戦国 | ナノ


戦国 
【×××占い】
 




(やめろ馬鹿っ。今ここで余計な音を立てたら気付かれるかもしれないだろう!)
(そうだ正則。知り合いだかなんだか知らんが、所詮はよその話だ。他人の家庭の秘め事に、お前が口を挟む権利などない)
(うるせー!清正も宗茂も余計な口出しするんじゃねーよ!つーか、お前ら、力強すぎ!!離せよこの馬鹿力っ。離せゴルァ───!!)

……と、正則がどれだけ藻掻いても、彼の手足は二人によって完全にロックされてしまっている為外れない。

正則とて戦場では獅子奮迅の活躍を見せる猛者であるが、清正と宗茂も屈強な体躯を誇る逞しい男達だ。一対一というならまだしも、二人がかりではさしもの正則も分が悪い。

(俺に任せろ宗茂っ。よしいいぞ。手を離せ!)
(ギャー!!やめろ清正!!助けてー!!ロープロープー!!)

ほんの一瞬油断した正則の隙を逃さず、素早い動作で彼の四肢を絡め取った清正が、狭い縁側の下のスペースで器用に四の字固めをかける。

自分達のいる部屋の下で歴戦の強者武将二人による激闘が繰り広げられているという事実には、幸い惹庵もお紋も全く気付いていないようだ。

「よろしいですか、お紋殿。ワシの見た所、あなたの女陰は男ナシでは生きてゆけぬ枯渇の相じゃ。このまま放置すれば我慢の限界を超え、いずれは浮気壺と変化して夜な夜な夫以外の肉棒を求めてさまよい歩いてしまう危険性が高い…!」
「ううっ…、さようでございます惹庵先生…。まさにそれがわたくしの悩みなのでございます…!わたくしは夫を愛しているのでございます。それなのに、この体が夫の冷たい仕打ちに嘆き悲しみ、今にも誰でもいいから抱かれたい、他の殿方と姦通したいと望んでしまいそうになるのです!うっうっ…先生…わたくしは一体どうすれば…!!」

惹庵に全てを見透かされ、隠し事をしても無駄だと思い知ったのか、お紋は子供のように泣きじゃくりながら悲痛な胸の内を打ち明けた。

そんなお紋の嘘偽りない心の叫びに、隠れて聞いていた者達の心に動揺が広がる。

(……なんという事だ。元は貞淑だったはずの人妻が、何かのきっかけでご無沙汰続きになるとここまで乱れてしまうとは……哀れな事よ)
(そ、そんなっ…、いくら情事から遠ざかっているとはいえ、女性の口から『誰でもいいから抱かれたい』なんて言葉が出るとは夢にも思わなかった。世の女性にそのような淫らな感情があるなどと…そのように破廉恥な事を考える人妻がいるなど信じたくはない!ううう…知りたくない〜っ…!!)

お紋という一人の女性の嘆きを耳にして同情心を抱く長政と、大きなショックを受けて酷く傷付いたような顔をする幸村。

清楚な女性が好みのタイプではありつつも、様々な影響を受けて揺れやすい女心というものを知っている長政はお紋の気持ちにも理解を示しているが、女性とは清らかなもの∞女性には性欲なんて存在しない≠ニ厳格な両親や親戚から教えられて育った純粋培養の幸村にはお紋の発言はかなりキツイ内容だった。

理想と現実、そして自分が抱いていた女性像とのギャップに幸村は『うう〜っ』と唸りつつバリバリと頭を掻きむしる。

「───お紋殿の苦悩、分かり申した。そこまで深くお悩みになっているというのなら、僭越ながらこの惹庵が世の殿方を必ずやその気にさせる方法≠伝授して差し上げよう」
「…っ!そ、それは誠でございますか!?惹庵先生…!!」
「ええ。ですがそれにはお紋殿、あなたの中に残る羞恥心を一旦捨て去らねばなりません。愛する夫の肉欲に今再び熱い炎を灯さんとするのであれば、どのような破廉恥な事でも出来る勇気と夫への深い愛情がなければなりません」
「出来ますっ。夫がもう一度わたくしを愛してくれるというのなら、わたくしはどんな事だってやってみせます!!」

惹庵の言葉に、まるで神の啓示に縋るが如く、お紋は彼の着物の袖をひしっと掴んで涙に濡れた瞳で訴えた。

「よろしい。そこまで覚悟が出来ているのであればお教えしよう。良いかお紋殿、この惹庵が今から言う事をようく覚えておくのですよ。さあ、耳を貸して。まず初めに、ご主人が仕事を終えて二人っきりになった時にはこのように……」
「はい…、はい…。まあ…そんな事を!?先生ったら……!」
「そうして…次は……こうして……」
「ええ…、ええ……」
「最後の仕上げに、トドメはこうじゃ。ごにょごにょ…ごにょ次郎…ごにょライン…ゴンザレス……ごにょリータ!!」
「な、なるほど……っ!!」


ええーっ!!何今のっ!?


特に最後!!全く分から────ん!!!!


惹庵がお紋に伝授する秘策の内容を聞き取ろうと必死に聴覚を研ぎ澄ませていた男達は、あまりの展開に思わず全員ズルッとズッコケそうになった。

と言うか、最後の方で明らかに他と違う人名みたいなものが入っていたような気がするが。

爺さん、あれ本当に真面目に言ってんのか!?

完全に肩すかしを食らったようになって不完全燃焼している武将達だが、当のお紋と言えば少しもおかしく感じているような気配もなく、何やら激しく納得している模様。

自分達には全く持って聞き取れなかった意味不明な惹庵の言葉は、至近距離で聞いているお紋には通常の会話文としてちゃんと伝わっていたのだろうか。

そんな現象が本当にあるのか。何という摩訶不思議。この世はでっかい宝島、まさに今こそアドベンチャーである。

(肝心な部分が何も分からんし、これでは何一つ勉強出来ん)
(そうですね、殿)

せっかくここまで足を運び、木陰に身を隠してまで偵察活動に勤しんでいるのであればせめて何か少しでも役に立つ情報や鑑定法を身に付けて帰りたいと思ったが、これでは結局何が行われているのか分からずじまいではないか。

自分達の行為は無駄な労力を使っているだけのように思い、一向に知的好奇心が満たされる事のない三成と左近の端整な顔立ちが曇り始める。

その後、三成達が待機し続けている間入れ替わり立ち替わり20人近くの女達が和室を訪れ、惹庵の占いを希望した。

その遣り取りを傍で聞いていた彼らはそれなりに知識欲を満たされ、適度なデータを得た。


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