戦国 | ナノ


戦国 
【三成クンの憂鬱】
 




若い女の子って、とにかくサービス精神が足りないのよねえ。男心を今一つ理解できていないって言うか、男という生き物がよく分かっていないというか。まあ人生経験が少ないんだからしょうがないんでしょうけどね〜。

大体、若ければ何をやったって許されると思っているその態度が気に食わないのよねえ。若い女が男に求められているのは所詮体だけよ。テクニック一つをとってみても私達熟女の方が若いコなんかよりよっぽど床上手。乳臭い小娘なんて男にとってただのヤリ目的、それ以外の利用価値なんてはっきり言ってゼロよねえ?


あーあ、オバサンの嫉妬って本当に見ていてカワイソウ。私達若い女が憎くて仕方ないんでしょ?分かるわあ、ムキになっちゃうその気持ち。言っておくけど、世の中の男って私達若い女の方が断然好きなんだからね!

テクニック云々とかよく言うけど、技だけあっても相手がオバサンじゃその魅力も半減するし、体のラインも崩れた裸を見た瞬間男だって萎えるんじゃないの。所詮どこまで言っても年増女は私達若くて可愛い女子に勝てっこないのは周知の事実よね。まあ、言ってみれば負け犬の遠吠えって感じ?


もしここにいる叔父と三成の性別が女性として生まれていたら、性差によってきっとこのような感じで罵り文句の内容が微妙に変化していた事だろう。

男性同士、女性同士という垣根を越えて、年齢と性に関するアダルトチームとヤングチームの戦いは全世界共通であり、古今東西どこでも変わらず繰り広げられている永遠のテーマなのだ。

年の離れた者同士が列席している場所でこの手の話題が出ると、間違いなく場は荒れる。

世の女性たちが熟女と若い娘の間でお互いライバル意識を燃やしているように、男のプライドと沽券を賭けた、両者引くに引けない中年男VS若い男のガチンコバトルが豊臣城の一室で開催されていた。

「ここで言うイキの良さというのはすなわち男性器の角度と硬度です。いくら小手先の技だけ揃っていようが、肝心のモノが役に立たなくては意味がありません。この点に関しては残念ながら叔父上のような年代の男性よりも若者の方が優れているのは明白かと思われます。我々若年層が自慢できる長所は何と言っても瞬発力と回復力と持続力。若い男は本番になれば数分でたちまち『使用可能』の状態になります。回復が早く、二度三度と連続戦も可能です。長さ的にもやろうと思えば朝までいけます。中年以降の男が俺達には絶対に勝てないこと、それは若さ。いいですか?若・さ・です!」

強調するように同じ言葉を二度重ね、三成が語る。

その上、ここが一番重要ポイントと言わんばかりに最後の言葉をぶつ切り発声までしてくれる効果的な演出付きで。

「そう思うと、いわゆるオジサンと呼ばれる年齢層に属する方々は可哀想ですよね。ちゃちなプライドにいつまでも未練がましくしがみつくしか能がない。本当に、年は取りたくないものです」

表面上の言葉遣いだけは丁寧さを保っていても、叔父に向けて放つ三成の台詞は実に喧嘩腰で毒々しい。

自分を室内に迎え入れた瞬間まで確かに爽やかだった甥が見せる突然の堕天使変化に気を取られ、叔父は少々信じられないモノを見るような目で三成を見つめた。

いくら身内とは言え年に数回会うか会わないかという関係でしかない叔父には分からないかもしれないが、三成という青年は本来こういう性格なのだ。

「このワシに喧嘩を売っているつもりか?三成」
「まさか!尊敬する叔父上に対してそんな失礼な真似をするはずがないではないですか。何も叔父上の事を直接名指しで言っているのではなく、俺が述べたのはあくまでも一般論です。ただの世間話をそこまで真に受けるなんて少々気にしすぎではないでしょうか。それとも、なにか。叔父上は俺の話を聞いてご自分にも思い当たる節があると仰るので?」

言葉のナイフという表現があるが、三成の言葉はその名の通り叔父の胸を容赦なくグサグサッと突き刺していく。

いつの間にか硬く握られた拳をブルブルと震わせ、怒りの色もあらわに問い詰める叔父を目の前にしても何一つ動じる事もなく、三成は嫌味なほどに整った顔を歪めてクスリと笑う。

見かけだけは天使。しかしその内面は悪魔というのが三成の本性。

ケースバイケースに合わせて様々な言葉を操る三成だが、その美しい顔に似合わない下品な言葉や露骨なシモネタトークが彼の口をついて出た時には、彼が相当ご立腹の状態にあると見てよい。

相手が誰であろうと、一旦敵と認識すればとことん叩きのめす。売られた喧嘩は倍返し。

それが佐和山の狐として悪名高い、三成のポリシーであった。

「─────ワシの勘違いだったというのならいいのだが」
「その通りです」

短い会話を交わした直後、目に見えない火花が二人の間でバチバチッと飛び交う。

(この生意気な若造がッ!!)
(引っ込んでろ、エロジジイ!!)

表に出ない本音の部分ではもはや叔父と甥という関係を超越し、一人の女を巡る男二人の対決という構図になっていた。

「名無しは若い男が好きです。あえて言うなら丁度俺くらいの年齢の男が。それでもって、あいつはああ見えて面食いですので不細工には興味ありません。顔のいい男が大好物のはずです。あえて言うなら俺みたいな男が。以上の事から名無しが叔父上の魅力に気付き、あなたになびくとは到底思えません」

他人を見下す目線すらたまらなく魅力的なものに見せながら、三成が叔父に止めを刺す。

言う人によってはただの自惚れとしか思えないような自信過剰な三成の発言だが、その高慢不遜な態度に見合う容姿も実力も共に兼ね備えている所が他者の反論を封じ込め、圧倒的な高みから攻撃する事が出来る彼の強力な武器だった。

別に若い男じゃなきゃイヤだとか、顔のいい男じゃなきゃイヤだなんて言葉を名無しから直接聞いた事がある訳ではない。

むしろ名無しはあまりその辺の事にこだわらず、男の人は顔や年齢じゃない!と思っている節があるように思え、もっと言えば三成にとっては嘲笑の対象でもある『とにかく誠実で浮気をしない人。女の人を大切にしてくれる人』が好みだと言っていた。


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