戦国 | ナノ


戦国 
【Love Wars】
 




「俺は重役会議が終わってから農地政策と軍法会議にも出る。何時に終わるかやってみなければ分からんが、早くても全てが終わるのは22時以降になるだろう。食事をするのはそれ以降になるが、お前はどうする。先に食べるか?」
「私は水路計画の会議に出るんだけど、どうだろう…終わるのは20時頃かなあ」
「なんだ。俺より早いな」
「でも執務室に戻ってからやりたい仕事の続きもあるし、多分三成が帰ってくるまで色々やっていると思うよ。三成が良ければ私も三成と一緒に晩ご飯を食べに食堂に行きたいな。食堂は0時までやっているよね?だったら…食べずに待ってる」
「ほ〜お。それまで過剰な食欲が我慢できるのか?お前」
「それくらいなら我慢出来ます。いくら私でもそこまで食い意地張ってませんっ」

拗ねたようにそう言って軽く頬を膨らませる名無し殿を見て、三成殿が楽しそうに喉の奥でククッと笑う。

三成殿はまた名無し殿の頬を摘んでプニプニと引っ張っていたが、先程のような強い力ではなさそうだった。

名無し殿に苦痛を与える訳ではなく、単純に彼女の柔らかい頬の感触を楽しもうとするかの如く、手加減しながら彼女の頬を揉んでいる。

「じゃあ今日の予定は22時以降に夕食だ。お前が勝手に俺を待って部屋で仕事をしているのは構わんが、21時を過ぎたら中から鍵をかけて戸締まりをしろよ。城の中だから大丈夫だとは思うが、最近刺客が忍び込んできた件もあるし何かと物騒だ。用心しろ」
「はい。分かりました。ちゃんと中から鍵をかけておきます。三成が帰って来たら内側から開けるから、外から私を呼んで声をかけてね」
「分かった。遅くなりそうだと思ったらまた何らかの方法で連絡する。俺が呼んだら3秒以内に鍵を開けろよ。それ以上時間がかかったら簀巻きにして荒波の中に放り投げてやる」
「何それ!さっ…、殺人犯!!」
「じゃあな。連絡事項は済んだし先に行くぞ。そいつとの話が終わったら俺と将棋しろ。3分以内に戻ってこなかったら砂漠に生き埋めだからな。よく覚えとけ」
「短っ!!ちょっと!!三成〜っ!!」

三成殿は話半分で会話を切り上げ、もう言いたい事は済んだとばかりにオレ達の前から立ち去っていく。

まるで嵐のように出現して嵐のように姿を消す三成殿のパワーと勢いに押された様子の名無し殿はハーッと深い溜息をついてしばらくその場で立ちすくみ、彼の後ろ姿を見つめ続けていた。

……が、やがて全てを諦めたように首を軽く左右に振ってコキコキッと関節運動をした後でオレの方にクルリと体を向ける。

「千代丸殿、本当にごめんなさいね。さっきして下さっていた話の続きと前回のお礼を……。って、あ、あれっ!?」

彼女がこちらを振り向くその直前、オレは先刻の角を曲がって元来た道筋をダッシュで戻っていた。

オレの顔を見て『キャッ!あの方よ!!』と黄色い声を放ち、なんとかしてオレに声をかけようとしてくる女官達の手と体を必死で振り解きながらオレはただひたすら長い廊下を超高速の早足で突き進む。

(なんだよあれ!!なんだよあれーっ!!!!)

三成殿はからかっているだけだ、そんな事は絶対にないと断言していた名無し殿の発言も、オレに対して嘲るような眼差しを向けて露骨に挑発してきた三成殿の真意がどこにあるのかという事も、何もかもが全部どうでもいい。

何が真実で何が嘘だなんてどうでもいいけど、俺の前でさっき繰り広げられていた名無し殿と三成殿の会話があまりにもラブリーすぎてもう見ていられなかったんだっ!!


お前、今日の予定は?俺は今晩遅いが食事はどうする
私は三成の帰りを待ちます
そうか。夜になったら変なヤツが入ってこられないように戸締まりをしておけ
はい。三成が帰って来たら中から開けるから呼んでね
ああ。遅くなりそうだったらまた連絡する
分かりました
その男と残りの話したらすぐ俺の元に戻れよ。……じゃあな


なんだよこれ!!なんだよこれ!!一緒に住んでいるんじゃあるまいし!!同棲中の恋人同士の会話かよ!!


むしろここまでいったらもはや夫婦だろ!!どっからどう見ても単なる職場の同僚ってレベルじゃねーぞっ!!!!



─────名無し殿と三成殿のラバーズ・オーラにGE・KI・CHI・N!!!!



「うわああああ──────ん!!」
「あああっ…、素敵なお方!そのようにお嘆きになってどうされたのですか!?そこのお方!!そこのお方〜っ!!」

ついに何かの糸がプッツン切れたようにして、気が付いたらオレは子供のように泣きじゃくりながら全力ダッシュしていた。

「お待ち下さい!!素敵な殿方!!」

そんなオレを見女官達が一斉に何事かと目を見張り、オレの腕を掴んで引き留めようとしてくるが、オレは女達の静止を振り切ってどこまでも廊下をひた走る。

(元からいい男なんて嫌いだ!!自信たっぷりの男なんて嫌いだ!!)

(しかもそれが似合いすぎる男なんてもっと嫌いだ!!好きな女性のすぐ傍にいい男が常にいる職場なんて大っ嫌いだ──────っ!!!!)


YES素敵な女性、NOイケメン!!


YES秘められた初恋、NONONO、身近な恋!!


滅びろ!!天然色男!!!!滅びろ!!職場恋愛!!!!


「うわああああ──────ん!!オフィス・ラブなんて大っ嫌いだあああ──────!!!!」


二人の熱々ムードにすっかりヤラられてしまったオレは自分でも訳の分からない台詞を延々と叫びまくりつつ、打倒・石田三成に向けて密かに激しい闘志を燃やすのであった。


本当に二人が付き合っているかどうかも分からないし、まだまだ勝負は始まったばかりじゃないか!!


頑張れオレ!!負けるな!!オレっ!!!!





─END─
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