戦国 | ナノ


戦国 
【×××占い】
 




「おーおー、自信たっぷりでやんのー。今度惹庵先生と勝負しろよ、ガチで!」
「いや〜、でも俺が勝ったら先生に申し訳ないねえ。先生の名声に泥を塗るような真似はよくねえと思うぜ、やっぱ」
「ははは!なんだそれ!!さすがは左近、自信ありすぎだろー!!」

左近の返事がツボに入ったのか、正則は腹を抱えてゲラゲラと笑う。

女陰占いの真相が判明した今、同じ事を聞いても真っ赤になって卒倒しそうになっている幸村、冷静な態度を崩さない三成と宗茂、何かを考え込むような素振りの長政、楽しそうに談笑する左近と正則等、人によって反応は様々だ。

「しっかしいいよなー、産婦人科医って!」

左近の隣で胡座を組み直し、姿勢を正しながら正則が言う。

「つまり、合法的に女のアソコを見たい放題触りたい放題って訳だろ?いいよなー婦人科医。武将以外で何か転職するっつーんなら、俺は断然婦人科医になりたいぜ!」

正則の口からハーッという溜息混じりに漏れ出るその様子から察するに、きっとそれは彼の本心から出た言葉なのだろう。

「そうか?若くて綺麗な女ばかり診察出来るというならまだしも、婦人科系の医者なら90を超えた婆さんだって来るんだぞ。お前、それでも平気なのか」

そんな風にして心底羨ましいオーラを全開で放たれる正則のぼやきを、例によってどんな時でも常に冷静さを失わない宗茂の声が途中で遮った。

唐突な突っ込みに、正則が『うっ』と顔を歪める。

「百歩譲って見た目は麗しい若い美女だとしても、足を開かせたらこっちの鼻が一撃でやられそうなくらいとんでもない臭気を放つ女もいるからな」

手札を一枚場に出し、代わりに山札から一枚めくりつつ、三成が宗茂の言葉に付け足すようにしてウンザリした口調で吐き捨てる。

「三成が言う通り、アソコが錆びた銅みたいな匂いの女もいるんだからな正則」
「そうだ、正則。俺は過去に腐ったチーズみたいな匂いのする女に出会った経験がある」
「ああ…いるいる。俺も昔関係を持った町娘に一人いた。見た目がどれだけ若くて麗しい美少女でも、足を開かせて実際に顔を近付けてみるまで分からないのが辛い所だ」


────まあ、女だけじゃなく男もパンツを脱がせてみればそういう奴はいるから、口技の際に不快な思いをするのはお互い様だが。


平静な声で淡々とそう告げる三成に、言えてるな、と宗茂が短い賛同の言葉を述べる。

「医者となれば患者を選別する訳にもいかんだろうし、いい事ばかりとは限るまい。来る者を拒めないのはある意味娼婦と一緒だ。宗茂に加勢してやろうというつもりはさらさらないが、はっきり言って俺は嫌だな。そんな仕事」

三成にきっぱりと断言されて、元々二人の同意を期待などしていた訳でもないのに、正則は微妙に傷付く。

一人いるだけでも手強く感じる毒舌王が、困った事にこの城には二人もいるのだ。

「なんだよその萎える台詞…。相変わらず夢がねー奴らだなー、宗茂と三成はよー!!」
「お前が女に夢を見過ぎなんだ」
「現実主義と言え。馬鹿めが」

懸命にジャブを繰り出す正則の応戦も虚しく、宗茂と三成の放つカウンターが間髪入れずに飛んでくる。

見事な言葉のダブルパンチに『ぐぬぬ』と悔しそうな顔で唸る正則だが、はたと大切な事を思い出したようにググッと身を乗り出して三成と宗茂の顔を覗き込む。

「じゃあこれはどうよ!聞いて驚くぜー、なんと本日『女陰占い』が行われている部屋は前回とは違う西の和室なんだよっ。あそこは廊下に面している部屋だから、庭の木陰や縁側の下に身を潜めりゃ普通に中の声が聞けちゃうんだぜっ!?」


……は???


どうよ!?と言わんばかりに自信満々に胸を張る正則の姿を前にして、室内にいる男達の目が全員点になった。

どうやら正則が先程物凄い勢いで廊下を走ってきた理由には、単に女陰占いが行われるという以外にももう一つあったようだ。

彼曰く、今回占いが行われている部屋はその周囲に身を隠せば盗聴が可能であり、中でどのような会話が交わされているのか、どんな行為がされているのかモロ見えではなくてもその様子を窺い知ることくらいは出来るらしい。

正則があれだけ猛スピードを出してここに向かってきたのは、その大スクープ≠みんなに早く教えたかったからだったのだ。

「どうだお前ら。今からちょっとそこに行って中の様子を探ってこないか?その女陰占いとやらが本当に当たるのかどうなのか、知りたいとは思わねーか!」

正則は低いが歯切れの良い声でそう叫ぶと、言葉の終わりにビシッと人差し指を突き出して格好良く決めポーズを取る。

俺と一緒に偵察に行かないか、と正則は言うのだ。

つまり、盗み聞き≠セ。

「……本当にどうでもいい話だろ、馬鹿」

軽く眉間に皺を寄せ、溜息混じりに清正が答えた。

1, 現在西の和室にて惹庵によるあの有名な『女陰占い』が行われている。

2, 構造から見て、今回の開催場所であれば中でどんなやりとりがされているのか、聞き取る事が可能である。

3,お前ら、聞きたくねえ!?

以上、正則の提示した内容は、確かに普段命を懸けて戦っている彼らの任務と比べてみれば激しくしょーもない、どうでもいい話に聞こえる。

……が、何しろ現在この部屋で行われているのはどうでも委員会≠ナある。どんなに下らない事でも真剣に語り合い、対応を考えるのがこの委員会の活動内容だった。

そう考えてみれば、まさにどうでもいい、でもよくない、ちょっと気になる、いや、やっぱりどうだっていいじゃん、でもなあ、別に…というようなこの度の議案は、まさにどうでも委員会≠フ趣旨に相応しいものに思えた。


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