三國/創作:V | ナノ


三國/創作:V 
【Under WorldX《前編》】
 




「うーん。女性は基本的にセックスに対して愛を求めるので、ヒロインがお相手に愛されている、二人は両想いなんだというのが分かるような場面も入れて欲しい。そういった要素も盛り込んでほしいということでしょうか」
「だったら台詞だけでいいじゃねえか。適当に吹き出しでも入れておけ。女の体にかからず、邪魔にならねえ空間に」
「……女性向けなので男性の感じている顔も立派な鑑賞対象であり、ヒロインとの行為で感じているお相手の顔を見て『こんなにうっとりした顔をするなんて、彼女のことが本当に好きなのね』『息を乱して感じているのは、愛がある証拠なのね』と思って、読者も幸せな気持ちになるとか?」
「愛なんてなくても粘膜同士を擦りつければ感じるし、汗くらいかくし、呼吸も乱れるだろ。男がハァハァしながらヒロインと長時間ヤッていたって、何の証拠にもなりゃしねえ」
「夢も希望もない台詞をありがとうございます」

陸遜は仏頂面で答えた。

せっかく頭を捻って女性の気持ちを想像しながら読者のフォローに回っていたというのに、こちらの防具を全力で踏み抜いてくれるではないか、この破壊神は。

まあ、ある意味この真っ直ぐで正直すぎる性格が、甘寧の良さではあるのだが。

「ついでに言えば、エロに物語性なんて俺は一切求めてねえし。何で女向けのエロってエロ以外の話が長いやつが多いんだ」
「ああ、確かに」

今持っている本もそうなので、陸遜は頷いた。

30〜40ページ程度の物語が数本収められている短編集だが、その中でエロシーンはというと一話辺りほんの数ページである。

陸遜が見た感じ、女性向けのエロは漫画・小説問わず愛し合う表現が主題であり、登場人物の紹介や二人の関係性、日常シーンや行為に至るまでの流れ、告白場面やヤキモチを焼いたり痴話喧嘩といった紆余曲折を描き、段々Hシーンに向けてストーリーが盛り上がっていく。

実際のH行為を書いた場面は全体からすると1割〜2割程度で、先述の内容やHの後のピロートーク、それがきっかけで二人は正式に付き合う事になって…と後日談にも紙面を存分に使用していた。

それに比べ、陸遜が今まで目にしたことがある男性向けのエロ本はガッツリエロや性器に特化した内容といったところだろうか。

『エロが主食。エロこそ正義!!』とばかりに申し訳程度の人物紹介や日常シーンがあり、それ以外は7〜8割全部エロという具合に女性向けのとは完全に割合が逆転している。

「戦闘物とか推理物とか、冒険物とか、エロはただのオマケみたいなもんでほんのちょっぴり、主題は別っていう作品ならそれはそれでいいんだよ」

実際、そういうのも普通に読むしな、と甘寧は言う。

「だがそうじゃない。男女の交合がメインで性器までガッツリ描くようなエロ本だろう?下手に物語性があったり話が面白いエロだと、つい夢中で読み込んじまうじゃねえか。エロに全然集中できやしねえ」
「意外と真面目なんですね」
「エロはエロなんだから、ストーリーなんて必要ない。エロけりゃどうでもいいんだよ」

まさにエロ本は単なる実用本、と豪語する甘寧のような考えを持つ男性は、世の中に一定数存在する。

むしろ、アンケートでもして統計を取れば多数派に属するかもしれない。

男性向けのエロ本が女性向けと比較してエロに振り切った内容の物が多いのは、そういう需要なのだろうか。

「エロ以外のページは基本的に全部飛ばす。っつうか、エロしか見ない。男なんてみんなそうだろ」
「んなこたぁない」

甘寧の主張に、凌統は首を振って異を唱える。

「俺はメインだけじゃなく前菜もしっかり味わうタイプだよ。ヒロインの自己紹介とか、日常も興味あるしね。趣味がどうとか、休みの日に友達とはしゃいでいる場面とか可愛いじゃん」
「そうなんですか。初めて知りましたが」
「でも甘寧の言う通りあくまでもエロ本はエロが本番なんだから、そっちに労力も時間も割いてほしいかな。40ページの漫画ならエロ以外は5ページ、残りは全部エロがいい。30ページ以下なら最初から最後までエロしかいらない」
「結局エロ目当てじゃないですか、エロリントン」
「当り前だろう?エロ本なんだから。エロ以外をたっぷり楽しみたいなら最初から少女漫画なり青春漫画なりを読むっての。エロ本というカテゴリーにおいて、男は好みの女体で好みのジャンルのエロさえ見られればそれでいい。男子にはエロ以外に必要なものなど何もない」
「全ての男がそうだと言わんばかりに断言するのはやめてくれません?迷惑ですので」

形の良い眉を歪め、陸遜が深々と溜息を漏らす。

さっきから全員でエロエロエロエロ言いすぎて、エロがゲシュタルト崩壊しそうな勢いになってきた。

「あとさあ、俺も数十冊流し読みした程度の感想だけど、何だか女性向けのエロっておしゃぶりに手を抜いていないかい?何ならエロ全体の半分くらい続けて欲しいね。男はおしゃぶりが大好きなのに」

唸った凌統に、陸遜は少し考えて返事を述べる。

「男はおしゃぶりされるのが大好きですが、長時間のフェラは喉も痛くなるし顎も疲れるしで女性にとっては苦痛なので、女性目線だからこそさっさと済まされるのではないでしょうか」
「悲しいねえ〜。現実では疲れるからこそ、せめて漫画や小説の中では頑張ってくれたら感激するのに。それと女性向けの場合って、大抵相手役の男が全員高性能イケメンばかりに思えるんだけど」
「例えば?」
「やれ若社長だの、実業家だの、医者や弁護士だの、マフィアやヤクザのボスだの、国王だの、王子だの、財閥の御曹司だの、売れっ子モデルやアイドルだの。たまに普通の幼馴染や仕事が出来ない後輩みたいな役割もあるけど、その場合はもれなく美形やセックスは上手みたいな有能竿役ばかりだし。女の子は男の誠意じゃなくて金に感じるの?もしくは顔と体にしか興味がないの?」

相手の若さや顔、スタイルに固執するのは男だって一緒だろうが!と反論したいところだが、女は相手の『スペック』を重要視するという凌統の言い分には一理あると陸遜は思った。

男性向けでもヒロインが女社長やお金持ちのお嬢様、モデルやアイドルみたいな場合もあるが、こと『エロ』という目的において、若くて可愛い女性であればそこまで相手の地位や職業は固定されない。

無職、引きこもり、家出少女、ホームレス、犯罪者、女囚人、売春を繰り返す女子中学生や女子高生。

何なら奴隷の少女であっても欲望の対象として描かれるが、女性向けのエロで『ダーリンは無職の引きこもり』とか『ホームレス彼氏との甘い生活』という内容は滅多に見かけない。少なくとも、押収した作品の中にはなさそうに見える。

これが恋愛や結婚相手であれば多少は相手のスペックにもこだわるのも理解できるが、何度も言うがここにあるのは甘寧いわくただのエロ本だ。

単純に気持ちの良いセックスをするだけ≠ニいうならば、相手が無職でも社会不適合者でも関係ないと思うのに、一体何が駄目なのだろう。

そういえば、男性向けのエロの場合は女性がただのオモチャのように扱われたり、最後に劣悪な環境の風俗に売り飛ばされて性奴隷堕ちしたり、好きでもない男の子どもを妊娠させられたりしてバッドエンドという展開も結構見られるものの、女性向けの場合はそういった結末は少ないような気がする。

ただのエロ本という抜きコンテンツであっても、男と違って一切愛のないエロ≠ニいうのは女性読者の需要が少ないのだろうか。


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