可愛いわね。とっても従順そうで、素直そうだし。ああいう子を屈服させるのって最高じゃない」

何を言い出すかと思えば。

この男は、どこまで他人の神経を逆撫ですれば気が済むのだろうか。

珠稀に睨まれても全く動じることなく、キングはさらに続ける。

「あたしね、今まで色んな女の子を抱いてきたけれど、たまには毛色の違う子も抱きたくなるのよ。ほら、こういう仕事をしていると、どうしても似たような女ばかりになっちゃうでしょう?ああいう子、あたし達の周りにはいないタイプだし」
「……。」
「一見イイ子ちゃんっぽく見えるのに、中身はすごく淫乱でえっちなのが最高よね。ちょっと苛めたら泣いちゃいそうで、征服欲が満たされるし、調教のし甲斐がありそうでワクワクしちゃう」
「……。」
「ギャップ萌えってやつかしら?あぁん、もう、たまらないっ!嗜虐心をそそられるわぁ〜。ねっ、いいでしょ旦那。お願い!」

甘えた声を出しながら腕を掴んで強請ってくる男を、珠稀は冷ややかな目で見下ろす。

「嫌だと言ったら?」
「───この場であの女を無理やり犯す」

即答したその言葉は、冗談などではなかった。恐らく、本当に実行するに違いない。

この狂気に満ちた瞳を見れば分かる。何故ならこの男もまた、美しいだけの存在ではない。

自分と同じ穴のムジナ。人を惑わし、狂わせる悪魔そのもの。

珠稀は無言で立ち上がり、キングの手から湯呑を奪い取って床に叩きつけた。陶器の割れる派手な音が部屋に響く。

「あらあら、勿体ない。高そうな湯呑だったのに」
「今すぐ帰れ」
「イヤでーす」
「うるせえ黙れ。とっとと出てけ。二度と来るんじゃねえ。今すぐ消えろ。そんで死ね。俺が許可するまでこの店に近づくな。分かったな?」

強い声音で命じる店主の通告を聞いているのかいないのか、キングはころころと笑う。全くもって、不可解な男だ。

「怖い顔。せっかくの男前が台無しよ」
「この際だからハッキリ言っておく。俺の獲物を掠め取ろうとするんじゃねえよ」
「何それ、束縛系彼氏?やーん、そんな旦那もいいかもぉー」
「いいから早く出ていけっつってんだろ。殺されてえのか?」

珠稀は双剣の柄に手を添えて、凄む。だが、それでもキングは怯まない。まるで天気の話でもしているように、のんびりと着物の裾を直している。

「あらやだ物騒な物言いねぇ。そんなに大事な女なら、とっとと鎖で繋いで納屋にでも閉じ込めておけばいいのに」
「それが出来ねえから放し飼いにしてんだろうが。名無しちゃんは城の上層部にいて、内情にも通じているから重宝する。ただの性奴隷よろしく、店の中で監禁するんじゃ意味がねえんだよ」

仕方なさそうな口ぶりで座り直した男の背中が、ソファーに沈む。

それは紛れもない事実だ。名無しは呉軍に籍を置き、城と蠢く者の出入りが自由な身だからこそ価値がある。

よって彼女を必要以上に拘束する訳にはいかないし、ある程度の自由をこちらからも与える必要がある。珠稀からしても、その辺の匙加減が難しいのだ。

「ふーん。でも同条件の女なんて探せばそれなりにいそうだし、あんな面倒そうな女に狙いを定めるよりは、ずっと手頃な雌犬もいるんじゃない。だってあの子、ただでさえ怖〜いお兄さん達がバックについているじゃないの」

まあ、怖〜いお兄さんっていうのはあたしや旦那もそうなんだけど。

キングの発言に、珠稀は盛大に舌打ちをした。

名無しの周囲にいる男達は全員かなりのキレ者で、戦闘力も高く、一筋縄ではいかない曲者揃いだ。

(あの長髪は強くて冷静。若い奴は強くて真面目。ポニーテールは強くて皮肉屋ってところか)

一度会って手合せしただけの相手なので情報量は不足しているが、おそらく自分の見立てはそう間違ってはいないだろう。

そして何より厄介なのは、全員が名無しのことを大切な仲間として認めており、事と次第によっては即座に敵に回る可能性がある点だ。そんな連中を相手にするのは面倒である。

奴らに対してどう立ち回るべきなのか───それを考えるだけでも頭が痛いというのに、今は更にもう一匹興味本位で近付いてくる面倒なオカマが増えているのだから始末に負えない。

「……あっちはあっちで、名無しちゃんを通して俺達をいいように利用しようとしている」

下心がありありで、自分達の思い通りに動く、都合のいい捨て駒として扱おうとしているのはどちらも同じだ、と珠稀は告げる。

表向きは『いい協力関係を築きましょう』などと綺麗ごとを言っておいて、いざ相手が窮地に陥ることがあれば一切手出しもしないし、助けない。

マフィア同士の抗争に対してだってそうだ。

そのせいで堅気の人間にも被害が及ぶとなれば権力を振りかざしてしゃしゃり出てくるだろうが、そうでなければ内心『クズ同士で勝手に潰し合ってくれれば儲けもの』とでも思って高みの見物を決め込んでいるに違いない。政府や警察の人間なんてそんなものだ。


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