戦国 【innocent】 「ああぁ…幸村ぁ…」 目に一杯涙を溜めながら、彼女が私の名前を呼んでいる。 「名無し殿…気持ちいい…ですか?」 「いやあ…幸村…。そんな事聞かないで…」 白い裸体を妖艶にくねらせて甘えた声を出す彼女の中は、すでに私の指を美味しそうに2本も飲み込んでいた。 折り曲げた指の腹で内壁をを何度もこすっているうちに、ぐちゅぐちゅと濡れた水音が響いて余計に彼女の羞恥心を煽っていく。 「ここは…?名無し殿。それとももっと奥の方がいいですか?」 「あぁ―んっ…イヤイヤ…幸村のエッチ…」 「だ…だって、名無し殿…。名無し殿の口からちゃんと言って頂かないと心配で…」 「ひっく……そんな……」 心配でたまらない。 ちゃんと聞いておかないと、自分のやり方で合っているのか分からない。 何故なら他の女官達を抱く時と違って、私に一切余裕がないからだ。 相手の表情を見ていれば分かりそうな物なのだが、それでもやはり彼女の口からちゃんと聞いておかないと、安心して先に進めない。 彼女の事が、大切過ぎて。 「あ…んんっ…。幸村…気持ちいいの…物凄く…っ」 「ほ…本当ですか?名無し殿…」 「あっあっ…そんな冷たい呼び方はいや…幸村…。お願い…名前で呼んで…」 「あぁ…名無し…っ」 濡れた唇から僅かに見え隠れする彼女の赤い舌が、いとも簡単に私の理性を奪い取っていく。 だめだ。これ以上は絶対にだめだ。 何故なら私は生まれて初めて女を抱いたあの日の夜から、決して他人には言えない自分の二面性に気付いているから。 フツフツと沸き上がる狂暴な衝動が、私の体内を突き動かしていく。 一度こうなってしまったが最後、相手が血を流そうが泣こうが喚こうが、私のどす黒い欲望は止まらない。 「幸村ぁ……もう待てない……。幸村の堅くて大きいのを…一杯入れて欲しいの……」 「……名無し……」 「あぁん…。お願い……」 プツン。 彼女のこの一言で、私の良心が粉々に破壊された。 この瞬間、何もかもが砕け散っても構わない。 ────貫け。 「……っ!!」 ガバッ。 まるで何者かに叩き起こされるかの如く、次の瞬間意識がこちらの世界に呼び戻された。 朝日が眩しく降り注ぎ、夜が明けたという事を私に告げる。 「……夢か……」 額を流れる変な汗を手の平で拭い取ると、妙に重く感じる体に鞭打って、渋々ながら上体を起こす。 ヌルリ。 「!!」 下腹部の気持ち悪い感触に気が付いた私は恐る恐るその部分を直視した。 「うわ……最悪」 腹の辺りを濡らす白濁液の存在を自分の目で確認すると、私は溜息混じりにノロノロと布団から抜け出て立ち上がった。 最近特に頻繁に見るようになった名無し殿の夢。 今となっては自分達がお仕えする立場の尊い女性だというにも関わらず、自分に対しても別け隔てなく注がれる名無し殿の暖かく柔らかい微笑みにあっという間に心を奪われてしまった。 私が誰かを好きになる時はいつもこのパターンだ。 その人が好きなんだと己の中で認識した途端、毎晩のように私の腕の中で相手が乱れる夢を見る。 そんな私を三成殿も兼続殿も『惚れっぽい』と揶揄するが、思い起こせば初恋の時からずっとこの性格は変わっていないのだ。もう放っといて欲しいと思う。 実は彼らが懸念している私の隠れた性格は、それだけではないのだが───。 シュルッ。 バサッ。 乱暴な手付きで着ていた寝巻を脱ぎ捨てると、未だぼんやりした意識のままで風呂場へ向かった。 朝から体を流すだなんて面倒でたまらないが、このままの姿ではとても朝の鍛練に参加する事が出来ない。 ぺろっ。 「……苦い……」 何げなくその体液を指で拭って僅かな量を舐めてみれば、独特の雄の匂いとほろ苦さが口の中に広がっていく。 ───溜まってる。 「名無し殿……」 淋しい。 淋しい。 相手に抱く恋心を自覚してしまったら、例えそれがお仕えする立場の方であろうが相手に恋人がいようが私の気持ちは止まらない。 『……申し訳ありません。幸村様のお気持ちは大変嬉しいと思うのですが、私にはもうお付き合いをしている方が……』 『……ゆ、幸村様……。一体……何をして……』 『ひっ…!いやぁぁぁ───…っ!!』 丁度半年前位だろうか。 名無し殿に出会う以前の事だ。 前に好きだった女性は私が彼女の為を思ってした行為の現場を目の当たりにした途端、泣きながらその場に崩れ落ちてついには気が触れてしまった。 どうして? 私はあんなに彼女を愛していたのに。 [TOP] ×
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