戦国 【FAKE】 「ありがとう長政。荷物はそこに置いてくれればいいから。こんな夜遅くまで付き合わせちゃって御免ね」 「いや、いいさ。あそこで君を見かけたのも何かの偶然だ。君の手伝いが出来たなら良かった」 テキパキと執務机の上に書類を積んでいく名無しを横目で見ながら、某は周囲の様子に気を配っていた。 「今日は君が一人で仕事をしていたんだな。三成殿はいないのか?」 「三成は今日外に出ているの。隣国と交渉事をしている最中だからね。だから取り敢えず三成が残していった仕事を私が代わりにしてるんだけど…」 「ふぅん。じゃあ君は一人という訳か。淋しいな」 「……えっ……?」 某の口から出た言葉を聞いて、意味が分からないといった顔で名無しが某の方を振り返った。 「以前君に初めて城の廊下で声をかけられた時に、三成殿と幸村殿も一緒にいただろう?某はてっきり、そのどちらかが君の恋人かと思っていたのだが」 「!?」 探るような目付きをする某の態度に、名無しの表情が瞬く間に青ざめていく。 「何を…根拠に……」 「君を見つめる二人の目が完全に男の目付きだったんだ。男同士は、お互いにそういうのがよく分かるからな。彼らとは一体どういう関係なんだ。恋人?許婚?それともただのセックスフレンドか?」 「……っ!」 あまりに直接的な某の言葉を聞いて、名無しの顔からますます血の気が引いていく。 悔しそうに唇をキュッと噛み締めている名無しだが、その姿はまるで何か恐ろしい事を必死で忘れようとしているような、否定しようとしているような様子にも見えた。 「あの二人とは……何も有りません。そんな事、決して有ってはならない事でしょう?」 「……。」 嘘が下手だな名無し。 どうせ嘘を付くのなら、某のように表情一つ変えずに嘘を付かねばならない。 あの時はよく理解出来なかったが、君を抱いた経験のある今だからこそ理解出来る事もある。 あれは確実に君を抱いた事のある男の目付きなのだ。 君を見つめる今の某と同じ目付きなのだ。 あの二人がどのような思いで君に近づいているのかどうか、その辺の所を巧く探っておかねばならない。 某と同じように君を手に入れて豊臣の権力を狙っているのだろうか、下剋上を狙っているのだろうか。 それともただ純粋に君に対する恋心のみで、君を抱いたとでも言うのだろうか。 前者なら完全に某の敵として排除しなければならない存在であるし、もし後者だとしたら失笑だ。 某と後者の間には、その覚悟と罪深さに天と地程の開きがある。 そんな甘ったれた感情だけで、家の存続を賭けた某の切なる野望の邪魔をされては困るな。 「だから、長政。もうこれ以上変な言い掛かりを付けるのはやめてちょうだい…!」 今にも泣き出しそうな顔をして、名無しがキッと某を睨み付ける。 何とも気丈なその姿だが、よく見ると名無しの体は何かに怯えているかの如く小さく震え、心を落ち着かせようとでもしているかのように、衣服の裾をギュッと握り締めている。 罪の意識だろうか? [TOP] ×
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