三國/創作:V 【Under WorldX《前編》】 「よく分かりませんが、女性はセックスにおいて受け入れる側であり、常に妊娠の危険性を孕んでいますので、行為をする男性はなるべく金銭的にも社会的にも安定している相手を求めるのではないでしょうか。妊娠しても相手が貧乏だったら逃げられそうですが、地位の高い男性であれば世間体を考えてせめて堕胎手術の費用と口止め料くらいは払ってくれる可能性がありますし」 「若いのによく考えているねえ。何なの?俺より年下なのに、陸遜は女性向けエロに詳しい有識者なの?」 そんなこと、私に聞かれても困るのですが……。 陸遜はそれ以上の討論を拒み、代わりに凌統へ冷たい視線を向ける。 あれこれ考えてみたところで結局自分たちは男なので、女性の気持ちを理解できているのかどうかは自信がない。 「これも単なる余談だが、ここに男性向けエロの年齢別人気ジャンルを書いた用紙がある」 折りたたまれた用紙を手にした周瑜が、凌統達を静かに見つめた。 「こういった本を扱う店舗に仕入れの参考として問屋から渡されるらしい。ではここで問題だ。10代〜60代の男性読者に好きな傾向を選択して貰った集計表で、全ての年代で一位を獲得している怪物ジャンルがある。それは何だと思う?」 周瑜の問いに、男達は互いに顔を見合わせる。 全ての年代で一位を獲得しているジャンル?そんなものが本当にあるのか? 男性が100人居れば100通りのエロがある。巨乳好き、貧乳好き、熟女好き、処女、色々だ。 この部屋にいる4人だけでもそれぞれ好む傾向は微妙に異なるだろうに、様々な年代の男性読者の人気を特定ジャンルが総取りしているのだとすれば、まさしく怪物コンテンツだ。 「へえ、そんなのあるんだ。何だろうね。上位入りする要素ってことは人妻、中出し、近親相姦、ロリあたり?」 真っ先に答えた凌統に続き、甘寧が指を折りながら語る。 「エロ本屋で大量に置いてあるのはレイプとか輪姦みたいな無理やり系じゃねえのか。無理やりと言えば媚薬や催眠、調教もあるぜ」 低い声で応じた甘寧の回答を待って、陸遜も知恵を絞った。 「好きそうな男性が多そうといえば、定番ですけど巨乳や処女、痴漢辺りですかね?触手や異種姦、ふたなりも好きな人は大好きですが、結構人を選ぶジャンルだと思うんですけど」 三人の意見が出揃ったところで、周瑜は紙を開いて中身を確認した後、ゆっくりと首を振る。 「残念ながら全員ハズレだ。10代〜60代までの6つの区分に分けた人気投票で、栄えある6冠を達成したのは『寝取り・寝取られ』だ」 「ええっ…!?寝取り寝取られ系が6冠王!?本当ですかっ!?」 陸遜が珍しく焦った声を出すと、周瑜は頷き、陸遜に用紙を渡してくれた。 周瑜に告げられた回答が意外だったのか、ただの興味本位なのかは知らないが、甘寧と凌統も陸遜の左右から彼の手元を覗き込む。 「うわ…、マジもんじゃねーか。そして10代から20代の人気2位はどっちも『催眠』で、30代以降の人気2位は全部『人妻』だと?闇が深いな…」 「『催眠』って女の子を思い通りに出来て人気がありそうに思うけど、何で年齢とともに順位が下がるんだろうね」 「読者側も徐々に催眠から目が覚めていくんだろ」 「夢も見られない厳しい世の中で参っちまうね。闇と言えば、俺的には30代から急に『近親相姦』の人気が10位以内に上がっているのも結構アレだと思うんだけど」 「30代前後は妹や姉か母親相手、40代以降は娘相手の作品が人気とかじゃねえのか」 「妙な現実感を例に出すのはやめてくれないかい?」 「それにしても寝取られが天下統一するとは恐れ入ったぜ。俺はそうでもねえが、好きな奴がこんなに多いとはな」 「これ見てると、10代20代は20位以内に上がっていた『ラブラブ・甘々』が30代になると下降して、40代以降は一切ランクインしていないのも妙な現実感が湧いて悲しいねえ」 「代わりに30代からは『ロリ』が上位入りしてやがる」 「闇が深いっての…」 意味が分からない。全く持って意味が分からない。 両隣でああでもない、こうでもないと語り合う男二人の盛り上がりを無視して、陸遜は用紙を持つ手を小さく震わせる。 「そんな…本当ですか?私の好きな『ラブラブ・甘々』は全年齢の平均順位は16位で、30代から人気が下降する…!?イチャイチャラブラブとか、両想いの和姦物って男性向けエロだとそんなに順位が低いんですか?」 どうやら彼の台詞から推察するに、自分が一番好むジャンルが世間的にはそれほど順位が高くないと知ってショックを受けているようだ。 陸遜が挙げる『ラブラブ・甘々』が好きな男性も勿論いるし、それ系の作品でないと絶対に読めないという熱烈な支持者も中にはいるだろうが、全体的な割合から見ると他のジャンルを支持する人数には負ける。そういうことだろう。 ランキングの下には各ジャンルの項目があり、それぞれに他の読者からの評価の高い意見≠ニされた回答が一例として掲載されていた。 「なになに…、『寝取り・寝取られ』で最も評価の高い意見は…っと」 こんな時でも憎らしい程にイケメン顔のままの凌統が、紙面に視線を走らせる。 全ての年齢層を総ナメした『寝取り・寝取られ』ジャンルのユーザーコメント欄にはこう書かれていた。 ≪『寝取り・寝取られ』は様々なシチュエーションで読むことが出来る。寝取られる側に自己投影して悔しさと悲しみに悶絶しながら読むのも良し、寝取る側に自己投影して他人の女を犯す満足感、征服欲や支配欲に酔い痴れるも良し、はたまた寝取られた女性側に自己投影して『こんな奴らに思い通りにされるなんて悔しい…、でも感じちゃうッ!!』とビクンビクンするのも良し、または全く関係のない第三者視点で『うわ〜カワイソ〜』『いいぞ、もっとやれ!!』と野次馬根性丸出しで楽しむのも良し。いわば『寝取り・寝取られ』こそ真のエロス、欲望の宝箱と言えよう≫ 「何なの?こいつ。何者なの?」 「落ち着いて下さい、凌統殿」 「落ち着いていられるかっつうの。こんなの、ただの読者だなんて言われても俺は信じないぜ。こいつも有識者の一人なの?それともエロの達人なの!?」 いきり立つ凌統の吐息が、赤い唇から吐き出される。 好きな物の順位の低さに動揺を隠せない自分とは違い、読者の回答にまで激しい突っ込みを入れる余力のある凌統という人物に、同じ男としてある意味羨ましさを陸遜は感じた。 周瑜も甘寧もそうだが、世間の人気とやらを目にしてもあっそう≠ニ軽く流している節がある。 普段から女に不自由せず、望めばどんなシチュエーションのHも可能であろう空腹感のなさに関しては全員同じだが、あえて言うなら陸遜と比べて年齢差による経験値というか、大人の男故の余裕というものなのかもしれない。 「まあそう気にするな、陸遜。こんなものはあくまでも特定の企業が特定の年に特定の読者を対象として回答を募ったというだけの内容だ。条件が変われば結果も変わるさ。君が気に病む必要はない」 「…そうですよね…。ありがとうございます、周瑜殿」 美少年とはかくやといわんばかりの美貌を曇らせ、陸遜は目を伏せた。 確かに周瑜の言う通り、好みなんて人ぞれぞれ。 それに、押収物の内容を精査するのは必要であるが、事件や犯罪の原因となった要素や対策に必要な部分以外まで踏む込む必要はない。 [TOP] ×
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