三國/創作:V | ナノ


三國/創作:V 
【Under WorldX《後編》】
 




心の中で絶叫しつつも、ここでこれ以上回答を避け続け、待つのが嫌だとのたまうこの男の機嫌を損ねたらまずいと思い、名無しはおずおずと答えを述べる。

「誰でもありません。みんな大切な職場の同僚ですし、決してそのような目で見たことはありませんので」
「えええ…、マジでぇ?ウソでしょ、それ〜」

まるで信じられないと言わんばかりに疑惑に染まった眼差しで追及してくる男に、名無しは逆に問うてみることにした。

「むしろ私がお聞きしたいのですが、どうしてそんな質問をなさるのですか?」
「ん?どうしてって、基本的に男女の友情ってもんを全く信じていないからだよ。昔っから」

それが、今の話とどう関係があるのか。

急に何の話を始めたのかと訝しむ間もなく、彼は淡々と語り始める。

「俺が思うに、男と女の間で純粋な友情とやらが存在するとすれば、それは特定の条件を満たす場合のみに限られると思うんだよね」

珠稀曰く、男と女ではそもそも遺伝子的に異性に対する大元の認識が違うのだという。

女は外見や能力、経済力などの様々な魅力に惹かれて男に好意を抱くのに対し、男は女に対してまず第一に性欲を刺激されるかどうかが判断基準となる。

「男は自分の遺伝子を沢山残したいという本能があるので、チャンスがあれば女なら誰かれ構わず種付したいし、殆どの奴は嫌いじゃなければ大体ヤレる」
「で、ですが…恋人や妻を傷つけたくない、彼女にバレて泣かせるくらいなら浮気なんてしたくない、という男性も中にはいらっしゃるではないですか?」
「だから、『チャンスがあれば』と言ったんだよ。その言葉の中には、恋人や妻には絶対に知られない・バレずに済むだの妊娠だの諸々を含め、そういったことを何一つ考えなくていいオイシイ状況が整った場合を含めるってこと」
「…うっ…」
「女友達がイイって言うならキスもしたいし、裸も見たいし、なんならチンコだって突っ込みたいです。でもご心配なく。ちゃんと友情はあります、って思う男はゴマンといる。すでに酒の勢いやらなんやらでやらかしちまった女や、現在進行形でセックス込みの友情もある。勿論、セフレも含みます」

久しぶりに教授モードになった珠稀に真顔で説明され、名無しは彼の主張にうっかり呑み込まれそうになる。

確かに、男というものはそういう一面を持つ生き物なのかもしれない。

だがしかし、だからといって自分と周瑜、凌統、陸遜の関係がどうなのかと問われると、話は別である。

「……では、珠稀さんが仰った友情が存在するための『特別な条件』とは一体どのようなことでしょうか?」
「簡単さ。お互いの魅力が完全に釣り合う場合に他ならない」

男性的な顎に手を添えて、珠稀はきっぱりと断言した。その口調からは、彼が本気でそう考えていることが伝わってくる。

「そもそも論だけど、ただの友人関係とはいえ、全く何とも思っていない相手とは友達にすらならないよね。こいつと友達になりたいって思うってことは、顔なり性格なり考え方が尊敬できるなり、価値観が合うなり話が弾むなり趣味が一緒なり、それなりに『良いやつ』って思うから仲良くできる訳だろう?」

そうかも、と名無しは思った。

友人の紹介だとか、たまたま同じクラスだとかで連絡先を交換したとしても、色々な理由で合わない≠ニ感じた相手とは自然と疎遠になっていく。

脅されたり弱みを握られている場合は別として、友人関係を続けているということは、自分にとって何らかの魅力を持つ人物ということになる訳だ。

「それにも関わらず恋愛感情だけ≠ヘ持たないって事は、見た目が好みじゃないとか性格が良くないとか、『友情以上・恋愛以下』のラインをお互いが保っているってことだろ。友達としてはアリだけど、恋人の条件としてはアウトかな、と双方が思って初めて男女の友情になるんだよ」
「なるほど……。つまり、片方だけでも恋愛以上の条件を満たしてしまったら、その時点でもう友情が成立しなくなるということですね」
「そういうこと」

珠稀は頷き、喉に潤いを与える為グラスに口を付ける。

「で、だ。仮に友人関係にある男側の魅力を3、女側の魅力を6としよう。その場合、二人の力関係はどうなると思う?」

唐突に問題を投げかけられ、名無しの脳は即座に回転を始めた。

「えっと…。単純に考えれば、女性の方が男性よりも倍の魅力に溢れているという前提になりますので、男性からすれば異性として大いに魅力的な存在であり、恋愛感情を抱いてもおかしくはない…ということでしょうか」
「まあそうだね。そんでもって、その逆はない。女から見れば男の魅力は自分よりも遥かに下だ。俗にいう『友達としてはいいんだけど、彼氏としてはちょっとね』ってやつ。この理屈だと、女にとって男はいつまで経ってもただの友人でしかない」

前髪を毛怠げに掻き上げ、珠稀は再びスピリタスを口に含む。

「でも、この女だって相手が変われば事情も変わる。じゃあ次に友達になった男の魅力が8だとどうなるか?今度は立場が逆転して、女の方が相手を異性として意識するが、男側は『友達としては以下略』になる。それでも男はさっき言った通りよっぽど嫌いでなきゃセックス自体はできるから、本命が出来るまでの繋ぎや浮気相手、ただのセフレくらいなら付き合ってやってもいいと考えるかもしれない」
「なるほど…」

ここで、ようやく名無しにも珠稀の言いたいことが分かってきた。

「もっと上の話になると、片方の魅力が10だとすると大抵の異性からは恋愛対象に見られてしまうけど、同じ10の相手であれば『いい友達』でいられる。要するに、ブスや不細工同士でお互い恋愛対象にはならないけど性格は好きだとか、平均値同士だとか、イケメン御曹司と売れっ子女優の恋愛強者同士だから相手を何とも思わないとか、双方の魅力が釣り合わないと男女間の友情を成立させるのは難しいってことさ」
「では、世の中に存在する多くの男女の友情は…」
「同レベルの組み合わせで全く恋愛対象として見てないか、何かしら都合が良いか、人知れず片想いを我慢している、のどれかに分類されるんじゃないかと思うよ」

珠稀の話を聞いて、名無しは考え込んでしまった。

彼の持論があながち間違いではないとするならば、真の意味で男女の友情が成立する条件というのは、かなり厳しいものがあるように思える。

「珠稀さんのお話は分かりました。ですが、それと私への質問と、どのような関係が…」
「あの三人が、全員超が付くくらいに魅力値高すぎのイケメン野郎どもばかりだからだよ」

思わず息を呑む名無しに構わず、男の発言は続く。

「どいつもこいつも顔良し、体良し、あの若さで地位も高い高給取りだ。選りすぐりの美女揃いの俺の店に訪れても、だらしなく鼻の下を伸ばしている奴なんか一人もいない。ってことは、普段から女にモテまくっていて、女の扱いにも慣れている。同性から見ても腹立つくらいの色男揃いで、その上バリバリに強くて腕も立つ。普通の男だったら一緒の部屋にいるだけで圧力感じまくって窒息しそうだわ。そんな兄ちゃん達とずっと同じ城で働いているにも関わらず、名無しちゃんが一切意識しないなんて現実感なさすぎるよね?」

畳み掛けるような珠稀の勢いに、名無しはゴクリと喉を鳴らす。

凄い主張だ。言われてみれば、全く持ってその通り。

100人が珠稀の意見を聞き、実際に周瑜達と接すれば、おそらく98人くらいは彼の話に同調すると思われる。


[TOP]
×