三國/創作:V | ナノ


三國/創作:V 
【Under WorldX《前編》】
 




「体型だってそうだ。こういう仕事に就いているんだから仕方ないっちゃ仕方ないのかもしれねえが、お前らは体が完全に出来上がっていやがるんだよなあ。キングも普段女みてえにひらひらした布を被ってるから分かりにくいが、脱ぐと凄いんです!って野郎だろ。珠坊もお前も、何だかんだで筋肉質だし。俺は触れたら折れそうな、庇護本能をくすぐる華奢な男が好きだってのによ。ハァ……」

どうやら、見た目だけなら体型を除きほぼ満点レベルで自分の美的感覚に合う珠稀とキングなのに、内面に関しては好みと真逆に位置する人物であることを心底残念に感じているらしい。

後半からは完全に愚痴り始めた銀狼を見て、珠稀達は内心喜びに打ち震えていた。

俺達って親父さんorおじさまの好みじゃないってこと?やったぜ!!!!

同性、しかも身近な人間から性的な対象として見られないことが、これほど有難いことだとは。

もう絶対に路線変更しない。死ぬまでこのままのキャラで行く。

自分達の性格の悪さを改めて他人から指摘されて喜ぶ人間もあまりいないと思われるが、男達はこの上なく満足そうに笑っている。

「……おじさまは、もう結婚はされないんでしたっけ」

話題転換を試みたのはキングだった。

実は結構気になっていたことなので、さりげなく探りを入れてみる。

キングが把握している限りでは、銀狼は四度の結婚歴を持っていた。

四回ともマフィアのボスらしく盛大な結婚式を執り行い、地元の有力者に金を握らせて誰にも邪魔をされないような立派な会場を貸切り、彼の手下や他のマフィア組織のボス、その手下など呉の裏社会に住む人間150人以上が出席していた記憶がある。

確か、二度目の結婚式ではその時期に行っていた犯罪行為のせいで警察に目を付けられて、結婚式の出席者を一網打尽にするべく会場の出入り口を全て警察に固められ、大騒ぎになっていたはずだ。

そんな派手な結婚式ばかりを挙げていた彼が、ここ数年は誰とも結婚せずに静かに暮らしていると聞く。

「まあな。昔は堅気の人間の真似事をしていた時期もあったが、やっぱり結婚なんていい事ばかりじゃねえからな。特に、俺みたいな職業の男は」

そう言って彼は葉巻に火を付ける。

紫煙を燻らせながら、彼は続けた。マフィアのボスなんて、結婚してもロクなことにならないのだと。

マフィアというのは裏社会の組織だ。

暴力や殺し合いが日常茶飯事で、いつ抗争に巻き込まれて死んでもおかしくない。

勿論、自分の恋人や家族であれば大切に扱うし、最優先で守りを固める。それらを傷つけ、脅迫し、武器を向ける者がいれば絶対に許さない。他人には指一本触れさせないというのが前提だ。

しかし、そんなものはただの理想話。どれだけ注意していても、どれだけ必死で守っても、守り切れない時はある。

裏切り、騙し、蹴落とし、必要ならば相手を陥れる。それは敵対する組織だけではなく、同じファミリー内であっても同じこと。

跡目争い、出世争い、信頼していた部下の裏切り、スパイ行為、そんなものはいくらでもある。

そして、そういったトラブルが勃発した際、争いの犠牲になるのはいつも決まって『何よりも大切なモノ』。

「相手を弱らせ、傷つけようとする時。強制的にこっちの命令を聞かせようとする時。相手に復讐しようとして、地獄の苦しみを与えてやりたいと思う時。そういう時、真っ先に掻っ攫うのは相手が一番大事に抱え込んでいるモンだ。……そうだろう?」

銀狼はそう言ってキングの方を見た。

「そうね」

男の言っている事は、まさしく事実だ。

───愛する両親、妻や夫、娘や息子、恩師、友人、親友、何よりも可愛がっているペット。

徹底的に相手の周辺をマークして、何を一番大切にしているのかを調べて、それらを誘拐して、拘束し、痛めつけ、よってたかって犯し、辱め、最後には殺す。

殺しただけでは飽き足りず、その死体をさらに犯してグチャグチャに汚したり、バラバラの肉片に刻んで豚や野犬に食わせてやったり、サメの餌にしてやったり、何なら文字通り調理して食べてやってもいい。

そうやって相手を絶望させると同時に、自分の嗜虐心を満たす。

相手が最ももがき苦しみ、涙を流し、発狂するような方法でもって。

自分が傷つくよりも大切な物を失う方が何倍も辛いということを心と身体に刻みつけてやる。それがマフィア流だ。

「俺の最初の嫁は、敵対組織に誘拐されて、50人以上の男に輪姦された後で焼き殺されて死んだ。次の嫁は、裏切った部下に手土産代わりに拉致されて、うちと勢力争いの真っ最中だった奴らに売られて拷問された挙句、腹を割かれて赤ん坊ごと内臓を引き摺り出されて殺された」

銀狼が葉巻を咥えながら、淡々と言う。

「その次の嫁は男だった。俺と出会った時にはまだ二十歳になったばかりで、その一年後には俺を殺そうとした奴の前に飛び出して、俺を庇って脳天を割られて死んだ。人生これからだってのに、可哀想にな。四人目は見た目も体もセックスの相性もピカイチで、心底自慢の嫁だったが、恋多き女だったのが欠点でな…。俺を裏切り他の男と浮気して逃げた後、最終的には俺に見つかり嬲り殺しだ。死んだ後も、見せしめとして街路樹に吊るしてやった」

どいつもこいつも、本当に酷い死に方ばっかりだ。

ま、最後の奴は俺が殺した訳だが。

まるで他人事のように語る彼の瞳は、何も映していないように見えた。

「だからよ、俺は結婚なんてもんにはつくづく懲りちまったんだ。もうあんな思いはしたくねえし、させたくもねえ。不幸の連鎖はもう御免だからな」

彼は葉巻の先端の灰を落としながら呟く。

「……おじさまらしいわね」

キングは、そんな銀狼を見て微笑む。

「そんな訳で、今は適当に愛人でもこしらえて楽しむ程度だな。その方が気楽でいい」

愛人なら大丈夫という訳ではないが、10人、20人と沢山作れば敵の狙いも分散する。誰が本命なのか、外からは分からない程遊びまくるくらいが丁度いい。

ボスの愛人として望む物は全て与えられ、他人が羨むような贅沢な暮らしを享受できる一方で、同じくらいかそれ以上のリスクと業をその身に背負う。

それくらいはあいつらだって十分承知の上だろう、と銀狼は述べた。

「まあそんな事は今更俺なんかが語って聞かせる必要もないくらい、お前らだって身に染みて分かっているだろうが…。だから珠坊は決まった相手を作らず生涯独身主義を唱えている。キングもそうだろう?」

可愛い年下の後輩達を振り返り、問いかける。

「そうねえ。おじさまの婚姻について口を挟むつもりはないけど、あたし達にとっては本命を作る∞家庭を持つ≠ニいうのは自分の弱点を増やすのと同じだからねえ」

キングは、うんうんと頷く。

特にファミリーのボスの伴侶や子供ともなれば、いつ狙われても不思議ではないし、場合によっては人質として使われる。

そうなった場合、家族を切り捨てる覚悟がなければ、自分は詰んだも同然だ。

「ね、旦那」
「……どっちみち、俺に釣り合う程のイイ女なんてこの世にいないっていうのが真理でしょ」

珠稀は冗談めかした口調で言いながら、軽く肩を竦めて見せる。

銀狼とキングの問いに対して、彼は直接的に頷く事も否定する事もしない。

ただ唇の端を微かに吊り上げ、曖昧な笑みを作るだけ。


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