戦国 【FAKE】 何事もなかったかのように一生懸命振る舞おうとしている名無しだが、某に抱き締められているとどうしても思い出すのだろう。 情事の際を思い出させるかの如く、名無しの全身がしっとりと汗ばんで、白い素肌が朱色に染まっていく。 ああ……。 クラクラする。 「……他に必要な物はないか?」 このまま体を重ね合わせていたら、完璧に勃ちそうだ。 ここで名無しに余計な警戒心を抱かせてしまえば、今まで苦労してきた物が全て水の泡になってしまう。 某は一旦彼女の体から腕を抜き取って離れると、事務的な口調で素っ気なく名無しに問いかけた。 「えっと、それと、それと…。あと一番右端の書物も必要なの。左上の棚にある一番分厚い巻物も……」 「これで全部か?」 名無しに言われるがままに、彼女が必要とする物全てに手を伸ばして取っていく。 自分が散々苦戦していた事を軽々とこなしていく某を尊敬の眼差しで見つめながら、名無しが感嘆の溜息を漏らした。 「長政って、背が高いんだね」 「ふふっ。手足が長いのだけは自慢なんだ。どこまで持って行くんだ?」 「一応、全部私の部屋までなんだけど…」 「分かった。じゃあ全部某が代わりに持って行く」 「本当に!?嬉しいな…!凄く助かるよ。ちょっと待っててね、今扉を開けてくるから」 両手が塞がっている某の代わりに名無しが出入り口の扉を開けに行く。 そのまま無事に目的を果たした私と名無しは彼女の部屋へと向かって行った。 キュッキュッ。 二人分の足音と名無しの衣服の衣擦れの音が、小気味よく某の耳に届いてくる。 冷たい廊下を歩きながら、某は無意識に口元が吊り上がっていくのを止める事は出来なかった。 回り道をした甲斐があったという物だ。 予想もしていなかった流れだが、ごく自然な形でまた名無しの部屋に深夜入り込む事が出来るだなんて。 部屋の中に入りさえすれば、某は名無しをいくらでも自分の良いように出来る自信がある。 勝ったも同然だな。 「綺麗だね…。今夜は丁度満月なんだね」 「本当だな。雲一つ無い、いい月夜の晩だ。酒でも持ってくればよかったな」 名無しの言葉を聞いて外の景色を眺めると、見事な真円を描いた月が夜空で強い輝きを放っていた。 散々人を殺めてきた自分のような男でさえも、まだ風流を理解する気持ちが残っているのが驚きと言えば驚きだ。 「……長政、知ってる?満月の夜って、犯罪が増加するんだって。窃盗とか、人殺しとか」 「……えっ」 「不思議でしょう?でもこれはちゃんとした統計に基づいた話なんだって。満月の光が人の心を狂わせるんじゃないかって、学者達の間では言われているようだけど…」 「ふぅん。……そうなのか」 突然某に振られた内容に、ピリピリと自分の全身から緊張感が迸るような感じがした。 先刻まさに女を殺してきた某には、実は名無しが何か知っているんじゃないか、とついつい疑ってしまう。 [TOP] ×
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