三國/創作:V | ナノ


三國/創作:V 
【悪魔の花嫁V】
 




「……浅ましいとは思わないか。名無し。こんな所で、こんな格好で、こんな淫らな事をして」


浅ましい。


そんな事は曹丕に言われるまでもなく、今の自分の姿がどんなものかなんて重々承知している事だった。

それでも改めて曹丕に言われてしまうと恥ずかしくて堪らなくて、名無しは頷きつつもこのまま消えてなくなりたいと本気で思った。


こんな自分を曹丕が内心軽蔑していたとしても、今更どうする事も出来やしない。



どのみち彼にぶつける言葉さえ、もう────。



ガタガタと全身を振るわせながら頬を赤らめ、ポロポロと涙を流す名無しの仕草が頭がクラッとする位に可愛くて、曹丕は吸い寄せられるようにして名無しの顔に手を伸ばす。

そして名無しの顔を両手で包み、彼女の唇を何の予告もなくたっぷりと覆っていった。

「…曹…丕…?んんっ…」

突然の事に名無しは驚いて、思わず目を開けて曹丕の名前を呼んでしまう。

曹丕のキスは普段の彼からは全く想像付かない位にとても優しくて巧みで、そしてトロンと身体が溶けてしまう程甘くて魅力的なキスだった。

目を瞑るのも忘れて茫然と曹丕のキスを受け止めている名無しの唇から、そっと曹丕の唇が離れていく。

名無しの視界に飛び込んできた曹丕の顔は、凛々しくて端整で、とても整っている男らしい顔。


「お前の浅ましい姿も、醜態も、どれ程情けなくてみっともない姿でも、全て受け止めてやれるのは私だけだ」
「曹丕……」
「お前の長所も欠点も、全て理解してやれるのは私だけだ。普段のお前も、情事の際の淫らなお前も、その全てを私は好ましいと思っている。お前の全部を愛してやれるのは他の男ではない。私だけだ。なあ…名無し。そうであろう……?」
「あああ…、曹丕…。はい……そうですっ……」


とろん。


曹丕の魅惑的な瞳で見つめられ、普段よりも幾分甘い声音で囁かれ、名無しはうっとりと溶ろけきった表情で男の言葉を聞いていた。


そう言えば、そうだった。


例えどれだけ情事の際に醜態を見せても、曹丕や司馬懿は決して驚かない。


彼らの責め苦によって半狂乱のように喘いでも、失禁しても、嘔吐しても、気絶しても、普通の男達のように引いたりはせず、そんな自分を丸ごと愛でて、可愛がってくれるのだ。


曹丕の言葉に名無しはコクンと首を縦に振り、素直で従順な態度を見せる名無しに曹丕は嬉しそうに笑う。

その顔は普段冷徹で残酷なイメージの彼の微笑みからは遠ざかり、まるで真逆の、優しさを感じるモノにすら見えた。


───けれど。


(ああ…この眼だ)


魔性の光を放つ曹丕の瞳を見て、名無しは改めて秀英のような『普通の人間』と彼らの違いを思い知る。


では、一体どうしたら彼らのような眼光を手に入れる事が出来るのだろうか、と名無しは今までずっと考えてきた。


『本気で人を愛すれば、その気持ちはきっといつか相手に届きます』
『恋をすれば、人は誰でも綺麗になれます』
『真実の愛を知れば、人は誰でも美しくなり、魅力的な存在になる事が出来ます』

これは世間で一般的に言われている所謂『常套句』みたいな言葉だが、名無しは以前からこの考え方に疑問を持っていた。

恋をして一人の人間を愛し、その想いが思うように実らぬ切なさと哀しみを知り、深い嫉妬に身を焦がし、

『ああ、あの人をどうにかして自分だけの物にしたい!なんとしてでも自分の物にしたい!!』

と心の底から願い、恋の苦しみに己の全てを委ねて身悶える日々に身を投じれば、少しはなれる……ような気もしないではない。

けれど、残酷な事を言うようだが、どれだけ綺麗事や美辞麗句を並べ立てたとしても、愛の力だけでは人は彼らのような目にはなれない。異性の心を惑わせる、妖しい魔眼を持つ事は出来ない。


自分の思うままに相手を操り、身も心も弄んでやろうという残酷さ。相手の気持ちなど露程にも気にかけない完全な我が儘。


自分の都合で思う存分相手を振り回し、気が済んだら適当に捨ててやろうという非情さ。恋の苦しみと灼熱地獄に叩き落としてやろうという計算高さや狡猾さ、底意地の悪さみたいな物がないと『悪男』の眼、『悪女』の眼としては今一つ迫力に欠ける。


そして自分に備わった魅力に絶対的な確信を持ち、そんな自分に酔い痴れる程のある種ナルシストとも言える自信が無いと、その足元に跪いて己の身も心も捧げてしまいたくなる相手としては役不足であるとも言えるのだ。



─────では、名無しだけではない、この城に存在する全ての女達を一目で虜にする曹丕や司馬懿の魔眼とは、一体どんな色をした瞳なのか。



彼らの瞳は、常に『何か』を訴えている。



目があった瞬間、心の奥にスルリと入り込まれてしまうような、神秘的な何かを訴えている。意味深な何かを訴えている。

男女のセックスになどまるで興味がないような、どうでもいいとでも言うような眼をしている。何事にも執着していないような、虚無的な物を訴えている。

それでいて男性的な、雄の魅力にも満ち溢れている眼差しで、女の下腹部に熱を帯びさせるような、淫靡で、妖艶で、悩ましいものを訴えている。相手の官能に訴えている。

単純に心を揺り動かすだけとは違い、頭の天辺から足の爪先まで一気に電流が駆け抜けるような、骨の髄まで貫くような訴え方である。

自我が耐えうる限度を超えて、理性の糸がプチンと切れてしまうような、魔性の生き物のような眼光である。

甘い眼差し、優しい眼差し、癒やされる眼差しと言うよりは、むしろ見ているだけで息が詰まるような、苦痛にも近い鮮烈な眼差しである。


かと言って、女の機嫌を取るような、女に媚びるような卑しい目付きとは無論違う。


彼らに見つめられた女達の方がむしろその場で跪き、彼らの足元に縋り付き、身を委ねたくなってしまうような、無慈悲な目付きである。



是非とも貴方様に媚びさせて下さいと、女が自ら懇願したくなってしまう程に、悪魔の如き残酷な目付き。



「これが…欲しいだろう」
「……ぁ……」

目の前に曝け出された男の物を見て、名無しの唇から無意識の内に上ずった声が漏れる。

間近で見る曹丕の男根は、普通の男性のモノよりも一回り以上は大きかった。

口での奉仕を求められた際、名無しが精一杯口を大きく開いてくわえても根元まで飲み込めない位、太く、そして長いのだ。


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