異次元 | ナノ


異次元 
【すんどめ:VS司馬昭】
 




「ん……っ、ご、ごめ、なさ……」
「でもまあ、仕方ないか。そういう風に仕込んだのは俺だし、お前をこんなドスケベにしちまった責任は取らなきゃな」

名無しの顎を掴んで噛み付くようなキスをする。そんな強引で男らしい彼の仕草に、名無しはまたしても胸がきゅんと高鳴ってしまう。

「お前が悪いんだぞ、名無し。言っておくけどもう優しくなんてできないからな。骨の髄まで俺の女になる覚悟はできてるんだよな?」
「ぁ……ぅ、はい……」
「なら誓えよ。今ここで」

司馬昭は強い眼光で名無しを貫き、硬くなった肉棒を彼女の濡れた入口に押し当てた。

「子上専用の、エッチなメス穴になりますって」
「ぁ……、あ……」

名無しの耳朶を甘噛みする合間に、男が低い囁きを降らす。それはまるで媚薬のように、彼女の思考回路をドロドロに溶かしていく。

「は……、はいっ……。私……子上の、子上だけの……エッチなメス穴に、なります……」
「我慢が出来ない悪い子です、は?」
「子上、ごめんなさい……。私、悪い子だから……我慢できないの……」
「悪い子だから、どうされたいって?」
「ぁ……。エ、エッチで…悪い子だから…早く、私の中に……入れてください……」
「入れて、それから?」
「入れ…て…、それから……。子上ので……たくさん……犯して……私を……お仕置きしてください……っ」

名無しは切なげに眉根を寄せながら司馬昭を見上げ、お尻を揺らして懇願する。その淫らな仕草と表情を目にしてようやく許す気になったのか、男は残酷な気配を滲ませて唇の端を持ち上げた。

彼女の瞳に映り込む、欲望に塗れた己の姿を確認しながら告げる。

「このド淫乱が」

司馬昭は名無しの腰を両手で掴むと、猛った男根を一思いに彼女の体内へねじ込んで─────。




バシッと何かで頭を叩かれたような衝撃を感じて、司馬昭は目を覚ました。

「いって……!」

一気に覚醒した意識と共に、己の状況を把握するために慌てて周囲を見回す。そこは、いつもの自分の部屋である。

司馬昭は頭を押さえたまま深く息を吐く。夢か……と呟き、安堵とも無念ともつかない複雑な心境で天井を見上げた。

「……っ、あーもう……マジでなんつー夢を見てんだよ俺は……」

苛立たしげに舌打ちすると、乱暴に前髪をかき上げた。最悪だ、と吐き捨てる彼の脳裏には、先ほど見た夢の内容が生々しく残っていた。

それにしてもリアルな夢だった。名無しの乱れた姿や自分を求める言葉など、まるで実際に体験してきたかのような臨場感があったのだから喜ばしくも恐ろしい。

「ほう。夢を見ていたのか。どんな夢だ?」
「わあああぁっ!?」

突然聞こえてきた声に、司馬昭は文字通り飛び上がって驚く。慌てて声がした方へ視線を向ければ、そこには司馬師が立っていた。その姿を認めた司馬昭は一気に脱力する。

「兄……上……」
「おはよう、昭。というより遅よう≠セな。もう昼過ぎだぞ」
「あー、はい。おはようございます……。つーか、普通に起こしてくださいよ……」

溜息混じりにそう答えると、司馬昭はのそのそと寝台から這い出した。

……が、またすぐに寝台に逆戻りする。男は半目で兄である司馬師を睨みつけた。

「兄上。俺を起こすためにわざわざこちらにいらっしゃったんですか?」
「そんなわけがなかろう。私がお前の部屋に来たのは、お前を目覚めさせるためではない」
「じゃあ何で」

弟がそう言いかけたところで、司馬師は手にしていた竹簡を丸めて彼の頭をぺしんっと叩く。

「いっ……!?」
「いつまで寝ぼけているつもりだ。以前私の部屋からくすねていった本を早く返せと言い続けていたはずだが、いつまで経っても返却しに来ないからわざわざこの私自ら取りに来てやったというのに、何だその態度は。兄に対して無礼だろう」
「あっ」

司馬昭はそこでようやく思い出した。そういえば以前、興味本位で司馬師の部屋から勝手に書物を持ち出してそのまま返却し忘れていたのだ。

「すみません。すっかり忘れてました」
「ふん、まあいい。ところで昭、夢とはなんだ。ずいぶん汗をかいているな。そんなに悪い夢だったのか?」
「えっ?あー、悪いというかむしろメチャクチャいい夢だったんですけど。それはもう、飛び上がるくらい最高で。あれこそまさに男の夢。桃源郷と言いますか…」
「桃源郷?」
「……!って、いや、全然大した夢じゃないんで。ハハッ。お気になさらず〜」

適当に誤魔化してその場を凌ごうとしたが、彼の兄はそう甘くなかった。司馬師は寝台に腰掛けると、弟の顔を覗き込むようにして視線を合わせる。

「それは興味深いな。詳しく聞かせてもらおうか」
「あ、いや、だからほんとに大した夢じゃないんで。ていうか、言ったら絶対兄上に笑われると思いますし」
「いいから話せ。兄に隠し事とは偉くなったものだな?」

司馬師は冷ややかな笑みを浮かべながら、もう一度竹簡でぺしんっと司馬昭の頭を叩く。その瞳には、何やら怪しげな光が宿っているように見える。その眼差しを受けて、司馬昭は冷や汗を流した。

普段なら同じ話をしても全然興味を示さない上に、可愛い弟が『兄上!今日すっげーいい夢見たんで聞いてくださいよ!』とせがんでも『馬鹿め』の一言で切り捨てられるだけなのに、何故今日に限ってこんなにも食い付きがいいのだ。

兄としての直感なのか、それとも他人の弱みの匂いを鋭く嗅ぎ付けるドSセンサーが発動しているのか。

これだから司馬一族の男は油断がならない。いや俺も司馬だけど。

しかしながら、あのような夢の内容を馬鹿正直に話してもいいのか迷う。兄に対して後ろめたい感情があるわけではないが、やはり恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。

ましてや、極めつけはあのラスト。

あの時の自分は名無しの豊潤な色香に屈して完全に我を失い、あろうことか彼女の望む通りに予定変更の挿入を強いられたのだから。といっても、このクソ兄貴……ではなく尊敬する兄上のせいで、結局それは叶わずじまいだったわけだが。

司馬昭は司馬師から目を逸らし、もごもごと口籠る。そんな彼の様子が逆に兄の興味を煽ってしまったらしい。司馬師は目を細めながら、さらに詰め寄った。

「言え」

いくら夢だとはいえ、女の色気に翻弄されたとあれば絶対に兄上の教育的指導を受ける。

恥ずかしさのあまり両手で顔を覆い、司馬昭はうぅ……と小さく呻く。

「兄上には言えません……」
「なんだその気持ち悪い態度は。いいから言え」
「いや、だから……、言えるわけないじゃないですか……」
「何故だ」

答えに窮し、黙り込む。

言えるわけがないだろう。名無しとヤりまくっていた夢を見ました、なんて。

それも生ハメで中出しして死ぬほど犯しまくって朝まで直球コースに突入しようと思っていたのに、クソ兄……、ではなく尊敬する兄上が余計な邪魔をしてくれやがったので、最高にイイ場面で未遂に終わりました、なんて。

口にしたら俺が悲しい。あまりにも残念過ぎる。

「言えません。年頃の男子には、色々と秘密があるんですよ。その辺りを察して欲しいわけです」
「思春期の男子中学生のようなことを言うな。とっくに成人した弟の内面を何故一々気遣ってやらねばならんのだ。四の五の言わずにさっさと吐け」
「無理です。言えません。つーか、どうせ言ったら笑うんでしょう?兄上のドS野郎!エロ魔人!」
「なんだそれは。悪口か?というより、そんな台詞が出てくるということは、夢の中でエロ妄想に浸っていたというわけか。語るに落ちるとはこのことだな」
「あーもう、絶対イヤです!!俺は言わないからな!!」

司馬昭はそう叫んで、布団を頭から被って丸まった。

こうなったらもう、徹底的に反抗してやる。何を言われても絶対に口を割らないぞ!


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