三國/創作:V | ナノ


三國/創作:V 
【Another worldW】
 




「……へっ?ごめん秦君。話がイマイチよく見えないっての。アンタが告白された桃香って…誰の事だい?」
「はぁ───!?なっ…何を言い出すんですか!?凌将軍、本当に貴方という人はっ……」
「……あれっ。ひょっとして、俺の知っている女だったりする?」
「知っているも何も、凌将軍が昔付き合っていた女性の一人ですよっ。桃香さんっていう、尚香様のお付きの女官です。兵士達のマドンナ的存在の、童顔でグラマーな美少女ですよっ。本当に誰の事だか忘れていらっしゃるのですか!?」

驚きのあまり大きな声をあげて彼を責める俺の拙い説明に、凌将軍が『うん?』といった感じで端整な顔を微かに歪める。

凌将軍は失われた遠い過去の記憶を深く掘り下げているかのような、何とも言えない微妙な表情でしばらく考え込んでいる。

無言のまま遠くの景色を眺めていた凌将軍だが、ふと何かに気付いたように隣に立っている甘将軍におもむろに声をかけた。

「…もしかして、甘寧。桃香って俺とアンタの元カノの一人かい?」
「あぁん…?桃香だぁ?いたっけ、そんなヤツ。生憎と俺は記憶にねーな」
「何言ってんの甘寧。ほらほらアレだよ。あの子だよあの子。ロリ顔巨乳でEカップ、立ちバックが一番好きな体位のあの子……」
「あ───っ。確かにいたな、そんな女。尚香の専属女官のあの女か。ああ、その説明だったらはっきりと思い出せるぜ。名前だけじゃいまいちな……」
「俺も全然思い出せなかったっつうの。俺が今まで付き合った女の中に、正直桃香って3人いるんだよな。どの桃香か全然区別がつかなかったっての。ははっ」

男前の顔を緩ませて、朗らかに笑い合う凌将軍と甘将軍の姿を直視した俺は、唖然として開いた口が塞がらなかった。


と、言うか、彼らの思考回路が全く理解が出来ない。


どれだけの長い期間だったのか、はたまた短期間だったのかは知らないが、まがりなりとも一度は情を交わした女性ではないか。


せっ…、セックスまでした、深い関係の女の人じゃないのか。


どうしてその相手の顔や名前を思い出すよりも、体の記憶が先に出てくるというのだろうか。


本当に、信じられないっ。



「お…お二人とも、最低ですっ。何でそんな言葉が真っ先に出てくるのですか。もっと一緒にご飯を食べたとか、一緒に出かけたとか…他の思い出とか、無いんですか!?」
「お…?」
「大体何でお二人ともそんな記憶ばっかり残っているんですか。それ以外の事は顔も名前も殆ど覚えてないなんて、相手の女性に失礼だとは思わないんですかっ!?」

突然大きな声で自分達を糾弾し始めた俺の態度の豹変振りに、凌将軍と甘将軍が『おや?』というような顔をする。

「うーん…。そんな事、秦君に言われちゃってもねぇ。普通はそんなもんじゃないのかい?」
「ふ、ふ…普通って……」
「顔も名前も全然覚えてなくたって、一発ヤッてみればすぐ分かる。ああ、この感触はあの時抱いた女だなとか、この胸の大きさは、この締まり具合はこの前公園でヤッた女だなとか。それが由緒正しきセックスフレンドの関係ってもんじゃないのかい?」
「!!」

凌将軍の色っぽくてしっとりとした低音のハスキーボイスが、俺の疑問をピシャリとはねのける。

意味が分からないといった顔をして、凌将軍が困ったように眉間にキュッと微かな皺を寄せた。

「普通はそんなもんだよねえ?甘寧。この坊やが一体何をそんなにムキになって怒っているのか、俺にはさっぱり分からないっての」
「さぁ…。俺にも良く分からねえな。お前の言っている事、よく理解が出来るし…別におかしくも何ともないと思うぜ。───俺から見ればな。とりあえず、そっちの坊主が今時珍しい堅物タイプだっていう事だけは分かったぜ。どっちかっつうと名無しの好きそうなタイプだよな」
「ハッ…。馬鹿な事を言うんじゃないよ。女遊び一つしない真面目ちゃんのどこが面白いって言うんだか……。誠実で浮気もしないつまらない男と、遊び人で浮気性のプレイボーイと、どっちが雄として魅力的なのか、頭じゃなくて子宮で良く考えろっつーの」

凌将軍の言葉に、甘将軍と陸将軍が顔を見合わせて苦笑する。

彼の言葉は自分達にもそのまま当てはまっていると自覚しているのか、彼の主張を認めこそすれ、別段反論するつもりもないようだ。

未だにこちらの様子を伺いながら興味津々といった感じでひそひそ話をしている周囲の観客達を、甘将軍は面倒臭そうな目でジロリと睨む。

「まあ、今回の件は正当防衛っつう事で上にも話を通しておいたからよ。それでも面倒臭え細かい事をごちゃごちゃ言ってくるヤツがいたら、俺が全員まとめてやってやんよ」
「は…はい…」
「お前は何も気にせず、明日は思い切って全力でかませ。たかが女一人の事でギャーギャー文句垂れるような、くだらねえ馬鹿共に負けんじゃねえよ」

口汚く吐き捨てられたものの、甘将軍の言葉は俺が思っていた程に否定的な内容ではない。

根っからの体育会系の彼のような男にとって、今回の件みたいな裏工作の類は許し難い行為に値するのだろう。

「さて…秦。あまり時間がないので本題に入らせて頂きますが、貴方は今どのような鍛錬をしているのですか。明日に備えて貴方が選んだ方法は?」

それまで黙っていた陸将軍が、唐突に声をかけてきた。

彼が何故そのような事に興味を示してくれたのかは分からないが、俺は聞かれた事に正直に答える事にした。

「本番っぽく、何人抜き…みたいな練習をしようと思いまして…。とりあえず10人突破出来るくらいまでは体力と技を付けたいなと思って、先程9人目の試合を終えた所です」
「真剣ですか?模造刀ですか?」
「え…。模造刀です。俺のランクの試合は模造刀で行うと聞いておりましたので、それに合わせた方がいいのかと……」

しどろもどろな俺の返答に、陸将軍がちらりと自分の背後に目線を送る。

陸将軍が見据えた先には、兵士達が練習用に使う予備の模造刀が何本か置いてあった。


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