戦国 | ナノ


戦国 
【×××占い】
 




季節はすでに10月に入り、夏の暑さが嘘のように涼しい風が吹き抜ける午後。

この日、豊臣城のある一室では清正・宗茂・左近・三成・幸村・長政といったいずれも名のある若手武将達が集まって、ある会合が開かれていた。

その名はどうでも委員会=B

文字通り、どうでもいいと思われる事案について武将達が思い思いの意見を述べてどうでもいいトークを繰り広げるという非常に志が高く、高尚な内容である。

参加条件は豊臣に属する男性武将であれば誰でも自由。いつ開催するかも発案者も共に自由な為、空いた時間に好きなメンバーで好きなだけ出来るというのがこの委員会の気軽さと利点であった。

普段は執務に鍛錬に会議に遠征にと忙しい日々を送っている彼らだが、この日は珍しく午後からの数時間は何も予定が入っていなかった。

時刻は現在13:30。16時からは軍法会議が入っていて全員それに出席するのだが、それまで2時間半の余裕があった。

普段の疲れが溜まっている為今から出かけるほどの気力もなく、こんな風にして自分達の自由時間が同じになる機会はなかなかないということもあり、暇を持て余した彼らは皆で休憩室に集まって久しぶりにこの委員会を開催する事にした。

ちなみに前回行われたのは先月末の事で、回数的には49回目。

その時一番盛り上がったテーマは左近が言い出した『一億円の借金のある美人と、一億円の財産のあるブスだったらどちらと結婚しますかね?』だった。

このようにAとB、どっちかしか選べなかったらどうする!?≠ニいうのはある意味『究極の選択』とも言える代物で、よく酒の席などではAとBの内容を変えて様々な質問が飛び交うものだが、この時も豊臣が誇る若きイケメン武将達が入り乱れて多彩な意見が繰り出された。

並み居る強豪達の意見を押しのけ、最終的に勝ち残ったのは宗茂の述べた『まずは一億円の財産のあるブスと結婚し、一億円を手に入れる。そして頃合いを見計らってブスと離婚。その後一億円の借金のある美人の借金を肩代わりし、晴れて美人と結婚する』という意見だった。

一見実に合理的な宗茂の意見はその場に参加した多くの男性武将達の賛同を得たが、『それだとどちらか一つだけじゃなく、結局は両方選んでいる事にならんか?』という三成の冷静な突っ込みによって反則技認定となり、結局お流れとなった。

女子が聞いたら怒り出す者も中にはいそうな話題だが、何と言ってもどうでも委員会=B正直そこまで深い意味もなく、彼らの会話も常にテキトーク(=適当トーク)なのである。

そんなこんなで本日、記念すべき第50回目のどうでも委員会≠ェ開催され、参加者達はいつも通り適当な会話で盛り上がっていた。

単に話をしているだけではつまらないので三成・宗茂・清正のAチーム、そして幸村・長政・左近のBチーム二手に分かれて花札で『こいこい』をやっていたのだが、そのまったりとした空気はある男によって破られる事となる。

「てえへんだてえへんだてーへんだー!!」

豊臣城の広い廊下を駆け抜け、岡っ引きの子分のような台詞を発しているのは秀吉の配下武将の若武者・福島正則である。

トレードマークのリーゼントヘアーが風になびいて後方に傾くほどにスピードを付け、正則はひたすら走る。

そして清正達がいる部屋の前に辿り着くと、正則は両手で勢い良くガラッと戸を開けた。

「てえへんだったらてーへんだー!!お前ら、てえへんだーっ!!!!」

そう言うや否や、海面に飛び込むようにして正則は部屋の中央に向かってダイブし、畳の上をズザザザーッと滑っていった。

まるでミサイルのように突撃してきた弟分の姿を見て、清正が怪訝な顔付きで見下ろす。

「どうした、ハチ」
「ハチじゃねーわ!しばくぞコラー!!」

お約束のコントをやってのける清正と正則に、自然と他のメンバー達からの視線も集中する。

「そんなに慌てて一体どうしたのだ?正則殿。何やら大事のような気配だが」

自分の番が来ているのか、山場から一枚札をめくりながら長政が尋ねる。

行き交う人が思わず振り返るような端整な顔立ちをしている長政は、荒々しい戦国武将というイメージとは程遠く感じるくらいの美男子だ。

それは長政だけでなく、同席者の幸村や三成、宗茂、清正、左近といった面子も皆揃って一様に端整な容姿を持つ男達であり、見た目だけでなく実力共に豊臣が内外に誇る優秀な武将であった。

早い話が、この場にいる全員が女性達の憧れと羨望の眼差しを浴び続けているという、実にけしからんモテモテイケメンの集合体である。

「大事も大事よ!お前ら、聞いて驚くなよー。なんと今から向こうの和室で『女陰占い』が始まるそうだぜ!!」

長政の問いを受けた正則はグッと大きく胸を張り、自らの持参した情報を自慢するようにして誇らしげに言い放つ。

「女陰占い…?」

しかし、正則の回答を聞いても長政はピンとこないのか、疑問混じりの声を漏らす。

「俺も聞いた事がない。幸村、知っているか?」
「いいえ。あいにく私も何の事やら…。清正殿は?」
「えっ…俺も知らん。一体何の話をしているんだ」

理解出来ないのは長政だけではないようで、宗茂に尋ねられた幸村、そして幸村からさらに聞かれた清正もまた困惑気味の表情を浮かべてお互いの顔を見合わせる。

つーか、なんじゃそれ?

名前からして、なんだか怪しいものを感じるが……。

四人が訳分からん、という顔付きでポカンとしていると、三成と左近は何の事だか分かっているのか二人揃ってああ≠ニ見事にハモった。

「例のアレか。久しぶりに来たんだな、惹庵(じゃくあん)」
「あの爺さん、まだ現役だったんですね。前回来たのは去年だったか…」
「惹庵…?お二人ともご存じなのですか。誰なんですか、それ」

過去の記憶を手繰るかの如く眉間に軽く皺を寄せて話す三成と左近を見て、幸村が尋ねる。


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