異次元 | ナノ


異次元 
【籠の鳥】
 




『……恐れながら、露姫様。そのような事は出来ません』

その光景を冷静な眼差しで見つめながら、私は静かな声音で彼女に告げる。

今まで生きてきた人生の全てを蝶よ花よと育てられ、周囲の男達をも思い通りに扱ってきた彼女の瞳が驚愕の色に染められていく。

まさか断られるとは微塵も思わなかった、といった眼差しで俯く私の姿をまじまじと見下ろすと、彼女は不敵な笑みを口元にたたえて私に命じた。

『そんな返事は最初から聞いてないわ。あたしは貴方にアソコを≪舐めろ≫と命じているの。聞こえないの?それとも小姓の分際で、信長様の親戚にあたるあたしに刃向かう気?』
『…いえ。そのような…』
『信長様に仕える小姓の一人なら、言うならば織田家の犬も同然。犬は犬らしく、ご主人様である織田一族の…あたしの命令に従えばいいのよ』

高圧的な態度でそう言って、彼女はフンッと鼻で笑う。

『……。』

彼女の言動を快く思わぬまま、私は何も言わずに黙って跪いていた。

これがもし普通の人間相手であれば、きっと私はこの場で即刻切り捨てている。

だが彼女は遠い血筋とはいえ信長様の縁者であり、織田家に仕えている人間という手前早々彼女に無茶な事は出来ない。

露姫様の両親と違い、信長様はああ見えてかなり厳正な方である。

出兵した際、織田軍の兵士が現地の女性に絡んでいるのを見かけた信長様が、軍の規律を乱す行為をしたとしてその場で手討ちにされたという逸話もある位だ。

もし事の顛末を包み隠さず信長様にお伝えしたとすれば、きっとあの方は十中八九露姫様より私の味方をして下さる事だろう。

あの御方は普段から身分の上下や身内・他人の差別なく、公正な判断をして下さる方なのだ。

私と露姫様のどちらに非があって、どちらの言い分が正しいのか、きっと信長様なら分かって下さる。

そしてそう判断して下さる程の信頼を信長様から得ていることを、私は普段から自分の肌で感じ取っていた。


(どうするか……)


ここからどう出るべきか。


私が内心思い悩んでいると、不意に露姫様が爆弾発言を言い放つ。


『いずれはあたしが信長様の正妻になるんだから、貴方も余計な事を考える必要なんて無いわ。この際堅い事なんて言いっこなしよ』


彼女の口から唐突に放たれた言葉の内容に、私は驚いて目を丸くする。

何かの聞き間違いではないのかと、私は一瞬自分の耳を疑った程だ。



だがこの時、彼女は大きな過ちを犯した。



露姫様は私の事を力ずくで言いなりにしようとしただけでなく、あろう事か信長様の最愛の妻である濃姫様をも侮辱したのだ。



『ちょっと見てくれがいいだけのくたびれた年増女よりも、あたしみたいな若くて綺麗で体もいい女の方が、世の殿方は圧倒的に好きなのよ。濃姫なんて所詮はオバサンじゃない。悪いけど…あたしの敵じゃないわ』

唖然とした表情で彼女の顔を見上げる私に構わずに、露姫様はあっけらかんとした口調で話を続ける。


『だからこそ、あなたも今の内にあたしにたっぷり媚びを売っておいた方がいいと思うけど?』


────だってあたしは信長様の『未来の妻』になる女なんだからね、と。


そう告げて無邪気にコロコロと笑う彼女の姿を目の当たりにした直後、私の中で何かがプチンと弾けた音がした。


甘い両親、甘い家臣。甘い女官に、甘い男達。


そんな奴らが集まっている城だからこそ、今の彼女の言動や行為が『たまたま』許されているというだけの話。

はっきり言って、この城ではそんな行為は許されない。

信長様の正式な妻である濃姫様も、信長様の第一の従者である秀吉様の正妻、ねね様も。

権力者の妻という高貴な身分の女性であるにも関わらず、一度戦が始まれば夫に付き添い戦場に出ることも辞さない方々なのだ。

夫と共に生きるも一緒、死ぬも一緒。

愛する夫が選んだ道ならば、例え誰から何を言われようと、どんな結末が待っていようと、どこまでも付いていく。

夫に対するそれほどの深い信頼と愛情を一身に捧げている彼女たちだからこそ、信長様や秀吉様も自分の妻に選んだのだ。

だからこそ彼らだって、あんなにも妻のことを大切にしているのだ。

その道理が全く分かっていないくせに、自分の方が濃姫様よりも女として上だと語るこの女性に対して私は激しい憤りを覚えた。


時の覇者、織田の流れを汲む一族に『運良く』生まれ落ちたという事にあぐらをかいて、何の苦労も努力も一切した事がないくせに。


世間一般の市民のように汗水流して働いた経験もなく、自分の食い扶持を自力で稼ぐ訳でもなく、親の金で遊んでいるだけの人間のくせに。


大した学問も知性もなく、朝から晩まで男とセックスの事しか考えられない、空っぽの頭のくせに。



お前のような世間知らずの女が、偉そうに男を語るな。



『今のは濃姫様に対する…ひいては信長様に対する立派な侮辱ですよ。いくら貴方様でも、断じて許すわけにはいきません』


低い声で唸るように吐き捨てて、私はおもむろに立ち上がる。

そのまま彼女の元へズンズンと歩いていくと、解けかけた彼女の腰帯に手を伸ばす。

素早い動作で帯を一気に引き抜いた私は彼女の両腕と両足を片側ずつセットにしてその帯でグルグルに縛り上げ、身動き一つ取れないようにした。

左右の手首と足首をそれぞれ一緒に固定されてしまった露姫様は、下半身は何も身に纏わずに、両足を大きく開いた形の何とも無様な格好だった。

そして一旦寝室を抜け出て自分の部下に罪人の男達を数人連れてくるように命じると、露姫様の剥き出しになった秘部を彼らに命じて舐めさせたのだ。

露姫様のように両親からも周囲の人間達からも大切に育てられ、思うがままに人生を謳歌してきた貴族娘にしてみれば、汗と泥にまみれた罪人達は自分と全く別世界の住人だろう。

見た目にも薄汚れた外見の汗臭い男達に、よってたかって局部を舐め回される事など屈辱の極みに違いない。

お願いだからやめてくれと露姫様は何度も私に懇願したが、私は決して許さなかった。

結局その夜はそんな事を2時間続けたのか、3時間続けたのか、4時間だったのか5時間だったのか今となっては全然覚えていない。

罪人達に代わる代わる秘部を舐められている間中、彼女はずっと悲痛な涙を流していた。

しかし、そんな事をしている内に、やがて彼女は自分の恥ずかしい部分を舐めているのが罪人達であるという事も忘れ、徐々に激しい喘ぎ声を漏らすようになる。


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