戦国 | ナノ


戦国 
【×××占い】
 




都合良く話を捉え、勝手に悦に浸る男達をよそに、清正と宗茂、正則と左近の胸中には微かな驚きと好奇心が鎌首をもたげる。

(彼女に好きな男がいるとは初耳だ)

それは素直な感想だった。

別に他人の恋路に一々口を挟むような野暮な真似はしたくないが、身近にいる人間同士となれば野次馬根性が生まれてしまうのは否めない。

誰だろう。この城の男かな。ひょっとして俺の知っている相手だったりして。

……ちょっと気になる。

「では名無し殿、両足を大きく開いて。ワシに向かって…」

穏やかに促す惹庵の声に、和室とその周辺にいた全員がハッとして顔を上げた。

「う、上は…このままでもいいですか?」

着物の裾を大きくはだけながら、名無しがおずおずと尋ねる。

「下が見えれば大丈夫です。好きにしていいですよ」
「はい……」

惹庵の返答に、名無しはホッと息を飲む。

覚悟の上で来たとはいえ、それでもいざ実際に開脚するとなるとどうしても羞恥が込み上げるのだろう。

名無しは恥ずかしくてたまらないといった様子で俯くと、頬をサアッ…と薔薇色に染め、白い両足をゆっくりと左右に割っていく。

(……っ)

仕方の、ない事だ。

名無しが自分の意思で決め、彼女自身が望んだ事なのだから。

これはセックスではない。本番でもない。ただの占い。

そう頭の中では理解しようとしていても、三成も幸村も長政も、言葉に出来ないモヤモヤと憤りを覚える。


余計な事はするな。熱心にやらなくていい。1分で終わらせろ、ジジイ!!


「むむむ!!こっ…、これは────っ…!?」

三成達が今にも惹庵を射殺さんとするばかりに強烈な眼光で和室を睨み付けていると、その奥から聞こえてくるのは今までにない程に驚いた様子の惹庵の声。

何事かと思い、男達は声のする方を注視した。

「な、なんという事じゃ。まさかお役人様の中にこのような業物を持つ女人がおられるとはっ。これはまさに千人に一人…いや、ひょっとしたら万人に一人いるかいないかという見事な名器ではないか!!」

興奮しきった惹庵の声が、和室の中で響き渡る。

視診だけではなく触診もされているのか、惹庵の声に混じり、名無しの『あっあっ…』という懸命に堪えようとするような、噛み締めるような切ない鳴き声が少しずつ漏れてきた。

「肉芽の大きさや形といい…大陰唇の膨らみや小高い丘に生えた草の茂り…男性器を包み込んで離さぬような小陰唇の合わせ具合…そして何より…こうしてほんの少し触れるだけで内股をじっとりと濡らすまで溢れ出てくる喘ぎ露のとろみときたら……」
「あっ…先生…いや…そこはっ…」


ゴクンッ。


熱のこもった惹庵の実況中継≠ノ、男達の喉を生暖かい唾液が通過していく。

惹庵の声は興奮の為か微かにかすれていて、それがまた惹庵の台詞がいかに真実であるか、名無しの具合がどれほど良いものかというのを如実に語っているように思え、部外者は余計に妄想を掻き立てられて仕方ない。

「しかもこのようにして指を1本、ほんの少し入れただけでこの締め付け…とんでもない事じゃ…。奥へ奥へと引き込む肉襞の絡まり具合といい、一歩間違えば男を破滅に誘う男殺しの相よ」
「ひっ…あああ…だめぇぇ…。先生…お願い…抜いて……ああーんっ……」

惹庵に大切な部分を触られている事もそうだが、言われている言葉自体も彼女にとっては恥ずかしくてたまらないのだろう。

足を開いた時点では気丈にキュッと唇を噛み締めて占いに臨んだ名無しだが、羞恥心の為か直接的な刺激の為か、彼女の両目からはポロポロッと玉のような涙が零れだしていた。

「タコ壺にイソギンチャク、二段締めに三段締め。名器を例えた言葉は数あれど、一言ではとても言い表せないこの肉壺……。まさにこれこそが魔性を秘めた女陰と言わずしてなんと言おう。魔性の壺じゃ……!!」
「あん…あああ…いやぁぁ…そんなぁぁ……」

うーむと唸りつつ感嘆の溜息を漏らす惹庵の説明に、脳天を直撃するほど可愛らしい名無しの喘ぎ声。

普段戦場を勇猛果敢に駆け巡る猛者の集まりとはいえ、戦を離れればまだ10代や20代の若者達である。

さっきまで聞いていた他の女性達の女陰占いだけでもかなり刺激を受けていたというのに、その上見知った女性────名無しのこのような場面と声まで見せつけられてしまうのはそれこそ目の毒・耳の毒だった。

(ふん。当然の結果だな。俺の見る目は常に正しい)
(惹庵先生からそのようなお言葉を頂戴するなんて、さすがは私の名無し殿!)
(そう言って貰えると、某としても光栄だ)

名無しが惹庵に触られている事自体は苦痛で仕方ないが、好きな女を褒められるとまんざら悪い気もしない。

そう思ってまたしても三成・幸村・長政が悦に浸る中、他の男達は何とも言えず居心地の悪さを感じていた。

(くそ…やばい…心臓に悪い。残るんじゃなかったぜ。今晩名無しが夢に出てきたらどうしよう)
(生々しすぎるだろう…なんだこれ。焦らされているみたいで、見えないのが余計に気になるんだが)
(ひええええ…!!ま、マジで左近の骨格鑑定が当たってたっていうのかよ!?やっべー!!)
(やっぱりなあ。名無し殿は実はそうなんじゃないかって、俺は前からそう思ってましたぜ!)

清正も宗茂も正則も左近も、妖しい妄想で頭の中が一杯である。

嬉しいような、苦しいような、悶々とするような、聞いて良かったような、聞かなかった方が良かったような。

ギャラリーが色々と複雑な心境を抱いていると、惹庵の口から突如不吉な予言がもたされる。

「しかし、これほどの秘宝となれば相当相手を選ぶわい。そんじょそこらの男では全くもって話にならん。いざ挿入すれば普通の男は二分と持たぬ。名無し殿を満足させる事など叶わず、その結果あなたは常に不完全燃焼となる。先程訪れた若い人妻のように相手に不満を抱き、最悪夜な夜な男を求めて彷徨う淫ら壺に転じてしまうやもしれぬ」

お紋のように、相手の男次第によっては不幸な結末が待っているかもしれないというのだ。

聞き捨てならない惹庵の発言に、三成達の指先がピクリと動く。


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