三國/創作:V | ナノ


三國/創作:V 
【Under WorldX《前編》】
 




「分かる。全部女の子の頭の中だけの妄想ってやつだよね?大体さあ、そんなにモテる男が一人の女だけで満足する訳ないっつうの。絶対陰で他の女ともヤリまくっているって。セックスが上手いって事はそれだけ経験も豊富ってことだしね。エロシーンだってこんなヒロイン一人だけとのエッチじゃなくって、もっとこう、大量のセフレとともに…」

こんな理想を全て備えた彼氏や旦那様なんて、マジで有り得ない。

半ば苦笑しながら両者がページを進めていくうちに、問題のエロシーンに突入した。

「へえー、思ったよりも前戯とかしっかり描いてるねえ。いいじゃん。このコマとか、涎まみれでよがりまくるヒロインの喘ぎ声と恰好が実に下品でよろしい。俺好みだよ」
「思ったよりムチムチの巨乳とか出てくるじゃねーか。女向けなんてくっさい愛の台詞とイチャコラで無駄に紙面の大半を使っているだけだと思ってたが、意外と手マンとかクンニとかねちっこく描いてて好印象だわ」
「うわ…、断面図もあるの?これって男向け特有の表現かと思ってた。思い切っちゃってまあ…」
「すげえな、この女…。ここまでいくと完全にエロ教師専用の雌穴じゃねえか」

女向けのエロなんて…と最初は馬鹿にした態度で観察していた凌統と甘寧の顔付きが、次第にマジモードへと変化していく。

「なるほどな〜女の子が自分でする場合、こういう触り方をする訳か…。あ〜これは…おやおや…ねえ?」
「おやおや…こいつはちょっと…やばくねえか。外から丸見えだろ…」
「これ、どう見ても避妊してないよね。ねえ?うん、うん…。ここまでしちゃって…いけないねえ…ねえ?」
「……やっべえなあ……」
「……いけないねえ……」

今年一番真剣な顔で、めちゃくちゃ熱心に読んでるじゃねーか!!

何度も前のページに戻ってみたり、他の本にも手を伸ばして次から次へと読んでいく二人の姿を間近で見て、陸遜は思わず突っ込みたくなった。

そういえば自分も女性向けのこういった本を目にするのは初めてだったかもしれない。

二人の反応が面白すぎたので、凌統達に習って陸遜も手近な物を手に取ってみる。

「陸遜、君は別に読まなくてもいいぞ。無理をしなくていい。君は汚れた大人と違うのだから」

慌てて陸遜に声をかける周瑜に対し、甘寧が嘆息する。

「それ、俺らに対する悪口っすか」
「俺らじゃなくて、甘寧だけだろ。俺は清らかな男だし」
「殺すぞ凌統」

何でもケンカの材料にする凌統と甘寧のやりとりを平常運転に感じつつ、陸遜は数冊の本をパラパラとめくって中身に目を通す。

「絵柄が綺麗ですね」

思わず口をついて出たものは、お世辞ではなく、素直な感想だった。

ヒロインが可愛く描かれているだけではなく、髪の毛の描き方など線が細くてタッチが繊細だ。相手役の男性も皆一様に美形ばかりである。

「そうだな。男性向けの竿役は気持ちの悪い中年オヤジや太った男性、不細工も多いが、女性向けの竿役は若い美男子ばかりなので全体的に清潔感があると私も思う」

周瑜の言う『竿役』というのは、エロシーンでヒロインの相手を務めるキャラクターの事だ。

エロにおいて竿を提供する役目。男性器の形状を『竿』に例え、サオ氏と呼ばれたり、もっと露骨に『棒』と呼ぶ人もいる事は陸遜も知っていた。

だがそれを普通の男性が言うのとは違い、それこそ周瑜のような清潔感のある美男子がそんな言葉を放つ場面に遭遇すると何だかビビる。

同性としての親近感と同時に、いけないものを見てしまったような罪悪感と背徳感を覚えてしまう。

「確かにそうですね…。私は竿役も出来るだけ普通か平均以上の見た目が好きなので、そういった点では女性向けの絵柄の方が結構好きかもしれません」

周瑜の言う通り、男性向けの竿役は一般的にあまりハンサムとは言えない男性キャラの割合が多い。

よく聞くのはあまりイケメンだと自己投影しにくいからとか、受け手の女性キャラさえしっかり描いてあれば攻め側の見た目なんてどうでもいいからという意見もあるが、エロの傾向によっても理由が異なる。

ラブエロや和姦系の作品であればイチャつくシーンもあるので多少は男の顔も描かれるが、それ以外の場合は男の顔なんて不要で行為中も邪魔に感じるし、極端なことを言ってしまえば透明人間ですら構わない。

中でも可愛い女の子が汚されて調教されるようなレイプ物、輪姦物、薬物系や闇堕ち系と呼ばれるジャンルは

≪何の罪もない可愛い女の子が汚される。高嶺の花扱いの美女が普段は絶対に相手にしないようなレベルの男に無理やり犯され、痛めつけられる≫

というシチュエーションにゾクゾクし、見ていて興奮するといったタイプの読者層が多い。

そういった作品の場合、実際に読者アンケートで竿役がイケメンとか筋肉質な体をしていたり、スタイルがいい男だと萎えるのでやめて欲しい≠ニいう意見が送られてくると聞く。

『女性の嫌がる姿に興奮する・征服欲を刺激される』『美しい物を汚したい』という欲望を叶える無理やり系の作品は、大なり小なりを含めるとかなりのメジャージャンルだと思われる。

そういう需要に応えるためには、とにかく相手の女性キャラが嫌がる相手、絶対に恋に落ちない相手、より酷い目に遭うといった条件を満たす竿役ということで、汚いオッサンや小太りのモブが妥当で適役だ。

一口に男性向けエロといっても読者によって好みの女性やシチュエーションは様々で、中には陸遜のように『汚い竿役だと逆に無理』という男性もいるにはいるが、色々な需要があるのだろう。

「俺は違うな。正直エロ本なんてただの抜き目的だし、何よりも重要視するのは抜けるかどうかって実用性だから、美形・不細工関係なく男の顔なんていらねえぜ」

断言した甘寧が、微かに片方の眉を吊り上げる。

「とりあえずここにあるヤツを20冊くらい流し読みしただけだから全部がそうじゃないかもしれねえが、女向けのエロって女が派手にイク一番見どころの場面で突然イケメンの顔がドアップになるのは何でだよ」
「良く観察していらっしゃいますね、甘寧殿」
「せっかく女のエロい姿を堪能しているってのに、何で男が視界に乱入してくるんだよ!」

ああなるほど。

陸遜が目を通したセックスシーンも、ヒロインの乱れる様子だけでなく

『いいぜ、ちゃんと見ていてやるから思い切りイケよ』
『感じている顔も可愛いよ』
『俺も気持ちいい。すぐにイキそうだ…』

という台詞とともに、男性キャラがほんのり頬を紅潮させていたり、額に汗を滲ませている顔のコマが間に挟まれていた。

「男の感じている顔なんて見たくもねえし、興味もねえ。竿役はとにかくチンコが太くて金玉もデカくて、絶倫ならどうでもいい。そういうのでいいんだよ、そういうので」

腹に響く重低音で、甘寧が力説する。


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