戦国 【×××占い】 (名無しの話を盗み聞きしたい訳じゃないが、万が一惹庵に名無しが何か余計な事をされたらと思うと帰るに帰れん。何かあったら俺が守ってやらないと……チッ、残るしかないぜ) 周囲の気配に慎重に気を配りつつ、清正はもう一度縁側の下で着席。 (帰ろうと思ったが、まさか名無しが来るとはな。前回聞いた左近の話もあるし、顔も名前も知っている女がどんな評価を受けるのか…若干興味がある) 顔見知りの登場に心が動かされ、好奇心を刺激された宗茂も着席。 (うおー驚いた!名無しじゃねーか!左近のダンナの骨格鑑定が本当に合っているのかどうなのか、今ここで分かるかもしれないぜ!!) ワクワクドキドキが止まらないといった興奮気味のテンションを懸命に抑えつつ、正則も着席。 (名無し殿が来るとはねえ。最後にとんだ女が現れたものだ。他人の秘密に探りを入れるのはそこまで好きじゃないが、俺の骨格鑑定が当たっているのかどうかは非常に興味があるんでね。どうか悪く思わないでくれよ、名無し殿) 自分の疑問がようやく解ける絶好のチャンス到来とばかりに、左近も木陰で着席。 こうして、結局全ての面子が雁首揃えて惹庵の女陰占い・名無しバージョンを見届ける運びとなった。 「では名無し殿。まずは姿勢を崩して楽にしなされ。今回はどのようなお悩みを抱いてここへいらっしゃったのじゃ?」 名無しの緊張を解こうとしているのか、平静な態度で惹庵が尋ねる。 惹庵の問いに名無しはビクッと肩を震わせ、始めは俯いていた。 決して怪しい老人などではなく、いかにも権威のある医師やカウンセラーといった惹庵の物言い。 威厳に満ちた彼の声音とオーラに安心感を覚えたのか、やがて名無しは覚悟を決めたようにゆっくりと面を上げ、おもむろに口を開く。 「おねね様に聞いたのです。惹庵先生は…女性の秘部を見るだけでその者の恋愛運から男運まで様々な事を言い当てると。希望すればピッタリの男性のタイプまで丁寧に教えて下さると」 会話の途中で『秘部』と口にした際、つい意識してしまって恥ずかしさを感じているのか名無しの頬がポッと赤く染まる。 そう。そこが問題だ。何故名無しがそんな事を知りたがるのかという事が。 名無しは普段執務に打ち込んでいるタイプの女性で、やれ恋愛運がどうだの、どんな男が自分に合うだのが気になってしょうがないというようなミーハーな女ではない。 そんな彼女が、名だたる医師とはいえ見ず知らずの相手である惹庵という男性に自らの恥ずかしい部分をさらけ出してまで求めたい答えとは一体何なのか? その理由が最も気になり、三成と幸村、長政の三名は皆こぞって己の耳に意識を集中させた。 「……思い人がおられるのじゃな。名無し殿は」 何やら思い悩む様子の名無しの姿を目に留めて、惹庵はまるで自分の孫娘を見る時のように優しい眼差しで名無しを見つめ、フッと口元を綻ばせた。 ────思い人!? 唐突に告げられた惹庵の台詞に、三成達の全身に一段と強い緊張が走る。 「……はい」 コクリ。 あっさりと己の心を見抜かれた事に観念したのか、名無しは素直に頷いて惹庵の問いが正解だと認めた。 「今、私には大好きな人がいます。心からお慕いしています。ですが、その人はとても仕事が出来て、戦も強くて、見た目も素敵で、城中の女性達から羨望の眼差しで見られている男性なのです」 そこで一旦言葉を切り、名無しがギュッ、と着物の裾を握る。 「そんなモテモテの男性が、どうして自分だけを見てくれると思えるでしょうか。自分は女として一体どうなのか、男性の目にどのような姿に映っているのか、彼のような人に愛されるに足る人間になるにはどうしたらいいのか……自信がないのです」 緊張の為か、不安の為か、それとも哀しみの為なのか。 慎重に言葉を選ぶようにしてポツポツと語る名無しの声は、今にも泣き出しそうなくらいに震えている。 な、なんだって─────っ!! その告白を聞いた途端、三成・幸村・長政の脳天から爪先まで強烈な電流が一気に駆け抜けた。 名無しがこの時告げた『好きな人』というのが誰の事を指しているのか定かではない。 だが、三名は勝手にそれが自分の事だと思い込んでいた。 (馬鹿だろあいつ。そんな事を一々気にしていたというのか?そもそも、俺の事で何か気にかかる事があるというのなら俺に直接聞けばいいだけの話だろう。二人の間の話だというのに、何故全然関係ない家族や友人やら占い師やらに相談しようとするんだ) 全く、これだから女というやつは。 フーッと深い溜息を絞り、三成は舌打ちしたそうに顔を歪める。 (俺だって別にそこまで鬼じゃない。お前がそれほど悩んでいるというのなら、質問の一つや二つくらい答えてやっても構わんのに。……名無しの馬鹿) 普段通り上から目線の思考回路で持論を展開する三成だが、自分に対する愛情から起こした行動だと思ったのか、三成の目に微かな喜びの色が滲む。 (嬉しいです…名無し殿っ。あなたが今語ったそのお言葉、私の事だと思って間違いないですよね!?あなたの悩みに気付かず、愛する女性をそこまで苦しめていたとはこの幸村一生の不覚。かくなる上は、我が身と心を持って名無し殿の愛情に今まで以上に全力でお応えしなくては…!!) 何かを堪えるようにしてグッと下唇を噛み、ほんのりと頬を紅潮させて和室を見つめる幸村の双眸は、名無しへの深い愛情に満ちていた。 (そんな風に思っていたとは知らなかった。女心はそれなりに勉強してきたつもりだったが、まだまだ修行不足という事か。君にそのような思いをさせてしまっていたなんて、某は罪な事をしてしまったな。すまない……名無し) 切なげに瞳を伏せ、彼女への謝罪を述べる長政の心は懺悔の念と名無しに対する思いで一杯だった。 このようにして自分の事だ≠ニ強引に解釈した三名の目から、先程まで浮かんでいた怒りと苛立ちの色がスーッと消えていく。 [TOP] ×
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