戦国 【FAKE】 「あの二人を庇っているのか?名無し。君に手を出したなんて事が秀吉殿にバレないように。彼らが処罰を受けないように」 「……!!違う……。そんなんじゃ…っ……」 「そうでなければ、君がそこまで我慢する必要はないだろう。確かに二人とも他国に誇る優秀な戦国武将だ。つまらない事で失うのは惜しい」 だが、名無し。 男の某にはよく分からないが、本来君のような女性にとってみれば…好きでもない男から受ける凌辱は、何よりも堪え難い物ではないのだろうか? 「……何も……されてなんかいないよ、長政……」 「……名無し」 「お願いだから、この話はここまでにしてくれる?手伝ってくれてありがとう。今日はもう遅いし、貴方も…このまま帰って……」 クルリ。 声の震えを残したままに、これで話は終わりだとばかりに名無しが某に対して背を向ける。 「───そうはいくか。名無し」 「長政っ…!?」 不意に背後から響いた強い声に、名無しが驚いてこちらの方を振り返る。 その瞳からはやはり涙が溢れ出ていたようで、名無しが慌てて衣服の裾でゴシゴシと涙を拭い取っていた。 ああ、可愛い名無し。 某は今猛烈に胸が痛むよ。 もうそんなにも深く傷ついている君に対して、さらにその弱みに付け込もうとしている罪深い某の行為に。 「こっちへおいで、名無し。これからは某が君の事を守ってあげる」 「何……言って……!?」 「分かっているとは思うのだが、某は君の事を愛しているんだ」 「嘘……!よくも…平気で…そんな事を……」 キョロキョロと左右を見回して、何とか逃げ道を探そうとしている素振りの名無しをじっと真剣な視線で貫きながら、某はジリジリと彼女への距離を詰めていく。 「嘘じゃない。君に信じて貰う為に、某は今まで関係していた女を全て切ったのだ。今の某にはもう君一人しか残されてはいない。嘘だと思うなら…女官達に聞いて確かめて貰ってもいい」 「……えっ……」 某の真摯な眼差しと口調の強さに本気を感じ取ったのか、名無しの顔がカアッと真っ赤に染まる。 そのたまらなく悩ましい彼女の表情を見ただけで、某は無意識にペロリと舌舐め擦りをしてしまった。 「逃げないでくれ、名無し。君にそんな顔をされてしまうと胸が苦しい」 「い…嫌ぁ…長政っ。お願い…離して……」 頬を真っ赤に染めて某から懸命に逃れようとする名無しの体を強引に腕を回して抱き寄せる。 抵抗も虚しく某の腕の中に閉じ込められてしまった名無しといえば、この状況にどうしていいのか分からないといった表情を浮かべ、それでも必死に身を捩って私から逃れようとする。 その様子を目の当たりにした某は何とも形容し難い複雑な感情で胸が一杯になってしまった。 激しい苛立ちと憎しみにも似たこの感情。 この某に抱き締められているというにも関わらず、何故こんなにも名無しは抵抗を続けようとするのだろう。 何故簡単に名無しを虜にする事が出来ないのだろう。 一度狙いを定めた女に某の求愛を拒絶されるだなんて。 こんな抵抗を受けるだなんて、今までの人生で一度足りともされた事はなかったというのに。 ───屈辱だ。 ギリッ。 知らず知らずの内に自分が小さく歯軋りしていた事に気付いた某は、このままでは一向に埒が開かないと思い、路線を変更する事にした。 [TOP] ×
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