異次元 | ナノ


異次元 
【月下美人】
 




「名無し……挿れたい……。お前を抱きたい……」


はあっ…という熱い吐息と切ない願望が、清正の唇から零れ出す。

いつの間にか清正は、自慰を続けながら自分でも無意識の内にそんな事を口走っていた。

未だ体内に残るアルコール、そして中庭から漂ってくる月下美人の甘い香りに頭がやられてしまったのかもしれない。

清正の妄想の中で白い体をくねらせる名無しは、とても淫らで、エッチで、従順で、健気で、可愛かった。

『あ…清正…いや……触っちゃだめって言ったでしょう?』
『あっ…やだっ…どこ触っているの?ああん…そんなとこ触らないでぇ…あっ…あっ……』
『ああああ…そこはだめぇぇ……』

清正の逞しい体に組み伏された体勢の中、名無しが涙目になりながら、上半身を起こすようにして訴える。

(俺ならこうする)

自分が名無しを抱くならこうする。ここから攻める。

この順番で弄る。キスはこうする。指と舌はこう使う。

この格好をさせて、この体勢で入れる。この流れで挿入する。俺がするなら……。

自分なりにシミュレーションを立て、清正が仮想の名無し≠責めていく。

全身全霊を傾けて名無しの愛撫に熱を込めていくと、次第に名無しは三成に抱かれていた時と同じように、否、それ以上に悶え始めて彼女の秘部がよがり汁でグショグショに濡れていく。

『ああーん…清正ぁ…裂けちゃう…大きくて…壊れちゃうよぉ……』
『あん…あーん…動いちゃだめぇ…あっあっ……』

(壊れちまえよ。名無し)

破壊してやりたい。木っ端微塵に。何もかも。

自分以外の男となんて二度と出来なくなるように。

『いい…いいっ…あぁぁ……』
『ひいぃ…イッちゃう……』

喘ぐ名無しの声がどんどん淫らに、激しくていやらしいものになっていくのに合わせるようにして、グチュグチュと分身をしごく清正の手の動きもさらに激しく、速度を増していく。

『はぁん…だめっ…そんなに深く…。熱くて…溶けちゃう…清正ので…イッちゃうぅぅ……』

(名無し…俺もイキそう。名無しの中が熱くて…すげえ気持ち良くて…)

絶頂の予感に、清正の腰がブルリと震える。

後少しで達する事を悟り、最後のイメージをどう固めるかで清正は迷う。

一旦名無しの中から引き抜いて、口に突っ込んで飲ませるか。勢い良く顔にぶちまけるか。それともこのまま名無しの中で果てて、名無しの中に己の体液を注ぎ込むか。

『ああん…だめだめっ…清正…中はだめ…溢れちゃうよぉ…あっあっ…出しちゃいやぁぁ……』

男の行為を止めようと、名無しが必死で身を捩って訴える。

だがとめどなく流れる名無しの涙も甘い喘ぎ声も、色っぽいお願い≠焉A男の動きを制止するどころかさらに欲情を煽る効果しか持たない。

(中しかないぜ、ここは)

名無しの懇願も虚しく、清正のピストン運動は止まらない。

それどころか、清正はそのスピードをさらに早めた。

そして名無しの体がガクガクと揺れるほど、激しく肉棒を名無しの中に打ち突ける。


『あぁぁぁ───っ。イクっ…イッちゃう───っ…!!』


「……イク……っ!!」


ドクンッ。


頭の中で真っ白な閃光が炸裂し、清正の心臓が一層大きな鼓動を刻んだ瞬間何かが弾けた。

ビクビクッと、その部分だけ別の生き物のようにして清正の男根が激しく脈打つ度、白濁した男の体液が勢い良く亀頭から放出され、清正の掌を濡らしていく。

「……っ、まだ出る……」

思わず漏らした清正の言葉通り、ようやく迎えた射精はなかなか終わる事が無く、ドクドクと溢れ出た精液が清正の指の隙間から流れ落ちて畳の上に白い染みを作る。

名無しの中に出していると思うと、普段よりもずっと量が出るようだ。

欲望の大きさと比例するみたいに。



オカズにしてしまった。大切な仲間の名無しを。

あんなに仲が良かった兄弟姉妹のような名無しを、想像の中で汚し、犯し、中出しまでしてしまった。

どうしようもない罪悪感が清正の中で込み上げ、清正は自分の行為を後悔した。

だがそれは終わった直後、ほんの一瞬のこと。

生まれ出た罪悪感がスーッと消えると、代わりにひどく獰猛な、狂おしいほどの激しい欲望と雄の性的欲求が清正の心を苛む。


……足りない。


足りない。こんなものじゃ全然足りないぜ。


達成感がない。充実感がない。何より喉の渇きが潤わない。支配欲が満たされない。


どうすりゃいい?


(ああ抱きたい。名無しを抱きたい。お前を抱きたいよ、名無し)


と、言うよりも、違うな。そんな可愛らしいもんじゃないぜ。


名無しの体をズタズタに引き裂いて、所有の証を刻み込みたい。獣のように喰らいつきたい。


あの白くて柔らかい肌にむしゃぶりつきたい。思いっきり強く歯を立てて、名無しの身も心も、奥の奥まで、自分のモノで突き破りたい。


『抱く』なんていうぬるくて生易しい表現は────好かない。


男と女の友情が壊れるなんて些細な事。

今まで普通に友達だと思っていた相手に恋人が出来て急に自分の気持ちに気付いたとか、薄着になった相手の肉体を見て性的な興奮を覚えたとか、親身に相談にのってもらっているうちに次第に異性として意識し始めたとか、色々。

それまではずっと自分達の友情は永遠のものだ∞純粋に友人として好意を抱いているのであって、よこしまな下心なんて微塵もない≠ニ思っていても、それが壊れる出来事なんていくらでもある。

ほんの少しのきっかけさえあれば、男女の信頼と友情なんて、あっけないほど簡単に崩壊する。


もう元の関係には戻れない。


昨日までの関係には戻れない。


────あれはもうオンナトモダチ≠カゃない。


(あれは肉だ)


一度も見た事がない、味わった事がない、特別で美味そうな肉。それがこんなに身近にあったとは。


白い肉の塊としてしか見られない。餌としてしか見られない。


女としてしか見られない。名無しの事は。



────虎が噛み付くぜ。



「……狩りてえ」



ギラリ。


闇に身を潜めて獲物を捕らえる機会を伺う野生の虎のように、暗い部屋の中で清正の双眼が妖しく光る。

耳を澄ませばどこかからかコオロギやスズムシの透き通る鳴き声が聞こえてくる、秋の夜。

中庭では月下美人の白い花が月明かりに照らされて幻想的な輝きを放ち、その甘く香しい芳香が清正のいる部屋だけでなく辺り一面にたちこめていた。




毎年季節が来ると城の中庭で咲き誇る大輪の月下美人の花。


香りが強いので近くを通りかかるだけで気付く。気持ちが悪くて吐きそうだぜ。


暗闇の中で光る月下美人を見ていると、その純白の姿に反して何とも言えず淫靡で、蠱惑的で、誘うようで、魔性の生き物と対峙しているような錯覚を抱く。


この花の匂いを嗅いでいると、頭もクラクラして目眩がする。五感が鈍る。


理性が飛んで、正常な判断が出来なくなる。体の深い部分が刺激されて、ウズウズして、変な気分になってくる。獣みたいになるんだよ。


ああ、この匂い。甘すぎて気が狂っちまう。


段々俺が俺じゃなくなっていってしまいそうなんだ。




─────匂いがキツくて。





─END
→後書き


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