三國/創作:V 【悪魔の花嫁V】 手にした蝋燭に火を点け、縄師が彼女の肌めがけてポタポタッと蝋を落とすと、蝋が落ちた周囲の白い肌がサァッ…と薄紅色に染まり、会場は妖しいムードに包まれる。 白い腹や太股、剥き出しになった乳首の上に直接男が熱い蝋を垂らすと、女はその度に「ひいいいい…!!」という喜びとも悲鳴ともつかぬ叫び声を上げて床の上を転げ回る。 敏感な部分に蝋が垂らされる度に女はビクビクと体を震わせ、エクスタシーに達しているように見えるが、それが演技なのか本気なのか傍目からでは分からない。 しかし、目も眩む程の美女が全裸のままで縄で縛られ、蝋燭責めで喘いでいるのは紛れもない事実。 会員制の高級SMクラブで催されているショーを見に来るだけあって、会場に訪れた客達は皆SMの愛好家であり、全員固唾を呑んでその光景を見守っていた。 「名無しの調教は進んでいるか」 「順調です」 主人から不意に振られた質問に、司馬懿が即座に返答する。 「散々躾けた甲斐があって、口技に関しては以前より大分良くなりました。今ディープスロートを覚えさせている最中です。近い内には殿の前でご披露できるかと」 「ふ…。名無しは喉が弱いからな。奥まで突っ込むとすぐむせる。それもお前の言う通り、以前に比べればマシになった」 「喉が塞がって苦しむのは名無しが呼吸の仕方を理解していないからです。元々フェラには苦手意識があるようなので、最初から腰が引けているのでしょう。もっとも、そんな我が儘を私が許すはずはありませんが」 楽しそうな口調で名無しの事を語る曹丕とは対照的に、司馬懿は少々不快そうに唇を歪めてみせた。 ギリシャ神話における太陽の神・アポロンが光を司る美男子だとすると、曹丕と司馬懿はその真逆にあたる、夜の帳が下りた漆黒の世界、冷たい月の輝きを思わせるような美男子だ。 すいっと筆で流したような切れ長の瞳も、高い鼻筋も、形の良い唇も、鋭角的で男らしい顎から喉にかけてのラインも、何もかもが彫刻のように理想的な造形美を兼ね備えていた。 そんな二人の姿を間近で目にした女達はたちまち彼らの虜になり、自ら服を脱ぎ去り、彼らに命じられるがままにどんな破廉恥で屈辱的な事でも簡単にしてみせると言うのに、名無しだけは必死になって身を捩り、二人の魔手から逃れようと試みる。 先日、いつものように司馬懿の調教を受ける事となった名無しは例によって「こんなのはいやっ」と涙ぐんで反抗し、司馬懿に掴まれた腕を解こうと一生懸命振り回した。 その手が勢い良く司馬懿の頬に当たってしまったのは、偶然としか言いようがない。 しかも当たった際の音も「ペチン」という何ともか細い、情けない音でしかなかったが、司馬懿の頬にヒットしたのは確実である。 その後司馬懿の魔眼によって抵抗力を奪われた名無しは結局彼の言うなりになるしかなかったのだが、そんな司馬懿の報告を受けた曹丕が妖しく低い笑い声を響かせる。 「ふふふ…。それは燃えるな。お前ばかり楽しい思いをするのが段々癪に思えてきたぞ、仲達。私に頼まれて嫌々というフリをして、本当は一番楽しんで名無しの調教をしているのはお前ではないのか?」 「これは鋭い所を突っ込まれてしまいましたな。まあ…確かに殿の仰る通り、思う存分名無しをいたぶるのを楽しんでいる部分もありますが…」 何も事情を知らない第三者が聞けば恐ろしい内容の会話を続けながら、曹丕と司馬懿が互いに美しい顔を寄せてクスクスと笑いあう。 漆黒の羽と長い爪を持った美しい魔の眷属がじゃれあっているような、何とも言えずに淫靡なその光景。 そんな両者の姿は彼らの周囲に控えて給仕をする女達の目を自然と熱病に侵されたように潤ませ、知らず知らずの内にホゥッ…という熱い感嘆の溜息を吐き出させる。 「…殿は名無しのどういう所を気に入っていらっしゃるのですか?」 半分ほど飲み干したワイングラスの縁を長い指先でツーッとなぞりながら、司馬懿が曹丕に質問する。 「そうだな。どうあっても私には適わないと知っているなら、下らん羞恥心や自尊心などかなぐり捨てて私の足元に跪けばいいものを、絶対に私の言うなりにはなるものかとばかりに無駄な意地を張る所だな。僅かに残ったプライドだか何だか知らんが、おとなしそうな顔をしておきながら、一筋縄ではいかない所が意外性があっていいとは思わんか」 意図的では無いにしろ、中途半端な抵抗はかえって男を挑発する。 『それが名無しだ』と告げて、曹丕はワイングラスに赤い唇を近付ける。 「……ですが殿。私はそういうちっぽけなプライドを後生大事に抱えている人間を見ると、ズタズタに引き裂いてやりたくなる悪い性分です」 「偶然だな。私もだ。お互い自分の悪癖には悩まされる」 「全くです」 少しも悪いなんて思っていない口振りで、曹丕と司馬懿は一思いに残りのワイングラスをあおる。 舞台の上ではようやく女が縄の戒めから開放され、代わりに男から火の点いた太い蝋燭を手渡されている所だった。 男は女の首に頑丈な首輪を付け、その首輪から続く長い鎖の先を持って女を引っ張る。 男に導かれるままに四つん這いの格好で会場内を這い回る女の姿が、まるで本物の犬のようで痛々しい。 女はある客の前まで這っていくと、「どうぞお願いします」と言わんばかりにその客の前に蝋燭を掲げた。 しかし、運の悪い事にその客は偶然にも知人に誘われてやってきただけの貴族男であり、こういったSMクラブに入るのも、SMショーを見るのも人生初の事だった。 全くの初体験で何をしていいのやら分からない、といった様子の男は、女から手渡された蝋を少しだけ傾け、おそるおそるといった仕草で彼女の背中に数滴垂らす。 ───メチャクチャ熱そう。 [TOP] ×
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