戦国 | ナノ


戦国 
【FAKE】
 




「う…ぐっ……。な…が、ま……」


ギリギリッ。


眉一つ動いてはいない、無表情な顔のままで自分の首を絞めている男の顔を、彼女が驚愕の表情で見上げている。

某達のような戦国武将は、基本的に何のためらいもなく人を殺せるニヒルな男の集団なのだ。

昨日までの友人が、明日は自分の敵になる。

そのまた逆も然りな現象で、自分の一族を殺した相手と一緒の軍に身を置かねばならない事もある。

それが今の、豊臣に身を置く────某のように。

領土を奪い取る為に敵地に攻め込んだ兵士達は略奪の限りを行って、めぼしい金品を強奪し、自分達にとっては敵国の人間だからというだけで、何の罪もない子供や老人達を殺していく。

戦う力もない女達の服を次々と破り捨て、その子供の見ている前でよってたかって輪姦し、陵辱の限りを尽くしていく。

用が済んだ女達は槍で串刺しか、刀で斬りつけられて死ぬだけだ。

身分の高い姫君や名のある武将の妻達だって、いざ戦が始まれば、敵に自分の愛する夫を殺されてしまう事がある。

そうなれば、生き延びる為に雪辱に耐えて、新しい夫となる男にその身体を委ねるか。

好きでもない男に身を任せるのが嫌だというのなら、自分で命を絶つしかない。

そうであろう、父上。

この世にはもう義も愛も残されてはおらぬのだ。

そんな物をいつまでも盲目的に信じていた貴方のせいで、我が浅井家は織田によって滅ぼされたのだからな。

この世には、神も仏もいやしない。

すべてが無価値、偽り、仮象の存在。


敵も味方も、家族も恋人も何も信じられないこの戦乱の世の状態は、ニヒリズムの真骨頂だとは思わないか?


「ぐ…ぅっ……。長政様……」


ギリギリッ。


首に巻かれた帯を必死で握り締めながら、雪が苦悶の表情を浮かべて途切れ途切れに最後の言葉を述べる。


「な…ぜ…?長政様……。貴方様は…雪を愛していると…。愛して……」


そう。愛していたさ。


─────某なりに。


きつく締めれば締める程に、彼女の腕から力が失われていって、ひゅうひゅうと空気が抜けるが如く嫌な呼吸音が漏れてくる。

なあ……雪。

そんな憂き目に合っている敵国の女達に比べれば、愛する男に殺されて死ねる君の人生は、よっぽど幸福な物ではないだろうか?

「な……が、ま………」
「……。」


ガクンッ。


力無く膝から全身が崩れ落ち、彼女がついに息を引き取った。

女官の中でも1・2を争う美貌だと言われていた雪の顔は顔面蒼白といった状態で、苦痛に歪んだ口元からは無残にもダラリと赤い舌が伸びていた。


「……あっという間に、天国にイけただろう?」


独り言のように呟いてみても、何の返事も戻ってこない。

ひんやりとした夜の冷気と周囲の静寂だけが、某と彼女の遺体の周りを包んでいる。


───『死人に口無し』


煌々と地表を照らす青白い月だけが、この惨劇の唯一の目撃者であった。

この真相を知っている物は、某と月光以外にはない。


ドサッ。


暴漢に襲われたかのように見せる為、彼女の死体に手をかけて、所々衣服を捲り上げた状態に細工する。


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