戦国 【Snow】 「幸村…イヤイヤっ…あぁん…死んじゃう……っ」 「…名無し…寒くないですか…?」 身を捩って喘ぐ名無し殿の中をぐちゃぐちゃと掻き回しながら、最初に彼女と書庫で二人っきりになった時と同じ台詞を呟いた。 絡みついてくる彼女の内壁を引き擦るように腰を引き、そして再び最も深い部分へと腰を打ち付けていく。 その行為の合間に聞こえるクチャクチャッという粘膜の擦れ合う音が酷く淫靡でいやらしく、私はわざとそんな音が出るように彼女の内部を抉っていた。 「あぁっ…熱いの…熱くて…死んじゃいそう…」 「───名無し。今、助けてあげる……」 背後から彼女の耳たぶを甘噛みするようにして低い声で囁くと、私は名無し殿の腰を押さえて一際深く彼女の内部を貫いた。 その瞬間、名無し殿はブルッと腰を震わせて、そこを深く突き上げられた拍子に頂点を極めた。 「あぁぁぁ───…、イッちゃう───っ」 脳天を直撃するような名無し殿の艶めかしい声が、室内に響き渡る。 扉の外にまで聞こえてしまうのではないだろうかと言うような、大きくて悩ましい喘ぎ声だった。 「あぁぁ…幸村ぁぁ…あっ…あぁっ……」 貫かれた腰ばかりでなく、全身をビクビクッと小刻みに震わせながら、名無し殿が深い絶頂の余韻に浸り切っている。 「……っぁ、出る……っ」 甘く尾を引くような名無し殿の喘ぎ声を聞きながら、私も彼女の奥深い部分に欲望の証を放っていた。 ドクンドクンッと、自分の物が彼女の奥深い所で熱く脈打っているのが良く分かる。 目眩がして息が詰まる程の絶頂感の中、名無し殿の腰の力がガクンッと抜けて、その場にしゃがみ込もうとする。 「……名無し……」 甘く切ない声で彼女の名前を呼ぶと、私は一旦己の物を彼女の体内からズルリと引き抜いた。 意識を失って崩れ落ちる彼女の体を両手でしっかりと抱き抱えると、そのままゆっくりと腰を下ろして、冷えた床の上に座り込む。 「……幸……村……」 私の腕の中でぐったりと全身を預け切っている名無し殿が、朦朧とした意識の中で小さく喘いでいる。 そんな彼女の愛しい姿を目を細めて見下ろしながら、私は自らの懐に右手を差し込んで、堅い金属の塊を探り出す。 チャリン。 指先で摘んで取り出した物体は、あの兵士二人組が気にしていた『書庫の鍵』だった。 三成殿から彼女の話を聞いた私はこの部屋を訪ねてくる前に、事前に鍵置場に行って書庫の鍵を取ってきたのだ。 勿論部屋の中で名無し殿が作業をしている事はすでに知っていたのだから、こんな鍵など無くても最初から書庫の扉が開いていたのは知っている。 それでも私が敢えてこの鍵を自分の懐に隠し持っていた唯一の理由と言えば、名無し殿がいるこの書庫の中に、誰も入らせたくなかったからだ。 せっかくの私と名無し殿の二人っきりの逢瀬を、誰にも邪魔されたくなかったからだ。 『だ…だって、幸村…。この書庫は…鍵さえあれば……』 『…鍵さえあれば、外側からでも扉は開くのに…』 男達の足音が迫る中、自らの状況を絶望的な物だと捕らえた名無し殿の青ざめた顔が、記憶の中から蘇る。 (だから、大丈夫だって言ったんですよ。名無し殿) 彼女を見つめる私の口元が、無意識にニヤリと吊り上がり、黒い微笑みが浮ぶ。 彼らが絶対に鍵を所持していない事くらい、私は最初から知っていた。 実は確信犯だったんですよね、私。 だって、どうしても愛する貴女と一緒に居たかったのです。 どんな手段を使っても、二人っきりになりたかったのです。絶対に、この部屋で貴女を抱きたいと思っていたのです。 あれはあれで、結構スリルがあって良かったでしょう? (疲れている名無し殿には、立ちバックは少々キツかったですかね……) 完全に意識を失っている彼女の髪を優しく手櫛ですきながら、私の眼光は闇の中で光る野性の獣のように、妖しい輝きに満ちていく。 私の名無し殿に手を出したのは、どこの誰だ。 左近殿か。兼続殿か。 それとも…… 「……。」 しんと静まり返った書庫の中でじっと耳をすましていると、ヒューヒューという強い夜風の音が扉の向こうから聞こえてくる。 今夜は吹雪だな。 (夏場は腐るのが早いじゃないですか、死体) だから、嫌いなんですよ。夏場って。 腐敗臭で発見されるのが早いし、土を掘るにも川に流すにも火で燃やすにも作業中は暑くて汗をかいて気が散るし。 あの男兵士二人の身柄も、早い所押さえておかないといけませんね。 処分も───冬場の内に。 『幸村よ。お前を見ていると、愛とは清く美しい物ばかりではないという事を、つくづく思い知らされるのお……』 いつも通りに困ったような笑顔を浮かべながら、秀吉公が以前宴会の席で私に言った言葉を思い出す。 そんな事はないですよ。 私が名無し殿に対して抱いているこの想いは、清く正しく美しい、どこからどう見ても純愛です。 そうですよね?名無し殿。 ああ。私って、つくづく色見本のように純情な男。 私は鍵の先に付いている輪っかの部分に指を通して、クルクルと回して遊びながら、今までにない程に妖しく微笑んでいた。 もっと激しく雪が降ればいい。 もっと寒さが厳しくなればいい。 ねえ、名無し殿。 貴女に対する私の愛は、真っ白な雪のように汚れない、純真な愛そのものです。 私の冷え切った心と体を、貴女の奥で暖めさせて。 いっその事、この季節が永遠に続いていけばいいとすら思う。 冬以外の季節なんて、地上から無くなってしまえばいい。 そうすれば、きっとどんな男も女も互いの願いが叶う事でしょう。 愛だの恋だの余計な事を一々考える必要もなく、ただ暖を取る為だけに────交われるでしょう。 ―END― →後書き(愛の説教部屋) [TOP] ×
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