異次元 【すんどめ:VS司馬昭】 「聞こえなかったのか?俺の服だよ」 男は笑みを含んだ声でそう告げて、名無しの手を握り自身の上着へと導く。彼女は戸惑ったように目を瞬かせたが、言われるままに男の衣服を脱がせ始めた。ひとつずつ丁寧に、ゆっくりと。 しかしながらその手つきは非常にぎこちないものだった。まるで他人の服を脱がすのは初めてだとでも言わんばかりだが、それも当然であった。 何せ今の司馬昭は『ご主人様』なのだから、適当に脱がせるわけにはいかない。主に対して失礼のないように振舞わなければならないと考えている。 慣れない手つきで必死に脱がせようとする姿は実に殊勝であり、同じくらいに嗜虐心を煽る光景でもあった。 「どうした。手が止まってるぞ」 「す、すみません……。今やりますので……」 「早くしてくれよ」 「はい……」 急かされた名無しは慌てて行為を再開させる。彼の緩くて開放的な性格の表れなのか、司馬昭はいつも衣服や帯を軽めに着付けており、9割方の確率で胸元が大胆にひらいたデザインとなっている。 そのため、男の鍛えられた厚い胸板や男性的な鎖骨のライン、引き締まった腹筋がチラチラと垣間見えるのだが、それを目の当たりにする度に女性陣の鼓動は激しく高鳴り、見てはいけないものを盗み見ているような背徳感に襲われていつも目のやり場に困っていた。 普通の男性相手ですら逞しい肉体の持ち主に対してはきっとそうなってしまうのに、相手はあの司馬昭である。彼のボディラインを間近で目にするたびに否が応でも意識を奪われ、胸がドキドキとうるさくなってしまう。 それは司馬昭と恋人設定である夢世界≠フ名無しとて同じこと。 若く、美しく、さながら彫刻のように整った男の美貌としなやかで若木のようなエネルギーを放つ肉体美を間近で捉え、平静を保つことなんて不可能だ。 「……名無し?」 ぼんやりとした表情で無言になった名無しの顔を司馬昭が覗き込んでみると、その顔は熟れたリンゴみたいに真っ赤に染まっていた。 (おいおい、大丈夫か?) 服を脱がせるくらいなんてことないと思ったが、自分で思っているよりも少々口調がきつかったか。 そのせいで怖じ気づいてしまったのかもしれないと思い直し、軽くフォローでも入れておくか…と口を開きかけたところで、それを遮るかのように名無しの唇が言葉を発する。 「……あ……。申し訳、ございません……。その、ご主人様のお姿があまりにも……」 「ん?俺が何だ?」 「……あまりにも、素敵で、カッコ良くて……私、つい見惚れてしまって……」 まさかの発言に、今度は司馬昭の方が若干赤面する番だった。 名無しが他者を素直に褒めること自体はいつものことだ。 子上って背がとっても高くて羨ましい、手足が長くて素敵だね、私ももうちょっと子上みたいに二の腕が硬くならないかなあ、鍛え方を教えて欲しいな……などと彼女がストレートな賛辞の言葉をかけてくるのは日常茶飯事である。 それでも、今日の台詞はまた一段と司馬昭の心に響いた。おそらく名無しと恋人同士であるということと、名無しから『大好き』と甘えてくれること、さらには『ご主人様』という呼び方のせいだろう。 普段ならば『はいはい』と聞き流すところだが、エロ可愛いメイド服でご奉仕しながら囁かれる名無しの声はまるで甘露だ。彼女が自分に向けて放つ愛の言葉一つ一つが、司馬昭にとってこの上なく甘美なものに感じられる。 「そっか。ありがとな」 「ご主人様…」 「俺、努力とか苦手だから別にこのままでもいいんだけど、名無しがそう言ってくれるなら頑張ってみるかな。もうちょい体を絞り込んで、今より数倍カッコよくなってみせるぜ。俺に惚れ直させてやるよ」 照れ隠しのためにわざと素っ気ない口調で返すも、その言葉とは裏腹に表情はすっかり緩んでしまっていた。 名無しからの真っ直ぐな愛情表現を受け止めるだけで、こんなにも心が満たされるなんて。我ながら単純な性格だと思う。 「遠慮すんなよ。見たいなら、もっとじっくり眺めてもいいんだぜ?好きなだけ見ていいし、触っていい」 「そ、そんな……」 「いいから、ほら」 司馬昭は名無しの片腕を掴み、彼女の掌を己の胸板に押し当てる。その拍子に彼の肩にかかっていた上着がするりと滑り落ち、上半身が露わになると同時に、引き締まった筋肉に包まれた身体が名無しの視界に映し出される。 直立した状態ではなく、ベッドの上で軽く胡坐をかいた姿勢でも力強い存在感を放つ男らしい体つき。くっきりと浮き出た腹筋の筋、がっちりとした肩幅、厚みのある胸筋。どれを取っても惚れ惚れするほど美しい。 これほど魅力的な男の体躯を見て、何も感じない方がおかしいというものだ。事実、名無しはとろんと溶け切った瞳で食い入るように見つめ、恍惚の表情を浮かべている。 「とはいえ、そんなに熱心に見つめられたらさすがに照れるけどな。感想は?」 「えっと、すごく、カッコいいです……。それに、逞しくて……綺麗で……ドキドキします……」 緊張と高揚からか、少々上擦った声音で語る名無しに司馬昭はさらに気を良くしたらしく、ニヤッと口角を上げて彼女を抱き寄せ、耳元で低く囁く。 「俺もドキドキしてるんだけど」 そのまま耳朶を軽く食むと、腕の中で名無しの身体がぴくりと震えたのが分かった。彼女は耳まで真っ赤になり、恥ずかしそうに俯いている。 そんな彼女の反応を楽しむかのように、司馬昭はさらに追い打ちをかける。 「お前があんまりにも可愛くてさ、めちゃくちゃ興奮してきた」 司馬昭の手がスカートの裾に伸び、太腿を撫で上げるようにして捲り上げた。白い太腿をむっちりと包み込むニーソックスの感触を確かめるように何度も撫で回し、徐々に手の平を上へと移動させていく。 「あっ…。だ、だめ、です……そこは……」 「どうしてだよ?こんなに可愛いのに。もっと中まで触りたくなるだろ」 ニーソックスの上から内腿に指を這わせていると、名無しの口から小さな悲鳴が上がる。 「やっ……あぁんっ……!だ、だって、捲れたら……見えちゃうから……」 「んー?何が見えるって?」 「で、ですからその、下着……が……」 消え入りそうな声で訴えるものの、司馬昭は構わず愛撫を続ける。太腿からお尻にかけてのラインを執拗になぞられ、そのたびに名無しの腰がびくびくと震える。 「ふーん、下着ねえ。ちなみに、メイドさんはどんなもん履いてんの?見せてみろよ」 意地悪く尋ねられた名無しは哀れな程に頬を紅潮させて、首を何度も横に振る。 「いや…ぁ…、恥ずかしい、です……。そんなの、見せられません……!」 「なんでだよ。ご主人様の命令が聞けないのかよ?な……、いいだろ」 主人に甘い声で促され、名無しは視線を彷徨わせた。その表情は明らかに迷っている様子であったが、やがて観念したように小さく頷く。 「わ、わかりました」 名無しはベッドの上で両ひざを立てて座り直し、『どうぞ……』と言っておずおずとスカートの裾を両手で摘まんで持ち上げる。 ───セルフスカート捲り。 女が自分の側からスカートを捲り上げ、恥ずかしそうに俯きながら男の面前に下半身を曝け出す。これぞエッチで背徳的で卑猥な男の夢。 それだけでも『おおっ!』と歓声を上げてしまうほどにテンション爆上がりの光景だが、普段は楚々とした雰囲気を纏った彼女が見せる淫靡な姿に司馬昭の喉がゴクリと鳴る。 [TOP] ×
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