戦国 【Snow】 「おっ、やっと店が開いたようですね。実はこの店、目玉は例の『花びら回転』なんですよ。まあまあ、とりあえず体験してみて下さいよ!」 「えええ!?は…離して下さい、左近殿っ」 「いっちょ、行きますか!」 全身で拒否する私の抵抗も虚しく、ノリノリの左近殿が物凄い馬鹿力でグイグイと店内へと引っ張っていく。 他の客達の渦に巻き込まれるような形で、私の体が薄暗い店の奥へと飲み込まれていった。 「お客様、いらっしゃいませ!!」 店員の男達がすかさず我々の傍に近寄ってくる。 慣れた動作で私と左近殿の背中を押してそれぞれ別の座席へと案内すると、自然な流れでそっとその場に座らせた。 (えっ…。ちょっ…、違うんですけど!?) 「いらっしゃいませ!」 ニッコリ。 あまりに目まぐるしい展開の早さに私が慌てて立ち上がろうとしていると、胸元もあらわに着物を着崩した妖艶な女性が私の隣に腰を下ろす。 「さあ、旦那様。下を脱いで下さいませ」 「い…いえ、私はそんなっ……」 しどろもどろな口調で言い訳をしている私に対し、彼女は『ここまで来て、何を言っているの?』とでもいうような感じで、遠慮なく私の腰に手を掛けた。 妖しく微笑む彼女の全身からは、男の匂いが染み付いているとでも言うような、妙に生々しい匂いが漂ってくる。 「うふふっ。嫌ですわ、旦那様。そんなに恥ずかしがらなくてもいい事なのに…。さあ、こんにちはをさせて貰えませんか?」 「ち、ち、違うんですっ。これは何かの間違いでっ…!!」 大慌てで両手を左右に振って拒絶の意を示している私に何ら構う事もなく、彼女は私の腰紐を解いてズルリとズボンを下げ、中から現れた私の物を何のためらいも無く口に含んでいった。 一度こうなってしまったら、男というのは実に弱い生き物だ。 口ではいくら『自分はそんな事をしにきたつもりじゃないんです』と言ってみた所で、肝心の体の方はと言えば目に見える程に正直な反応を示していく。 彼女の行為を拒絶しているはずの心とは裏腹に、私の体は一切拒む気配を見せず、5分と持たずに彼女の口の中で絶頂を極めてしまった。 これで自分の仕事は終わったとばかりに立ち去っていく彼女を見ながら、虚脱状態となった私が下半身を曝け出したままにしていると、すぐに別の女性がやってきて私の物は再び女の口の中にパクッとくわえられてしまう。 プロの女性の巧みな口技を受けて完全に勃起している私の周囲の席で、他の男性客が次々と同じようにして真っ赤な紅を引いた女性の唇に一物をくわえられ、その口腔内へと欲望の証を放っていく。 左近殿が事前に言っていた店の女達の『花びら回転』によって、この日の私は結局3人の娼婦に一発ずつ抜かれてしまったのだ。 そして、今の私に至る。 (……名無し殿……) 最愛の女性の名前を心の中だけで呟きながら、私は茫然とした顔付きで青い空を仰いでいた。 この行為は、やっぱりれっきとした浮気行為になるのだろうか。 それとも左近殿の言った通り、極めて割り切った形による、ただの性欲処理にしか過ぎないのだろうか。 彼女達との間にある物は金銭の授与だけで、私は彼女達に対しては何の恋愛感情も抱いてはいない。 キスだってしてないし、ましてや挿入行為すらしていない。厳密に言うならば、左近殿の言葉通り『本番行為』と言えるような事は、一切していないのだ。 いや、それでもどうだろう。ひょっとしたら、我々男側のこの理屈は女性には理解出来ないという物なのかもしれない。 心と体は別物なのだ、というのが我々男性の基本的な共通理念の一つなのだが、それを名無し殿のような女性には果たして分かって貰えるのだろうか。 口では『いや、そんな事はない。心と体は一つなのだ。少なくとも俺にはそんな事は出来ないね』と言っている男は、90%近くの確率で嘘だと思って間違いはないだろう。 それは『真実』を口にすると相手の女性が怒るという事を今までの人生経験や知識から学んでいると言うだけの事で、表面上口裏を合わせているだけという事なのだ。 自分の好きな男性だけにはせめてこうあって欲しい、と願う女性サイドの理想に合わせた言葉を口走っているだけという事なのだ。 残りの1割りは本当にそう思っている男もいるかもしれないが、少なくとも男が10人いたら9人はそうだと思って間違いないだろう。 何でそんな事が断言出来るのかと言うと、そんな私自身が立派な男の端くれだからだ。 同じ男の心理として、心のどこかではそう思っているからなのだ。 それでもなお、決まった女性以外とはセックスしないという男の胸中を占めている事はただ一つ。 それは、決して彼女に対する愛ではない。 愛は確かに強い力を発揮するが、得てして『感情』という物は、ある日突然自分の体内に生まれたり、突然跡形も無く姿を消してしまったりと、基本的に不安定で確実性の無い物なのだ。 では、恋人以外に対する生殖行為を押し留める物。それは何かと聞かれたら。 それはたった一つ。『理性』という名の概念だけだ。 ───BY.三成。 [TOP] ×
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