戦国 【innocent】 「あぁぁ…やめて…三成…お願い……」 「名無し殿……っ」 ズキズキと、胸が痛んで仕方がない。 三成殿も三成殿だ。 彼女がこんなになるまでに、冷たく当たらなくてもよいではないか。 そう思いながらオロオロしていた私の目に、ついに最終警告が映し出された。 「みつ……な……」 ツゥッ。 名無し殿の閉じられた瞳から、一筋の涙が零れ落ちた。 その光景を目にした途端、私の胸は張り裂けんばかりに強く締め付けられてしまった。 泣かないで名無し殿。この真田幸村が、全力で貴女をお守り致します。 パサッ。 次の瞬間、私は名無し殿の寝所を包んでいる蚊帳を手で捲り上げてその中へと侵入すると、眠りながら泣いている彼女のすぐ隣に膝をついた。 熱で火照った頬とピンク色の唇が、何とも言えずに扇情的だ。 「あぁ…。名無し殿……っ」 ドクン。 ドクン。 いけないとは知りつつも、ゆっくりとその唇に自分の唇を重ねてしまう。 ちゅっ。 ちゅっ。 「は…ぁっ…。名無し、殿……」 なんてしっとりとして柔らかい唇なのだろう。 一度きりではとても足りなくて、2度3度と唇を重ねていく。 ただ触れるだけのキスをしているだけなのに、初めてする名無し殿との口付けに、いとも簡単に私の下半身は熱を帯びて堅く勃ち上がってしまっていた。 こんなにもあからさまに布を押し上げている姿を見られたら、名無し殿に軽蔑されてしまうかもしれない。 ああ、とても我慢が出来ない。 こんな触れるだけの口付けではなくて、もっと深くまで舌を差し込んで掻き回したい。 ────爆発しそうだ。 「ん……ぅっ……?」 「あっ…名無し…殿っ…」 私との口付けで意識が呼び戻されたような名無し殿の声に、とっさに上体を起こして彼女から体を離した。 瞳を開けた名無し殿はまだ意識がはっきりとしていないのか、ゆっくりと左右に視線を巡らせると私を見据えてか細い声で名前を呼んだ。 「幸…村…?どうして貴方が…こんな所に…」 「もっ…申し訳ございません!名無し殿…。女性の寝所を訪ねるのは如何な物かと思ったのですが、名無し殿のお体が…この幸村、心配で…」 言い訳じみた返答だと思いつつも、必死で彼女に対して弁明する。 真っ赤になってしどろもどろな返事をする私の顔を、名無し殿が熱で潤んだ瞳でじっと見上げていた。 「有難うね、幸村。私はとっても嬉しいよ…。でも少し熱がある程度なの。心配かけてごめんなさい…」 「そんな…当然ですっ。名無し殿の事は、他の何よりも…!」 「……?どうしたの?幸村。顔が真っ赤だよ…。もしかして、幸村もどこか調子が悪いの…?」 そっ。 「!!」 私の事を気遣うように緩慢な動作で伸ばされた彼女の手の平が、ゆっくりと私の頬を包んでいく。 その暖かさと名無し殿の濡れた瞳に、もう痛いほど己の熱い塊が張り詰めてしまう。 今しか、こんなチャンスはない。 言え。 「ぁっ…名無し…殿っ…。名無し殿は…私の事が…」 「幸村が…なぁに…?」 言うんだ。 「わっ…私の事が…好きですか…!?」 「……!!」 言った。 ついに言えた。 「私が…幸村の…事を…?」 「は…はい…。名無し殿……」 ドクン。 ドクン。 名無し殿の熱を帯びて潤んだ瞳が、何かを思案しているかの如くゆらゆらと揺れている。 どうしよう。今度こそはもう二度とあんな失敗はしたくない。 もう余計な殺傷はしたくない。 今度こそは、ちゃんと私の全てを相手に受け入れて貰いたいと思うのに。 でも今また断られてしまったら、このまま名無し殿の首を絞めて一思いに殺してしまうんじゃないかと思うのだ。 だって彼女の事が、本当に本当に好き過ぎて。 私はなんて駄目な男なのだろう。 また同じ事をやってしまう────。 泣きそうな顔をして彼女の顔を見つめる私に対し、名無し殿が柔らかく微笑んで私の瞳を見つめ返してくれた。 「どうしてそんな事を聞くの?幸村…。勿論好きに決まっているじゃない。ううん…幸村はもう私の大切な家族も同然だもの。大好きだよ……」 「……っ!ほ…本当ですか…!?」 「ふふっ…。私が幸村の事を好きじゃないとか、また三成辺りに変な嘘を言われたの?大好きだよ、幸村……」 「う…ぁっ…。名無し殿…」 涙が出そうになってしまった。 『家族も同然…』という意味不明な言葉が聞こえたような気がしたが、私の脳裏からはそんな言葉は一瞬にして消え去ってしまった。 『幸村の事が大好きだよ』という部分しか私の耳には入らなかった。 [TOP] ×
|