異次元 | ナノ


異次元 
【魂喰い】
 




「その表情からすると図星だな。どこの誰だか知らんが、そう気にする事でもあるまい。安心しろ。我ら司馬一族に逆らえる権力を持つ者などこの魏国の中ではそういないのだからな」
「そうそう。俺達に向かって何かめんどくせー事言ってくるやつがいたら、一発シメてやるから」
「それは……」

途中まで言いかけて、名無しは咄嗟に口をつぐむ。

確かに二人の言う事は本当だ。

この魏城には各地から集められた名のある貴族達や勇猛果敢な武将達が数多く在籍しているが、司馬師や司馬昭のような超VIPの男達に対抗出来る勢力なんて本当にごくごく一部の限られた者だけであろう。

それほどに城内における司馬一族の権力は絶対で、彼らに逆らえる者などそうはいないのだ。

それを自分達でも十分過ぎる程に分かっているからこそ司馬師や司馬昭は名無しに対してこれだけの暴挙に出られているのだが、そんな彼らに対して

いいえ。あなた達ですら敵わないレベルの相手です

と告げるのは、それはすなわち相手が『誰』なのかという事を、名無しが自分から公表してしまっている事になる。


つまり────あの人達≠セと。


(それは出来ない)


何も言わないまま、このまま黙って司馬師達に陵辱を受けるのも恐ろしいが、『あの人達』の名前を出してしまう事は、そしてこの出来事を彼らに知られてしまう事はそれよりももっと恐ろしい。

そう思った名無しはブルルッと震え、この状況をどう切り抜ければいいのか、どうすれば最良の選択肢が取れるのかと思い悩み、彼女の額に気持ちの悪い汗が滲む。

(どうしてもっと早く気付けなかったのだろう)

今更後悔した所で、後の祭り。

いくらスキンシップが大好きな司馬昭だからといって、こんなに長い間ずっと名無しを抱き締めているのはよく考えてみたらおかしいではないか。

その疑問に目を向けていたら、もっと早い段階で司馬師達の本心を察する事が出来たかもしれないのに。

司馬昭のこの不可解な行動が名無しを外に逃がさず拘束し続ける為のトラップだと気付く事が出来たかも────しれないのに。

「……っていうか、お前、付き合ってる相手とかいないんじゃなかったのかよ。普通にフリーだと思ってたのに。マジで他に男がいたの?はぁ〜、ショック……!!」

興奮の為か衝撃の為か、感想を述べる司馬昭の声は普段よりも幾分荒れている。

がっしりとした肩を落とし、太い眉を八の字に寄せて、ハーッと深く息を吐いてうなだれる司馬昭の姿は、まさにハートブレイクといった状態。

だが、例え名無しに男がいたとしても自分に勝てるような男のはずがないという確固たる自信に満ちているのか、司馬昭は持ち前のガッツで1分もしないうちにその動揺から立ち直り、代わりに情け容赦を無くした獣のような眼光で名無しを見る。

「ったく、名無しったらそりゃないぜ。新手の嫌がらせ?すぐ近くに俺や兄上っていう最高にイイ男がいるにも関わらず、俺達を無視してどこかの男に心も股も緩めまくってたなんて。もう最悪。ムカつくわ…」
「痛っ…!子上…痛い…!離し……」
「俺の許可もなく勝手に男遊びなんかしたらダメじゃん。なあ名無し。分かってんの?」

頭ごなしに叱りつけてくるのではなく、冷静さを保っているように思える司馬昭の口調が余計に怖い。

「可愛い女だと思ってたのによ」

現に独り言のように呟く司馬昭の口元は笑っているが、彼の目元は少しも笑っていない。


「────軽くってやんなっちまうぜ……」
「あ……っ」


ゾクリ。

名無しの耳元に熱い吐息を吹きかけながら彼女の耳たぶをペロリと舐める司馬昭の舌の熱さに、名無しの全身にゾクゾクッとした寒気が走る。

凍えるような冷たい目付きで名無しを見下ろし、司馬昭は名無しの体を抱き締めたままで自分の両手を絡めてバキバキッと不気味に指の骨を鳴らした。

自分は散々城の女官や風俗嬢達とやりたい放題しまくっている司馬昭だが、女側の話になると話が変わり、途端に独占欲が剥き出しになるようである。

この時代、身分の高い男性は一人で数多くの妻や愛人、浮気相手を抱えているのが当たり前で、司馬師や司馬昭のような男側にとっては一夫多妻が常識だった。

しかしその反対に夫がいながら他の男性と情を交わす女には厳しい処罰が待ち受けていたので、司馬昭だけでなく自分はよくても相手はダメ!という考え方を持った男達は非常に多かった。

「そう思うと遠慮はいらんな」
「ですね。ガツンといっちゃいますか。自分が一体誰のモノなのかっていう事を、この際名無しによく分からせてやらねえと」

名無しの背後にうっすらと漂う他の男の影は、プライドが高くて自尊心も高い彼らの闘争心に火を点けたようだ。

名無しの言葉によって今の司馬師と司馬昭は完全に戦闘モードに突入し、彼らの全身からは妖しい闇の炎がユラユラと立ち上っていく。

「暴れると怪我するぜ。じっとしてな」
「きゃっ…!!」

司馬昭は左手で名無しの胸元を押さえ、右手を下に滑らせて彼女の両膝の裏に潜らせると、彼女の体を軽々と抱き上げた。

司馬昭はそのままお姫様抱っこの格好で名無しを抱えて司馬師のいるベッドの所まで歩いて行くと、名無しを抱えたままでベッドの上に腰を下ろす。

「いっ…いやっ…!やめて…離して……!!」

ベッドの中央に名無しを乗せ、その背後に座った司馬昭が力強い腕で彼女の両手を掴み、上半身の自由を奪う。

すでにベッドに乗っていた司馬師は名無しと司馬昭に正面から向き合う形をとると、名無しの両足を大きく左右に割ってその間に自分の体を割り込ませる。

名無しは屈強な体躯の男二人に前後両方から挟み込まれたサンドイッチのような状態で、上半身も下半身も自分の意思では満足に動かせず、かろうじて足の爪先が小さく動かせる程度でしかなかった。

「し…、子元…お願い…離して…!」

恐怖でガタガタと全身を震わせて、悲鳴混じりの声で名無しが目の前にいる司馬師に解放を願う。

だが、強力な力で名無しを押さえつけている男二人は、今にも泣き出しそうな顔になっている名無しの顔を冷酷な眼でじっと見下ろしている。


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