戦国 【FAKE】 こう言っては無礼千万に当たる発言だが、ねね様より若くて美しい女達なんて、この城内には吐いて捨てる程いるのだからな。 自分の仕える男から身も心も愛される事だけが、この時代の女の生きる道。 男の寵愛を奪い取る為ならば、どんな手段をも辞さないのが女の採るべき道標。 もし男の愛を失ってしまったら、その女に残された道は────1つしかない。 「長政様…。私、嫌です…。どなたか他に好きな方でも出来たのですか!?」 「雪。そういう訳ではない。何度も言っているかもしれないが、某のような男では君を幸せにしてやる事など出来ぬ。某にとってもこれは苦渋の決断なのだ。分かってくれ」 「…ひっく……。そんな……っ」 「これも全て、君を本当に愛しているが故の事なのだ。これ以上君に辛い思いをさせたくない。分かってくれるな?雪……」 いかにも誠実そうな某の表情と声音だが、この言葉の中には嘘がある。 突然の某の行動は全て、名無しの愛を得る為の決断だった。 秀吉公に次ぐ権力を持ち、実質No.2の実力者でもある名無しの身も心も某の手中にすっぽりと納め、名無しを某の可愛い傀儡とする為だった。 そして彼女の持ち得る地位と権力を最大限に利用して、無念の元に途絶えた我が浅井家を我が身で復興させるのだ。 当時浅井家の当主でもあった、この某の手によって。 その為には、何としても名無しの気持ちを某に向けさせる必要がある。 女という生き物が、自分以外の同性の存在に酷く敏感な物だと言う事を、某は今までの人生経験から身に染みて知っていた。 他の男と比較すれば格段に立ち回りの巧い某だが、それでも自らの女関係において度々身も凍るような修羅場に遭遇した事もあった。 あんな事が名無しの目の前で起こるだなんて、考えるだけでもゾッとする。 今の某の身にとって、名無しを堕とすという事は他の何事にも勝る最優先事項なのだ。 我が浅井の家を復興させるには、失敗は決して許される事ではない。 慎重には慎重を期す。計画の妨げになりそうな物は、ほんの僅かな可能性でも徹底的に潰していく。 それが某が数日かけてじっくりと考えた末の理論であり、確実な勝利への方程式でもあった。 「会わせて下さい、長政様。そんな事をおっしゃっても無駄ですわ。他の誰よりも長政様をお慕いしている私には、長政様のお心が手に取るように分かるのです……!はっきりおっしゃって下さい。どなたか思う女性がいらっしゃるのですね?」 「……雪……。だからそれは……」 「いいえ、雪は騙されません。きっとどなたか他においでなのですね。あぁっ…、許せない!!どこの女狐が雪から長政様を盗っていくの!?その女…絶対に殺してやるからっ……!!」 雪の顔がみるみる内に深い憎しみに染まり、口調が荒いものへと変化していく。 ああ。 某は哀しいよ、雪。 散々努力した某だが、どうやら彼女に対してこれ以上の説得は無理らしい。 交渉は、決裂だ。 失敗は……許されない。 [TOP] ×
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